記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ

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落ちた

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「私を偽装結婚でも契約結婚でもいいから、その相手として利用してくれ。君の縁談除けになるだろう?」

 泣き虫なヘタレ元旦那からの、あり得ないほどに高待遇な偽造結婚の提案に心が揺れている私。というか、偽造結婚は犯罪っぽいから、契約結婚と言おうよ。
 あまりにも私が優遇され過ぎている内容で、何か裏があるのではと、この人を疑ってしまうくらいだ。
 ほぼ初対面のこの人をどこまで信用していいのか…。

「その内容だと、将軍閣下には何の利益もないと思います。一体、何が目的なのでしょうか?」

「信じてもらえないと思うが…、私は君を守りたい。それに君に償いがしたいと思っている。君との約束は書面に書いて契約書にする。必ず守るようにしたいし、君の家族が安心出来るように、望むものは極力受け入れるようにもしたい。」

 ああ…、なんて高待遇。これは…。いや!あの事をハッキリさせないと!

「契約結婚とはいえ、一応は結婚ですよね。結婚する以上は、跡継ぎを周りから望まれるでしょう。しかし私は体に不安があるので、子供は望めないかも知れません。だからといって愛人を持たれるのも嫌なのです。
 将軍閣下は、そこはどう考えているのでしょうか?」

「私は子供ができなくても気にしない。親戚から養子を迎えればいいのだし、私には親兄弟はいないから、身近なところで跡取りについて煩く言ってくる者もいない。社交の場で嫌な思いをすることがあれば、私がいくらでも盾になる。愛人なんていらない。
 そのことも、きちんと契約書に明記する。愛して欲しいだなんて、図々しいことも言わない。ただ君の側で君を守りたいんだ。」

 真っ直ぐに私を見つめる将軍閣下。この瞳は嘘はついてなさそうに見える。

 ああ、神様。誘惑に負けそうです…。
 いやいや、こんな泣き虫でヘタレの将軍閣下で、私を守れるのか疑問なんだけど!

「あの…。すごく有難い申し入れだと思いますが、本当に守って頂けるのでしょうか?失礼なことを申しますが、将軍閣下の泣いている姿ばかりを目にしていましたので、少し不安があるような気がしまして…。」

「……そうだよな。いつも君の前では情けない姿ばかりを見せていた。それで守るなんて言っても信用出来ないか。でも、君を想う気持ちは本気なんだ。
 君が嫌ならすぐに離縁に応じる。だから私に君に償う機会をくれないか?お願いだ!」

 もう無理。誘惑に負けました。

「…………はい。」

 ほぼ初対面で、前に元クソ旦那と心の中で呼んでいた男に、私は落とされてしまった。


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