上 下
43 / 133

閑話 エドワーズ公爵 6

しおりを挟む
 公爵邸に帰ると、ダイアナことソフィア嬢が出て行ってしまったと報告を受ける。

 一体何があったのだ……?愕然とする私。
 その時に邸の中から、騎士団から帰って来たらしい弟が出て来る。

「兄上、お帰りなさい。あの愛人は出て行きましたよ!…いい加減に目を覚ましてください。兄上は公爵なのです。きちんとした家柄の御令嬢と婚姻をしなければならないのに、愛人が邸で囲われているなど、あってはならないのです。」

 弟の言葉で、全てを理解した。

「…誰が愛人だ?」

「……兄上がベッタリだったという、あの女ですよ!」

「お前が追い出したのだな?」

「追い出したのではありませんよ。私はただ、兄上は、きちんとした家柄の令嬢と結婚することになるからと、お前は邪魔になるから、早いうちに出て行くようにと言っただけです。そしたら、兄上に挨拶もしないで、すぐに出て行ってしまったのです。兄上に良くしてもらっていたくせに、別れの挨拶もしないで出て行くなんて、非常識な女ですね。出て行ってもらって良かったと思いますよ。」

「…………。」

 怒りを通り越して、言葉が出て来なかった。

「…兄上?今はお辛いかもしれませんが、兄上の一時の気の迷いだったのです。兄上にはもっとふさわしいお方がいるはずです。」

 まさか今までかわいがっていた弟に、彼女との関係を壊されるとは……。
 気づくと私は弟に剣先を向けていた。

「何をするのです?私は兄上を心配し……」

「黙れ!何が心配だ?彼女は私の命の恩人であり、私が愛する大切な人だ。両親からも婚約の許可を得ている。身分だって名門侯爵家の令嬢だ!訳あって一時的にうちで保護していたのに、愛人呼ばわりして追い出すとはな!」

「……それは本当ですか?」
 
 弟の顔色が悪くなる。

「私がお前に嘘をつく必要はないだろう。…いいか?明日、彼女の家族が彼女に会いにくる予定だった。記憶を失くして、行方不明になっていた彼女に会えることを、彼女の家族はそれは楽しみにしていた。なのに、お前はそれをぶち壊したのだ。明日、彼女の家族が来たら、お前は彼女に何をしたのかの説明をしろ!お前に、有る事無い事を吹き込んだ奴と一緒にな!分かったら、さっさと自分の部屋に戻れ!お前の顔など見たくない!」

 弟は死んだような表情で部屋に戻って行った。

 絶対に許すものか!私の大切なソフィア嬢を愛人呼ばわりして追い出すなんて…。弟じゃなかったら、本当に斬りつけていただろう。

 弟に事実無根を吹き込んだ者は、家令とメイド長が知っていそうだ。さっさと処分したいが、今はソフィア嬢を捜索するのが先だ。

 騎士団を使って、彼女が向かった駅周辺を捜索するが、彼女は見つからなかった。駅員にも訪ねるが、駅の利用客が多くて分からないと言われてしまう。街中で聞き込みもした方が良さそうだが、余りにも時間が遅いので、今日はもう無理そうだ。明日また捜索するしかない。

 どうか無事でいてくれ……。

 
 その日は彼女が心配で一睡も出来なかった。



 そして、次の日。
 
 ソフィア嬢が公爵邸から出て行ってしまったことを、クラーク侯爵家とマーティン将軍に知らせる。何があったのかの説明をしたいと伝え、公爵邸に来てもらうことにした。
 その場にはもちろん、当事者の弟も同席させた。弟は、名門クラーク侯爵家の跡継ぎのクラーク卿と、国王陛下の最側近のマーティン将軍を見て、更に顔色を悪くしていた。

 自分が愛人呼ばわりして、邸を追い出した令嬢が余りにも身分が高い家門の令嬢だったと知り、事の重大さに気付いたのだろう。しかもクラーク侯爵家は、私達王族ですら無視できないくらいの力を持つ家門だ。

 何も知らない相手だからこそ、もっと慎重に対応すべきであったのだ。それを大して調べもせず、ごく一部のバカな使用人の言葉だけを信用して、勝手に愛人呼ばわりして追い出した。
 今までかわいがってきた弟が、ここまで浅はかな行動をするとは。
 
 弟には本当に失望した…。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元アラサー転生令嬢と拗らせた貴公子たち

せいめ
恋愛
 侯爵令嬢のアンネマリーは流行り病で生死を彷徨った際に、前世の記憶を思い出す。前世では地球の日本という国で、婚活に勤しむアラサー女子の杏奈であった自分を。  病から回復し、今まで家や家族の為に我慢し、貴族令嬢らしく過ごしてきたことがバカらしくなる。  また、自分を蔑ろにする婚約者の存在を疑問に感じる。 「あんな奴と結婚なんて無理だわー。」  無事に婚約を解消し、自分らしく生きていこうとしたところであったが、不慮の事故で亡くなってしまう。  そして、死んだはずのアンネマリーは、また違う人物にまた生まれ変わる。アンネマリーの記憶は殆ど無く、杏奈の記憶が強く残った状態で。  生まれ変わったのは、アンネマリーが亡くなってすぐ、アンネマリーの従姉妹のマリーベルとしてだった。  マリーベルはアンネマリーの記憶がほぼ無いので気付かないが、見た目だけでなく言動や所作がアンネマリーにとても似ていることで、かつての家族や親族、友人が興味を持つようになる。 「従姉妹だし、多少は似ていたっておかしくないじゃない。」  三度目の人生はどうなる⁈  まずはアンネマリー編から。 誤字脱字、お許しください。 素人のご都合主義の小説です。申し訳ありません。

前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!

Akila
ファンタジー
旧題:前世持ち貧乏公爵令嬢のワクワク領地改革!私、イイ事思いついちゃったぁ〜! 【第2章スタート】【第1章完結約30万字】 王都から馬車で約10日かかる、東北の超田舎街「ロンテーヌ公爵領」。 主人公の公爵令嬢ジェシカ(14歳)は両親の死をきっかけに『異なる世界の記憶』が頭に流れ込む。 それは、54歳主婦の記憶だった。 その前世?の記憶を頼りに、自分の生活をより便利にするため、みんなを巻き込んであーでもないこーでもないと思いつきを次々と形にしていく。はずが。。。 異なる世界の記憶=前世の知識はどこまで通じるのか?知識チート?なのか、はたまたただの雑学なのか。 領地改革とちょっとラブと、友情と、涙と。。。『脱☆貧乏』をスローガンに奮闘する貧乏公爵令嬢のお話です。             1章「ロンテーヌ兄妹」 妹のジェシカが前世あるある知識チートをして領地経営に奮闘します! 2章「魔法使いとストッカー」 ジェシカは貴族学校へ。癖のある?仲間と学校生活を満喫します。乞うご期待。←イマココ  恐らく長編作になるかと思いますが、最後までよろしくお願いします。  <<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。

豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」 「はあ?」 初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた? 脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ? なろう様でも公開中です。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

処理中です...