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楽しい毎日

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 仕事にも少しずつ慣れてきた私は、調理の補助までやらせてもらえることになった。
 元々、料理は好きだったから嬉しい。火の魔法で調理の火もつけられるようになったし、ボブさんとアンナさんは、仕事が楽になったと喜んでくれた。

 もうすぐ邸から逃走して1ヶ月経つ。不健康そうに痩せ過ぎだった私は、美味しいご飯と、適度に体を動かす仕事のおかげで、健康そうで女性らしい体型になってきたようだ。

 落ち着いて来たので、偽名を使ってお世話になったシスターに近況報告の手紙を出してみよう。無事に届くといいな。

 店が忙しい時は、裏方だけではなくて接客もこなすようになる。前世、ファミレスでバイトしたことがあるから、接客に抵抗はないのよ。アンナさんは何が心配しているようだったけど、逃げ出して1ヶ月になるから大丈夫だと思う。痩せ細っていた私だから、侯爵や私の実家の人達は、私がその辺で野垂れ死んでいると思っているだろうし。
 
 そして街中にあるこの店は、近くに騎士団や官公署があるらしく、ランチの時間帯はとにかく混むのだ。だから、アンナさんだけの接客では大変そうなので、手が空いている時は躊躇わずに手伝うようにしている。

「いらっしゃいませ。お客様、何名様でしょうか?3名様ですね。こちらのお席にどうぞ。」

 ファミレスって、接客態度や言葉遣いに厳しいよね。ついつい、その時の言葉遣いで接客してしまう。そして、お客様には笑顔で接客するという前世日本人の私。例え、街中の庶民向けの食堂だろうと、そこはブレないわよ。

「最近、アナ目当てのお客さんが増えたねぇ。アナはいい看板娘だよ。」

「アナ!この店は若い騎士とか、文官が多いからな。嫌な事をされたら、俺に言えよ。」

 アンナさんもボブさんも、か弱そうに見える私を心配してくれている。しかし、中身は前世で体育会系のお転婆娘だからね。

 騎士とか文官みたいな人達はそこまで酷い人はいない。それより図々しいおじちゃんの方が、絡んできて面倒だ。セクハラまがいのことをしたり、口にしたりする人もいる。しかし、そんなの気にしていられない。笑ってスルーしたり、忙しいフリをして立ち去るようにしている。
 そして、割と若い騎士様や文官風の人達が親切だと思う。

「お嬢さん、さっきは大丈夫でしたか?本当に大変な時は、自分を呼んでください。外に連れて行きますから。」

 まあ!若い騎士様は正義感が強いのね。こういう人は、いざという時に役に立ってくれそうだから、仲良くしておこう。割と打算的な私。でも、生きて行く為にはしょうがないよね。

「騎士様、ご親切にありがとうございます。とても嬉しいですわ。いざという時は、頼りにさせて頂きたいと思います。」

 前世の私とは違って、今は自称美少女なのだ。可愛く見えるように、微笑んでおくことを忘れない私。

「……っ!自分で良ければ、いつでも呼んで下さい。」

 若い騎士様は顔が赤くなっていた。

 結局、男の人は可愛い子に弱いのよね。前世で、いくら料理が上手くても、家事が得意で、いいお母さんになれるって褒められても、見た目が男の子みたいで、気の強すぎる私は、全くモテなかった。
 あの時に、よく可愛い子になりたいって思ったよね。神様は、そんな前世の私の願いを叶える為に、このソフィアさんに転生させたのかな。でもソフィアさんも不幸な結婚で、幸せそうじゃなかったみたいだし。まあ、いいや。これからは自由に生きて行くから。ソフィアさん…、許してね。

 しかし、街中の食堂で働く美少女というのは、自分の知らないところで噂になっていたらしい。
 しかも、ファミレス風の接客や言葉遣いが、平民には見えなかったようで、没落した貴族の娘ではないかと騎士達が噂していたようだ。

 

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