記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ

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逃げられない

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「ねぇ、ダイアナじゃなくてソフィアさん?休日中に何があったの?」

 今は月曜日の昼休み。アマリアさんの寮の部屋に来て、テイクアウトしたサンドイッチを食べている。勿論、2人きり。

 今日から公爵家の別邸から通勤することになった私。
 治療院に豪華な馬車で乗り付け、護衛騎士数人に付き添われてやって来た私を見て、みんな驚いていた。

 仕事前に院長にみんな集められ、私が訳あって偽名を使っていたが、実はクラーク侯爵家の令嬢で、エドワーズ公爵と婚約したこと。仕事は今後も続けていくので、エドワーズ公爵からは、くれぐれも婚約者をよろしく頼むと言われていることなどが説明される。
 公爵様は神殿に挨拶に行くとは言っていたけど、ここまで皆に説明しなきゃならない程、何かをしたの?やり過ぎだからー!

 いきなりこんな発表があったから、みんなかなり驚いていたようだ。特に親しくしていたアマリアさんは、何事なの?みたいな反応だった。

 アマリアさんには、正直に話すようにした。

 皆んなで飲んだ後、1人でナイトマーケットを見ていたら、公爵様に捕まり、婚約話をされ、純潔を奪われ、実家の両親の許可をもらって、正式に婚約することになったと。この近くの別邸に急遽住むことになり、昨日、寮を退去したこと。公爵様が神殿に、挨拶に来た話もだ。

「エドワーズ公爵様ってアーサーさんのお兄様になる方でしょ?アーサーさんが、ソフィアがここにいるって知らせたのかしら?」

「…怖くて聞いてないのですが、恐らくそうかと。最近、アーサーさんに監視されているような気がしていましたし。」

「えっ?監視されていたの?」

「ナイトマーケットで買い物をしていると、気付くと近くにいることが多くて。監視かなぁと。」

「それって、危険な人物が近づかないように見ていてくれただけじゃないの?」

「うーん?私はアーサーさんに嫌われていたから、そんなことはないと思っていましたが。」

「でも、エドワーズ公爵様って、すごい情熱的な方なのね!そこまで強引に婚約話を進めるほどに、ソフィアが好きだってことでしょ?愛されてるわねー。金持ちと結婚できるんだから、幸せになりなさいよ!」

 幸せになるというか、あの強引な公爵様から自力で逃げ出すことなんて、まず無理だろうね。隙もなさそうだし。

 アマリアさんは、そこまで深く愛されての婚約ならば、祝福したいみたいな感じで喜んでくれたようだ。

 しかし聖騎士達のお兄さん達は、私に対して腫れ物のような扱いをするようになった。エドワーズ公爵が怖いのか、クラーク侯爵家に気を遣っているのかは分からない。でもなぁ、聖騎士の中には優しいお兄さんもいたけど、馴れ馴れしい人とか、しつこい人もいたから、別にいいか。
 治療師の友人達やおばちゃん達は、元々、訳あり令嬢だと気付いていたよと言って、今までと変わらなかったから有り難かった。

 しかしオリバーさんは、元々はソフィアさんの幼馴染だったからか、相変わらずだった。呼び方が、ダイアナからソフィアになっただけ。ただ、何か言いたそうな顔をしているような気がする。もう、婚約者がいる立場なので、2人きりで話す事はないだろうなぁ。

 アーサーさんとは、怖くてまだ目を合わせていない。
 未来の義理の弟になる方だが、もう第一印象が最悪過ぎてダメ!次に何かキツいことを言われたら、キレて手が出てしまう自信があるし。極力関わらないようにして、どうしても話をしなきゃいけない時は、必ず公爵様がいる所で話すようにしよう。それが、煩い小舅とのトラブル回避のためだと思う。
 公爵様には長生きしてもらわないとね。何かあったら、あの義理の弟になる人と、遺産やら、爵位やらでモメるの嫌だもん!


 そして終業時間になり、迎えの馬車の場所にいくと、

「ソフィー、お疲れ様。今日は早く仕事が終わったから、ソフィーに早く会いたくて迎えに来てしまったよ。」

 満面の笑みの公爵様が待っていてくれた。
 ちょっとー!他の人が沢山いる前で、抱きしめたりしないでー。

「こ、公爵様!お迎えありがとうございます。あの、他の方々が見ていて恥ずかしいので、程々にして下さいませ。」

「すまない。我慢出来なかった…。じゃあ、帰るか!」

 その現場を離れて見ていた、アマリアさんやおばちゃん達に翌日言われた言葉がある。ソフィアは絶対にエドワーズ公爵様から逃げられないわねと。

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