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閑話 マーティン侯爵 6

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「将軍職を辞職したいだって?」

 若き国王陛下は、私の言葉に驚きを隠せないようだった。

「…はい。理由は先程話した、ソフィア・クラーク侯爵令嬢の責任を取るためです。どうかお許し下さい。」

「ダメだ。私はまだ即位して間もない。そのような時に、側近のお前が辞めたなんて、貴族派の格好の餌食になる。それに、騎士達だって納得しないだろう。辞めた理由を探りに貴族達が、色々な噂をするだろうし、ソフィア・クラーク侯爵令嬢が行方不明だということがバレたら、クラーク侯爵家にも良くない。将軍職を辞職するということは、そんな簡単なことではないのだ。分かってくれ!」

 やはり難しいか。しかし私は今すぐにでも、彼女の捜索に向かいたいのだ。

「私のせいで、彼女は不幸な思いをし、更には行方不明になっているのです。今すぐにでも捜しに行きたいのです。」

「しかし令嬢は、記憶を無くしているって、日記に書いてあったと言っていたよな。お前がもし彼女を見つけても、令嬢はお前の顔を知らないだろ?何って言うのだ?『君と婚姻無効になったディラン・マーティンです。』とでも名乗るのか?お前のしたことは、許されることではないが、もう少し冷静に考えろ。」

「確かに許されないでしょう。彼女に何があったのかを、今更調べようとして教会に行けば、『例え侯爵様であっても、私達は弱者のために存在するので、何もお話しする事は出来ない』と相手にされず…。彼女が病院へ行ったと聞いて、病院の医師に話を聞きにいけば、『頭に怪我をされ、痩せ細って、まともに食事も取れていないようでした。』と言われて、彼女への虐待を疑われたのです。…私は社会的にも信用を失うことをした。そんな彼女の日記には、『死にたい』とまで書いてあって、私と結婚したばかりに、彼女は不幸になった…。今の私が彼女の為に出来る事は、捜し出して謝罪して、許されるなら償わせて欲しいということだけです。」

「だから、きちんと向き合えとずっと言っていただろう。しかし、戦後処理や将軍職が多忙だったのは、こちらの責任でもあるからな。将軍職は辞めさせられないが、休暇を多めにやろう。令嬢のことで何か必要な時は、私も力になる。それでいいか?」

「……分かりました。陛下のご配慮に感謝致します。」

「…そう言えば、ベイカー子爵が離縁したらしい。夫人の不貞がバレたらしいぞ。しかも、令嬢も子爵の子ではなかったようで、2人は子爵家を追い出されたようだ。ベイカー子爵は1人ぼっちになったようだな。このタイミングで子爵家に何があったんだろうな?」

 ベイカー子爵は娘を溺愛していたのに、追い出したのか…。ふと、クラーク侯爵夫人の顔が浮かんだ。潰すとは言っていたが、仕事が早いな。やはり、クラーク侯爵家は怖い。

「さあ?クラーク侯爵夫人にでも聞いて下さい。」

「ベイカー子爵はクラーク侯爵家を怒らせたようだな。まあ、ベイカー子爵が悪いのだから、私達は黙って見てよう。」

 陛下は悪魔だ。評判の悪いベイカー子爵を、あっさりと切り捨てるつもりだ。


 そして、後日。クラーク侯爵家から、捕らえたメイド長から、拷問で聞き出したことを教えてもらうことが出来た。
 ソフィア嬢をマーティン侯爵家から追い出すために、ベイカー子爵家から命令を受けて動いていたこと。仲違いさせる為に、私からの手紙は渡さないようにしたこと。ソフィア嬢宛の手紙も、孤立させる為に本人には渡さなかったこと。体が弱いソフィア嬢が、更に弱るような食事にしたこと。外部とは接触させないように、夜会や茶会の日には毒で体調を悪くして、出席させないようにしたこと。侯爵が邸に戻らないのをいいことに、メイドや使用人を使って虐めたこと。

 自分を呪いたくなった…。


 しばらくして。

 ベイカー子爵が、邸で首を吊って亡くなっているのが発見される。
 近くには、遺書らしきメモが置いてあり、元夫人の不貞行為への怨みや、可愛がっていた娘が、自分の子供ではなかったことに対しての苦しみ。また、投資に失敗して、多額の借金があることなどが書いてあったらしい。
 遺書の筆跡が、ベイカー子爵本人の物と認められたことで、自殺と判断されたようだ。

 自殺なのか、他殺なのか。投資に失敗したのか、詐欺に合ったのか。真意は分からない。

 そのまま、ベイカー子爵家は取り潰しになる。


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