君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした

せいめ

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 ナイトレイ公爵様は、学生時代に悪魔と呼んでいた時とは別人のようになってしまった。
 優しくて気遣いの出来る婚約者だと思うし、私の家族とも仲良くしてくれているから有難い。

 問題があるとしたら、何でも早く進めようとするところだと思う。

 実は婚約期間は、この国では急いでいても一年くらいはとるのだが、なぜか三ヶ月後くらいに結婚したいと言い出して面倒だった。

「公爵様、婚約期間は普通は一年だったかと思います。
 なぜ三ヶ月後に婚姻なのです?婚約から結婚までの期間が短すぎると、子ができてしまったとか、変な勘違いをされそうで嫌ですわ。
 しかも、教会にすでに挙式の予約を入れたって本当ですか?」

 まだ結婚していないのに、もうすっかり鬼嫁に戻ってしまった私。

「エレノア。私達は元々は学生時代からの付き合いなのだから、今更、婚約期間を長くとる必要はないと思う。
 私は早くエレノアと結婚したいと思っている。
 これだけは許して欲しい。」

 そんな子犬のような目で訴えても鬼嫁には通用しないのよ。

「はあ?早く結婚したいと言っても、準備というものがありますのよ。
 三か月で新居の準備は出来ませんし、招待状だって早めに出すのが礼儀です。
 しかも、三ヶ月後はちょうど決算期で私の仕事が忙しいので、無理ですわ。」

「私はどうしても早くエレノアと結婚がしたい。
 君とこうなるまで、私がどれくらい待ったと思う?早くエレノアを私の妻にしたい。
 分かって欲しい。お願いだ。」

 ブチっ!
 何かがキレた私…。

「今すぐにマテオをここに呼んでくれるかしら?」

「畏まりました。」

 鬼嫁は、決算期の私がいかに多忙なのかを第三者に説明させるために、私の秘書官のマテオを呼んでもらうことにした。

「……エレノア、マテオって誰だ?」

 公爵様の表情が一変したのが分かった。
 あ…、名前が一緒だったわ。

「私の秘書官ですわ。彼に私がいかに多忙なのかを説明してもらいましょう。」

「マテオって…。私の名前は呼んでくれないのに。」

 余計に面倒になったかしら。

 マテオは平民出身の一つ下の秘書官だ。若いのにとにかく優秀。
 平民には王室ファンが多くいるらしく、王子や王女の名前は縁起がいいと考えて、自分の子供にも同じ名前をつける人が多くいると聞いた。自由な平民らしい発想だと思う。
 だからマテオという名前は、この国では名付けランキングで上位だと思われる。

 私に呼ばれたマテオは、気まずそうに私の仕事が三ヶ月後にいかに忙しいのかを、分かりやすく説明してから、さっさと退室して行った。
 余程この場に長居したくなかったのね…。

「エレノア、三ヶ月後に忙しいのは分かった。ならば、四ヶ月後にしよう。」

 一ヵ月しか変わらないじゃないのよ。

「マテオの話をちゃんと聞きましたか?決算期の前後はそれなりに忙しいことを分かってくれないのですか?」

「またマテオって…。」

 この公爵様は、実は嫉妬深い人間なのだ。
 平民は家名がないのだから、名前で呼ぶのはしょうがないでしょうが!

 ちっ!しょうがない。

「結婚を一年後にしてくださるなら、公爵様を『テオ』って呼びたいですわ…」

「え…?」

「テオ、お願い!一年後にしましょう。
 婚約期間中、恋人のように過ごせたら嬉しいですわ。」

「……っ!………分かった。
 エレノア、もう一回…呼んでくれないか?」

「テオ、分かってくれてありがとう。大好きです。」

「エレノア、私も大好きだ!婚約期間は沢山デートしような。」

「ええ、テオ。約束しましょうね。」


 恐らく私達は、ちょっとしたバカップルに見えているかもしれない…。

 中身はいい歳のおばちゃんで鬼嫁だけど、時々、状況に応じてあざとい女になった方が上手くいくことが分かったので、こんな感じで公爵様とは仲良くやっていこうと思う。

 こんな私だけど、公爵様からは痛すぎるほどの溺愛が伝わってくるから可愛いと思うし、私も公爵様への愛情が芽生えてきたことに気づいた。
 うっかり優しい婚約者を好きになってしまったことに、自分自身が一番驚いている。

 その後、ウエディングドレスや結婚指輪のデザインを決めるのに、公爵様がまた自分の拘りを主張してきて軽い喧嘩のようになったが、公爵様の義姉の王妃殿下が、ボロクソ言ってくれて、ド派手なドレスや、存在感のあり過ぎる結婚指輪はなんとか回避することができた。
 そのかわり、盛大な結婚式を挙げることは我慢してあげることにした。
 二度目の結婚式だから私としては控えめな結婚式を望んでいたが、公爵様本人や陛下達は盛大に挙げたいようだし、王族の結婚式なのだから、地味には出来ないのは理解しているつもりだ。


 そして…


 あっという間に一年が経ってしまい、結婚式当日を迎える。
 この国で一番大きな教会で、この国の貴族がほぼ勢揃いの結婚式だ。王弟の結婚式だから、仕方がないのは知っているが、盛大過ぎて若干引き気味の私だ。

 招待客の中には、公爵様と私の学生時代の友人達や先生方は勿論、他国の大使もいるし、招待するのが微妙なロジャース伯爵様や、社交禁止期間を終えたキートン子爵夫人(エイベル伯爵令嬢)も多分来ていると思われる。でも招待客が沢山すぎて、直接顔は合わせないだろうから、ある意味で助かるわね。


「ノア…。バージンロードをお父様と一緒に歩くのは、これで最後にしてくれ。」

 二回目だからね…

「お父様、分かっています。今までありがとうございました。」

「幸せになりなさい…。」

「はい。」

 教会の扉が開き、お父様とバージンロードを歩き出す。
 向かった先には、満面の笑みで私を待つ公爵様がいた。


 緊張してあまり覚えていないが、結婚式は何の問題もなく終えて、その後のパーティーは友人や親族達と楽しい時間を過ごせたと思う。
 
 しかし、パーティーの時に私は見てしまった。離れた場所から、スナイパーのような目で私を見ていたキートン子爵夫人を。
 隣にいるのはご主人?確かに年の差カップルって感じだね。ゴリラというか…、まあ、雰囲気はゴリラかもしれない。騎士様らしくガタイがいい方のようだ。

「エレノア。あの女を気にしているようだが、予定よりも早く王宮への立ち入り禁止を解いてやるかわりに、エレノアと私への接近禁止令を出して、私達には近づけないようにしておいた。
 夫のキートン子爵や実家のエイベル伯爵家にも、きちんと監視するようにと念を押しておいたよ。
 だから、もう前のように絡まれたりはしないと思うから心配しなくて大丈夫だ。それに、子爵夫人と公爵夫人の身分の差も大きいからな。
 あの目つきは私達に対して不敬だとは思うが、私が守るから安心して欲しい。」

 接近禁止?そこまで出来るなんて、仲良しの兄である陛下にでも頼んだのかな?

 いつもは強気な鬼嫁でも、夫が私を守ろうとしてくれているのは嬉しかった。

「ありがとうございます。
 これからも私を守ってくださいね。旦那さま!」

「勿論だ。一生エレノアを守るよ。」



 そして結婚初夜を迎える。



 あの時のように『君を愛することはない』ということは言われなかった。
 そのかわり、思い出しただけで恥ずかしくなるようなことを沢山言われた。

 多分…、これが幸せな初夜というもので、頭がお花畑だった頃のエレノアが切望していたことなのだと思う。


 結婚生活は、あの時とは違って幸せだと実感できるものだった。公爵様は変わらず優しいし、私が仕事をすることを応援してくれる。

 それでも時々、夫婦喧嘩というか、鬼嫁の私がブチギレることはある。
 公爵様にブチギレした私を見たチャーリーやエリーが、王弟殿下にブチギレるなんて…と、私に引いていたようで、可愛い2人に鬼の姿を見せてしまったことを少しだけ反省したことがあった。

 夫婦喧嘩したとしても、必死に私のご機嫌とりをしてくる旦那様が可愛いから許してしまう私。
 この旦那様ならこの先も仲良くやっていけるかな…。

 
 ということで、私はそれなりに幸せなので、今後は、可愛い義弟のギルの花嫁探しを応援しようと思っている。
 


 




 おわり







 これで完結です。
 最後まで読んで下さってありがとうございました。



 
 
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