記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

助けてくれた人

　店に来たゴテゴテの貴族令嬢に絡まれる私。

　しかし、レン様と言われても誰だか分からない。

「お嬢様、レン様という方は私の知り合いにはいないのですが、人違いではないでしょうか？」

「何ですって？知り合いじゃないと言って誤魔化すつもり？レン様本人が言っていたのよ！好きになった人がいるから、君とは結婚出来ないって！しかも、平民で食堂で働いている人だって！貴女しかいないでしょ！」

「レン様という方は、うちの店のお客様なのでしょうか？しかし、どの方なのかは私は存じ上げていないのですが。」

「誤魔化すのもいい加減にしなさいよ！」

　パチンとビンタされる私。うっ、痛ーい！こんな令嬢なんて、簡単に投げ飛ばせそうだが、そんなことをしたら貴族令嬢に店を潰されそうだし、私は捕まっちゃうよね？我慢だ、我慢だぞ、私。うっ、辛いぜ！
　その時だった。

「御令嬢！私はイーサン・エドワーズという者だ。君はどちらの御令嬢だ？」

　何と、前に食事をご馳走してくれた騎士様が来てくれた。

「えっ？エドワーズ公爵様」

　令嬢が驚いている。

「私が名前を名乗っているのだが？」

　うわー、怖いわ！迫力あるもん。令嬢は焦り出している。

「…エマ・ヒューズと申します。」

「ヒューズ子爵家か！で、貴女の婚約者のレン様とは誰のことだ？」

「それは……、レイモンド・シモンズ様ですわ。」

「シモンズ伯爵家のレイモンドか！私の友人だ。ああ、君はレイモンドの従兄妹か？」

「はい！私をご存知でしたのね。」

「ああ、レイモンドから聞いてるよ。昔から一方的に付き纏って来て、勝手に婚約者だと言いふらす、大嫌いな従兄妹がいるって言ってたな。君のことだな？」

　令嬢は自分を知っていてくれて、嬉しいみたいな表情だったのに、一瞬にして表情が険しくなってしまった。

「そ、そんなことはありませんわ。」

「いや、レイモンドがよく言ってるぞ！あんなに嫌われていても付き纏うなんて、逆効果だから止めた方がいい。でも、レイモンドの気持ちが分かったよ。一方的にやって来て、言い掛かりを付けて、暴力まで振るう令嬢なんて、誰だって関わりたくないだろう？君がしたことは、私からレイモンドに伝えておくからな。ちなみにこの店は、私の知り合いの店だし、彼女も私の友人だ。私の友人に暴力を振るったとヒューズ子爵には、正式に抗議させて頂く！それと、今後は彼女に近づくな！また危害を加えたら、今度は社交界に居られなくしてやるからな。分かったか？」

　いやー、キツいわね！令嬢は勢いを無くして、泣きそうだ。
　そして、店の中には沢山のお客さんがいるのに、公爵様が怖すぎて、シーンとしてしまった。助けてくれたのは嬉しいけどね。まさか、公爵様がこんな庶民の店の常連だとは思わないだろうし、びっくりするよね。
　
「………。」

「分かったのかと聞いているが？」

「は、はい。申し訳ありませんでした。…失礼します。」

　しかし、私は見た！令嬢は立ち去る間際に一瞬、私を睨んでいた。みんなの前で恥をかかされて、私の存在は面白くないだろうね。

「…騎士様、ありがとうございました。助けて頂いて、嬉しかったです。」

「ああ、気にするな。殴られたところは大丈夫か？しかし、あの女はあそこまで言ったのに、君を睨んでいたな。ヒューズ子爵にはかなり強めに抗議して、あの女をきちんと教育するように伝えておくから安心しろ。それと、レイモンドがきっかけらしいから、レイモンドにも色々聞いておくからな。」

「本当にありがとうございました。」

　食事を済ませて、公爵様は帰って行った。

　そして、後日。店が営業を終えた後に、騎士様がやって来る。