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閑話 マーティン侯爵 10
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エドワーズ公爵から出てきた言葉に唖然とする。
「私は彼女を愛しているということだ。クラーク侯爵家には、近いうちに正式に婚約を申し込みたい。」
愛しているだなんて、そんな関係なのか?そんな言葉は聞きたくないと思った。
「イーサン!それは本気で言っているのか?」
「陛下!私は彼女に命を助けてもらったのだ。何もなく、ただ公爵家の仕事をするだけの私に、希望を与えてくれたのは彼女だし、彼女と一緒にいるだけで、私は幸せを感じることが出来る。両親にも許可を取っているし、身分がハッキリしないなら、分家に養女として入ってもらってから、婚約するつもりでいた。彼女は魔力が強く、光魔法の使い手なので、そんな彼女と結婚したいと伝えたら両親はとても喜んでくれた。…私は本気ですよ。」
……頭が痛くなってきた。ちらっと見ると、クラーク卿も、顔が引き攣っている。
「イーサンがそこまで言うなんて…。ああ、ずっと苦しんでいた腕の怪我を治してもらったのだな。しかし白い結婚は、マーティン将軍だけが悪いわけではないのだ。だから、マーティン将軍がクラーク侯爵令嬢に謝る機会を与えることは許してくれ。」
「マーティン将軍が彼女に謝罪?今更なぜ?」
陛下は、エドワーズ公爵に私達に起こった出来事を説明してくれた。私が彼女とやり直したいと思っていることも。
「…なるほど。それは不幸だったな。しかし、彼女を守れなかったのは、きちんと向き合わなかった将軍の責任だ。謝罪したいならすれば良い。だが、彼女が将軍に会うのを拒否するなら、私は彼女の意思を尊重するつもりだ。」
「…分かりました。」
「エドワーズ公爵閣下。ソフィアは望まない結婚により不幸になったことで、きっと心に深い傷を負っています。私達家族は、ソフィアを早く家に連れて帰りたいのです。すぐに迎えに行きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「クラーク侯爵家がそれを望むなら、私は拒否することは出来ない。しかし、もしも彼女がクラーク侯爵家に帰ることを拒むようなことがあれば、無理に急いで連れて帰るようなことはしないで欲しいと思う。彼女は記憶を失くしているのだろう?家族だからといきなり現れても、彼女にとっては初対面の人物に見えるのだろうからな。」
「もしソフィアが拒否するようなら、家族として認めてもらえるまでは、無理には連れて帰ろうとは考えていません。しかし未婚の侯爵令嬢を、長期間、公爵家に置いてもらうということは、私達家族にとって、心苦しくもあるということを、ご理解頂けると有難く思います。それと、私達は今度こそソフィアには幸せになってもらいたいと考えておりますので、本人が望まない縁談は受けるつもりはありませんので、よろしくお願い致します。」
「クラーク侯爵家の立場は理解しているつもりだ。それに、私はまだ彼女に自分の気持ちをきちんと伝えていないし、彼女は私を後見人としか思っていないようだ。しかし、彼女の身分がハッキリしたなら、もう遠慮せずに自分の気持ちは伝えていくようにしたいと思っている。それは許してくれ。それで、彼女の父君のクラーク侯爵は?きちんと挨拶がしたいのだが?」
「挨拶ですか?随分と急いで縁談の話を進めたがっているように見えますが、義父は簡単にソフィアとの婚約は認めないと思いますよ。義父の親友の子息である、将軍閣下を助ける為に義父が婚姻させたのに、大切なソフィアは命を狙われ、不幸になったのですからね。義父は憔悴していますし、義母は婚姻させた義父に激怒して、義父を邸で謹慎させているのですよ。ですから、次の縁談話は簡単には進まないと考えて下さい。」
あの切れ者で恐ろしいと言われる、クラーク侯爵を謹慎させるとは。あの名門のクラーク侯爵家で1番怖いのは、ソフィア嬢の母の侯爵夫人だったらしい。陛下も絶句している。
「エドワーズ公爵閣下、先にソフィア・クラーク侯爵令嬢が無事であることを確認させて頂きたい。」
とにかく、すぐに彼女に会って、元気でいるのかを確認したいと思った。
「分かった。今日は時間的に難しいが、明日以降ならば大丈夫だろう。」
そして、後日エドワーズ公爵家に伺うことになる。
突然、家族だとか元婚姻関係者だとかが現れたら驚くだろうからと、エドワーズ公爵がソフィア嬢に説明してから会わせたいと。
エドワーズ公爵とは、良好な関係なのか…?。何だが心が痛む。
今更だが、あの食堂で見たソフィア嬢に私は惹かれていた。今のソフィア嬢をもっと知りたいと思うのは、私の我儘なのか?
いや。とにかく彼女に会ったら跪いて謝ろう。手紙のことも、結婚前に本当はずっと遠くから見つめていたことも、ソフィア嬢と結婚出来て嬉しかったことも。話すことが許されるなら、全部正直に伝えたいと思う。
そんなことを考えていた私の所に、嫌な連絡が来たのは、エドワーズ公爵と王宮で会った次の日のことであった。
ソフィア嬢が、エドワーズ公爵が登城している間に、公爵邸から出て行ってしまったと。
「私は彼女を愛しているということだ。クラーク侯爵家には、近いうちに正式に婚約を申し込みたい。」
愛しているだなんて、そんな関係なのか?そんな言葉は聞きたくないと思った。
「イーサン!それは本気で言っているのか?」
「陛下!私は彼女に命を助けてもらったのだ。何もなく、ただ公爵家の仕事をするだけの私に、希望を与えてくれたのは彼女だし、彼女と一緒にいるだけで、私は幸せを感じることが出来る。両親にも許可を取っているし、身分がハッキリしないなら、分家に養女として入ってもらってから、婚約するつもりでいた。彼女は魔力が強く、光魔法の使い手なので、そんな彼女と結婚したいと伝えたら両親はとても喜んでくれた。…私は本気ですよ。」
……頭が痛くなってきた。ちらっと見ると、クラーク卿も、顔が引き攣っている。
「イーサンがそこまで言うなんて…。ああ、ずっと苦しんでいた腕の怪我を治してもらったのだな。しかし白い結婚は、マーティン将軍だけが悪いわけではないのだ。だから、マーティン将軍がクラーク侯爵令嬢に謝る機会を与えることは許してくれ。」
「マーティン将軍が彼女に謝罪?今更なぜ?」
陛下は、エドワーズ公爵に私達に起こった出来事を説明してくれた。私が彼女とやり直したいと思っていることも。
「…なるほど。それは不幸だったな。しかし、彼女を守れなかったのは、きちんと向き合わなかった将軍の責任だ。謝罪したいならすれば良い。だが、彼女が将軍に会うのを拒否するなら、私は彼女の意思を尊重するつもりだ。」
「…分かりました。」
「エドワーズ公爵閣下。ソフィアは望まない結婚により不幸になったことで、きっと心に深い傷を負っています。私達家族は、ソフィアを早く家に連れて帰りたいのです。すぐに迎えに行きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「クラーク侯爵家がそれを望むなら、私は拒否することは出来ない。しかし、もしも彼女がクラーク侯爵家に帰ることを拒むようなことがあれば、無理に急いで連れて帰るようなことはしないで欲しいと思う。彼女は記憶を失くしているのだろう?家族だからといきなり現れても、彼女にとっては初対面の人物に見えるのだろうからな。」
「もしソフィアが拒否するようなら、家族として認めてもらえるまでは、無理には連れて帰ろうとは考えていません。しかし未婚の侯爵令嬢を、長期間、公爵家に置いてもらうということは、私達家族にとって、心苦しくもあるということを、ご理解頂けると有難く思います。それと、私達は今度こそソフィアには幸せになってもらいたいと考えておりますので、本人が望まない縁談は受けるつもりはありませんので、よろしくお願い致します。」
「クラーク侯爵家の立場は理解しているつもりだ。それに、私はまだ彼女に自分の気持ちをきちんと伝えていないし、彼女は私を後見人としか思っていないようだ。しかし、彼女の身分がハッキリしたなら、もう遠慮せずに自分の気持ちは伝えていくようにしたいと思っている。それは許してくれ。それで、彼女の父君のクラーク侯爵は?きちんと挨拶がしたいのだが?」
「挨拶ですか?随分と急いで縁談の話を進めたがっているように見えますが、義父は簡単にソフィアとの婚約は認めないと思いますよ。義父の親友の子息である、将軍閣下を助ける為に義父が婚姻させたのに、大切なソフィアは命を狙われ、不幸になったのですからね。義父は憔悴していますし、義母は婚姻させた義父に激怒して、義父を邸で謹慎させているのですよ。ですから、次の縁談話は簡単には進まないと考えて下さい。」
あの切れ者で恐ろしいと言われる、クラーク侯爵を謹慎させるとは。あの名門のクラーク侯爵家で1番怖いのは、ソフィア嬢の母の侯爵夫人だったらしい。陛下も絶句している。
「エドワーズ公爵閣下、先にソフィア・クラーク侯爵令嬢が無事であることを確認させて頂きたい。」
とにかく、すぐに彼女に会って、元気でいるのかを確認したいと思った。
「分かった。今日は時間的に難しいが、明日以降ならば大丈夫だろう。」
そして、後日エドワーズ公爵家に伺うことになる。
突然、家族だとか元婚姻関係者だとかが現れたら驚くだろうからと、エドワーズ公爵がソフィア嬢に説明してから会わせたいと。
エドワーズ公爵とは、良好な関係なのか…?。何だが心が痛む。
今更だが、あの食堂で見たソフィア嬢に私は惹かれていた。今のソフィア嬢をもっと知りたいと思うのは、私の我儘なのか?
いや。とにかく彼女に会ったら跪いて謝ろう。手紙のことも、結婚前に本当はずっと遠くから見つめていたことも、ソフィア嬢と結婚出来て嬉しかったことも。話すことが許されるなら、全部正直に伝えたいと思う。
そんなことを考えていた私の所に、嫌な連絡が来たのは、エドワーズ公爵と王宮で会った次の日のことであった。
ソフィア嬢が、エドワーズ公爵が登城している間に、公爵邸から出て行ってしまったと。
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