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閑話 マーティン侯爵 18
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クラーク侯爵家に見舞いに行って、少し経つ頃。
「クラーク侯爵から聞いたのだが、クラーク嬢がしばらく療養で王都を離れるらしい。この前、見舞いに行った時に感じたが、私達が思う以上に彼女は傷付いているようだな。」
「療養ですか。領地に戻るのでしょうか?」
「いや、夫人の別荘が港町にあるらしくて、そこに向かうと行っていた。」
貴族が王都を離れる時は、行き先と出発日を、必ず国王陛下に届けなければならない決まりがあるのだ。
「…そうですか。」
「1週間後に経つと言っていた。手紙でも書こうかと思う。…どうする?」
「……そうですね。」
1週間後。
私は、近衛騎士と一緒に、王都の出入り口の検問所付近で、クラーク侯爵家の馬車を待っていた。
王都を出る時は、必ずここを通る決まりになっているのだ。
しばらく待っていると、護衛騎士に囲まれて走る馬車が来る。
「あれがクラーク侯爵家の馬車ですね。停めて来ます!」
近衛騎士がすぐに動いてくれ、馬車が停止する。陛下からの遣いと聞いたからだろうが、すぐにソフィア嬢が馬車から出て来てくれた。
「クラーク侯爵令嬢。突然申し訳ありません。陛下より、こちらを預かって参りました。」
陛下から預かってきた手紙を渡す。
そして、クラーク侯爵家に見舞いに行った時に、借りたハンカチのお返しとして用意していた物を、受け取って欲しいとお願いする。
「気にされなくても大丈夫でしたのに…。でも、せっかく用意して下さったので、頂いてもよろしいでしょうか?」
そう言って、優しく微笑んで受け取ってくれたのだった。
プレゼントと言う程の物ではないのだが、私が用意した物を、初めて受け取ってもらえたことが、とにかく嬉しく感じた。
「ありがとうございます。わざわざ、こんな場所まで来て頂いて…。陛下にも、よろしくお伝え頂けますでしょうか?」
君は、こんな時にも、私達を気遣う優しさがあるのだな…。
「勿論です。…クラーク侯爵令嬢、どうかお気をつけて。貴女が元気になって帰って来るのを、ずっとお待ちしております。」
君が、心から笑うことが出来る日を、私はずっと待ちたいと思う。
「…っ。…はい。ありがとうございます。騎士様達もお気をつけてお戻り下さいませ。それでは、ご機嫌よう。」
ソフィア嬢が、涙を堪えていることに気づいてしまった。そんな彼女の姿を見るのが、こんなに辛いとは…。
馬車が走っていくのを黙って見送る。
「…そんなに好きなら、強引に自分のモノにしてしまえばいいじゃないですか?」
「そうですよ。将軍って身分はお飾りですか?そんな泣きそうな顔して。こっちが切なくなりそうですよ。」
「………煩い。」
陛下が可愛がっている近衛騎士の2人も、私の心の傷を抉る悪魔らしい。
ソフィア嬢が港町に療養に行ってから、少しして。
「ディラン。システィーナ国の大公から、礼状が届いた。」
「システィーナ国ですか?何があったのです?」
貿易大国であり、我が国の友好国の1つでもある。
「大公の令嬢が、船旅の途中で具合が悪くなり、港町に緊急で停泊したらしい。その時に、たまたま通りかかった令嬢が治癒魔法で助けてくれたらしいのだが、名も名乗らずに去ってしまったので、礼が出来なかったと書いてある。」
「…ソフィア嬢ですね。」
「だよな。手紙に書いてある、髪や瞳の色などの特徴も彼女と一致しているし。礼がしたいから、令嬢を探して欲しいと書いてある。大公には、クラーク侯爵令嬢だと知らせるか。」
そんな出会いが、あんなことになるとは…。
「クラーク侯爵から聞いたのだが、クラーク嬢がしばらく療養で王都を離れるらしい。この前、見舞いに行った時に感じたが、私達が思う以上に彼女は傷付いているようだな。」
「療養ですか。領地に戻るのでしょうか?」
「いや、夫人の別荘が港町にあるらしくて、そこに向かうと行っていた。」
貴族が王都を離れる時は、行き先と出発日を、必ず国王陛下に届けなければならない決まりがあるのだ。
「…そうですか。」
「1週間後に経つと言っていた。手紙でも書こうかと思う。…どうする?」
「……そうですね。」
1週間後。
私は、近衛騎士と一緒に、王都の出入り口の検問所付近で、クラーク侯爵家の馬車を待っていた。
王都を出る時は、必ずここを通る決まりになっているのだ。
しばらく待っていると、護衛騎士に囲まれて走る馬車が来る。
「あれがクラーク侯爵家の馬車ですね。停めて来ます!」
近衛騎士がすぐに動いてくれ、馬車が停止する。陛下からの遣いと聞いたからだろうが、すぐにソフィア嬢が馬車から出て来てくれた。
「クラーク侯爵令嬢。突然申し訳ありません。陛下より、こちらを預かって参りました。」
陛下から預かってきた手紙を渡す。
そして、クラーク侯爵家に見舞いに行った時に、借りたハンカチのお返しとして用意していた物を、受け取って欲しいとお願いする。
「気にされなくても大丈夫でしたのに…。でも、せっかく用意して下さったので、頂いてもよろしいでしょうか?」
そう言って、優しく微笑んで受け取ってくれたのだった。
プレゼントと言う程の物ではないのだが、私が用意した物を、初めて受け取ってもらえたことが、とにかく嬉しく感じた。
「ありがとうございます。わざわざ、こんな場所まで来て頂いて…。陛下にも、よろしくお伝え頂けますでしょうか?」
君は、こんな時にも、私達を気遣う優しさがあるのだな…。
「勿論です。…クラーク侯爵令嬢、どうかお気をつけて。貴女が元気になって帰って来るのを、ずっとお待ちしております。」
君が、心から笑うことが出来る日を、私はずっと待ちたいと思う。
「…っ。…はい。ありがとうございます。騎士様達もお気をつけてお戻り下さいませ。それでは、ご機嫌よう。」
ソフィア嬢が、涙を堪えていることに気づいてしまった。そんな彼女の姿を見るのが、こんなに辛いとは…。
馬車が走っていくのを黙って見送る。
「…そんなに好きなら、強引に自分のモノにしてしまえばいいじゃないですか?」
「そうですよ。将軍って身分はお飾りですか?そんな泣きそうな顔して。こっちが切なくなりそうですよ。」
「………煩い。」
陛下が可愛がっている近衛騎士の2人も、私の心の傷を抉る悪魔らしい。
ソフィア嬢が港町に療養に行ってから、少しして。
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「…ソフィア嬢ですね。」
「だよな。手紙に書いてある、髪や瞳の色などの特徴も彼女と一致しているし。礼がしたいから、令嬢を探して欲しいと書いてある。大公には、クラーク侯爵令嬢だと知らせるか。」
そんな出会いが、あんなことになるとは…。
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