記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ

文字の大きさ
上 下
56 / 133

逃げられない

しおりを挟む
「ねぇ、ダイアナじゃなくてソフィアさん?休日中に何があったの?」

 今は月曜日の昼休み。アマリアさんの寮の部屋に来て、テイクアウトしたサンドイッチを食べている。勿論、2人きり。

 今日から公爵家の別邸から通勤することになった私。
 治療院に豪華な馬車で乗り付け、護衛騎士数人に付き添われてやって来た私を見て、みんな驚いていた。

 仕事前に院長にみんな集められ、私が訳あって偽名を使っていたが、実はクラーク侯爵家の令嬢で、エドワーズ公爵と婚約したこと。仕事は今後も続けていくので、エドワーズ公爵からは、くれぐれも婚約者をよろしく頼むと言われていることなどが説明される。
 公爵様は神殿に挨拶に行くとは言っていたけど、ここまで皆に説明しなきゃならない程、何かをしたの?やり過ぎだからー!

 いきなりこんな発表があったから、みんなかなり驚いていたようだ。特に親しくしていたアマリアさんは、何事なの?みたいな反応だった。

 アマリアさんには、正直に話すようにした。

 皆んなで飲んだ後、1人でナイトマーケットを見ていたら、公爵様に捕まり、婚約話をされ、純潔を奪われ、実家の両親の許可をもらって、正式に婚約することになったと。この近くの別邸に急遽住むことになり、昨日、寮を退去したこと。公爵様が神殿に、挨拶に来た話もだ。

「エドワーズ公爵様ってアーサーさんのお兄様になる方でしょ?アーサーさんが、ソフィアがここにいるって知らせたのかしら?」

「…怖くて聞いてないのですが、恐らくそうかと。最近、アーサーさんに監視されているような気がしていましたし。」

「えっ?監視されていたの?」

「ナイトマーケットで買い物をしていると、気付くと近くにいることが多くて。監視かなぁと。」

「それって、危険な人物が近づかないように見ていてくれただけじゃないの?」

「うーん?私はアーサーさんに嫌われていたから、そんなことはないと思っていましたが。」

「でも、エドワーズ公爵様って、すごい情熱的な方なのね!そこまで強引に婚約話を進めるほどに、ソフィアが好きだってことでしょ?愛されてるわねー。金持ちと結婚できるんだから、幸せになりなさいよ!」

 幸せになるというか、あの強引な公爵様から自力で逃げ出すことなんて、まず無理だろうね。隙もなさそうだし。

 アマリアさんは、そこまで深く愛されての婚約ならば、祝福したいみたいな感じで喜んでくれたようだ。

 しかし聖騎士達のお兄さん達は、私に対して腫れ物のような扱いをするようになった。エドワーズ公爵が怖いのか、クラーク侯爵家に気を遣っているのかは分からない。でもなぁ、聖騎士の中には優しいお兄さんもいたけど、馴れ馴れしい人とか、しつこい人もいたから、別にいいか。
 治療師の友人達やおばちゃん達は、元々、訳あり令嬢だと気付いていたよと言って、今までと変わらなかったから有り難かった。

 しかしオリバーさんは、元々はソフィアさんの幼馴染だったからか、相変わらずだった。呼び方が、ダイアナからソフィアになっただけ。ただ、何か言いたそうな顔をしているような気がする。もう、婚約者がいる立場なので、2人きりで話す事はないだろうなぁ。

 アーサーさんとは、怖くてまだ目を合わせていない。
 未来の義理の弟になる方だが、もう第一印象が最悪過ぎてダメ!次に何かキツいことを言われたら、キレて手が出てしまう自信があるし。極力関わらないようにして、どうしても話をしなきゃいけない時は、必ず公爵様がいる所で話すようにしよう。それが、煩い小舅とのトラブル回避のためだと思う。
 公爵様には長生きしてもらわないとね。何かあったら、あの義理の弟になる人と、遺産やら、爵位やらでモメるの嫌だもん!


 そして終業時間になり、迎えの馬車の場所にいくと、

「ソフィー、お疲れ様。今日は早く仕事が終わったから、ソフィーに早く会いたくて迎えに来てしまったよ。」

 満面の笑みの公爵様が待っていてくれた。
 ちょっとー!他の人が沢山いる前で、抱きしめたりしないでー。

「こ、公爵様!お迎えありがとうございます。あの、他の方々が見ていて恥ずかしいので、程々にして下さいませ。」

「すまない。我慢出来なかった…。じゃあ、帰るか!」

 その現場を離れて見ていた、アマリアさんやおばちゃん達に翌日言われた言葉がある。ソフィアは絶対にエドワーズ公爵様から逃げられないわねと。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。

豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」 「はあ?」 初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた? 脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ? なろう様でも公開中です。

処理中です...