記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

手紙

　治癒魔法は強力らしく、あっさりと効果が現れた。
　女の子の顔色は良くなり、呼吸も安定したように見える。

「アンリ！ああ…、良かった。本当に…、良かった。」

　女の子がすぐに目を覚ましたのだ。

「お父様？……お腹すいた。」

　女の子はクリクリの水色の瞳で、なんて可愛いの！お腹すいただって！
　もう！美味しい物が沢山あるから、金持ちパパに何でも食べさせて貰いなさい。

「もう、大丈夫そうですね。」

　若い医師が安心した表情を見せる。女の子のパパは涙を流しながら、女の子をぎゅっとしている。愛されているのね。あれだけ可愛ければ、溺愛するのは当然か！

　親子の時間を邪魔するのは悪いので、さっさと帰ろう。

「私はこれで失礼しますわね。」

　近くにいた医師に、そっと伝える。

「あの…、ありがとうございました。名前を教えて頂けませんか？」

「近くに住む者ですわ。わざわざ名乗る程の者ではありせん。では、失礼します。」


　診療所の外で待っていてくれたメイド達の元に戻る。

「お嬢様！心配しておりました。大丈夫でしたか？」

「大丈夫だったわ。ランチで食べたご馳走のおかげかしら？また、美味しい店を見つけたら教えてね。」

「はい！早速ですが、近くに美味しいスイーツの店があると聞きました。おやつに買って帰りませんか？」

　何ですって？

「今すぐに行きましょう！」

「「はい！」」

　その後、スイーツのお店に行き、別荘で留守番をしている他の使用人や、騎士達の分のケーキを沢山買い込んで、別荘に帰って来た私達。

　美味しいケーキを皆んなで頂いた後、昼寝をして、読書して、散歩して…。のんびり、楽しい生活を満喫している私だった。



　そして、ここでの生活に慣れた頃。

「お嬢様、国王陛下から手紙が届いています。」

「えっ？」

　別荘の家令がサラッと言っているけど、国王陛下って言ったよね？
　何で陛下から手紙が来るのよ！あの陛下も暇なのかしら？
　…この鷲の紋章は間違いなく王家からだ。しかも、この別荘にいるのがバレているのが恐ろしい。

　今度は何だって…？どれどれ？

〝先日、システィーナ王国の大公から、我が国に礼状が届いた。船旅の途中、大公の令嬢が具合が悪くなり、我が国の港に緊急で停泊したようだ。その時に、蜂蜜色の髪に緑色の目の美しい令嬢が、治癒魔法で大公の令嬢の治療をしてくれたらしい。しかし、その令嬢は名前も名乗らずにすぐに立ち去ってしまったらしく、お礼が出来なかったことを後悔しているようだ。〟

　……私か！！


〝大公はその令嬢を探しているらしく、私に協力を求めてきた。その令嬢はクラーク侯爵令嬢だよな？港町の別荘で今バカンスをしていて、蜂蜜色の髪に緑色の目で、治癒魔法が得意な令嬢は、我が国には君しかいないからな。ということで、大公には、クラーク侯爵令嬢だと知らせておいた。近いうちに、大公から何らかの接触があるだろう。システィーナ王国は我が国とは友好関係にあるから、大丈夫だろうとは思うが、よろしく！〟

　金持ちパパだと思ったら、あの大国の大公様だったのね。

　…しかし陛下！何がよろしくだ？