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私の知らなかったこと

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「エレノアってば、そんなに怒らないでちょうだい。」

「そうよー。あれはしょうがなかったのよ。」


 私は今、先日の観劇で寝落ちした私を放置して帰ってしまった友人達に文句を言っている。


「笑い事じゃないわよ。起こしてくれても良かったじゃないの!
 目覚めたらみんないなくなっていて、公爵様と2人で置いてけぼりとか、あの場にいた人達にジロジロ見られて恥をかいちゃったわよ。」

「エレノア、あれはね…事故だったのよ。」

「は?事故?」

「そうよ。実はね…、居眠りをしたエレノアは、初めは私の肩に寄りかかってきたのよ。」

「私はエイミーの肩に寄りかかったの?」

「そうなのよ。でも、流石に私も疲れてきちゃってね…。肩も凝ってきちゃって、困っていたのよ。
 そしたら、反対側に座っていたナイトレイ公爵様が気付いてくれたのよ。レディーでは支えるのは大変だから、エレノアは私に任せてくれって。
 だからナイトレイ公爵様の方に、エレノアの頭を少しだけ押して差し上げたら、エレノアの体は公爵様のしっかりした体に支えられて、ぐっすり気持ちよさそうに爆睡していたわ。」

「本当に気持ち良さそうにしていたわよね。」

「そうなのよねー。ナイトレイ公爵様もそんなエレノアを見て、無理に起こすのは可哀想だから、目覚めるまで私が付き合うから、みんなで先に行ってくれって言ってくれたのよ。」

 嘘でしょー!

「私が寝落ちしたのは悪かったけど、次にこのようなことがあったら、絶対に叩き起こしてちょうだい!」

「そんなこと言わないでよー。
 これがエイベル伯爵令嬢なら喜んでくれたのに。」

「そうよ。ナイトレイ公爵様に憧れている令嬢は沢山いるんだから、エレノアも喜びなさいよ。」

 そうだった…。学生時代から私の友人達は、ナイトレイ公爵様に対して好意的だったわ。
 …というか、学生時代、王子殿下という身分だけでなく、成績も良くて見た目イケメンのあの男はモテていたんだよね。友人も多かったみたいだし。

「いや…、私はいいかな。」

「まあ、確かに完璧な王子様だったナイトレイ公爵様はエレノアに対しては、ちょっと大人気なかったところはあったわよね。」

「学生時代はそうでも、今はすっかり落ち着いて、更に素敵になったじゃないの。
 エレノアは何が嫌なのよ?」

「学生時代、子供みたいな面倒な絡みをしてきたり、強引に生徒会に入れられて仕事を押し付けられたり、あまりいい思い出はないのよ。」

 生徒会があったせいで、放課後に友人と遊びに行くことは出来なかったし、恋人を作って放課後デートをするっていうことも出来なかったからね。

「ふふ!ナイトレイ公爵様も、あの頃はエレノアにどう接していいのか分からなかったのよ。」

「無理に接してくれなくて良かったのよ。
 話をしなくても、顔を合わせなくても、何ともない関係だったのだから。」

「「……。」」

 そんな残念な人を見るような目で見ないで欲しい。

「エレノア、今だから言えることなんだけどね。
 エイベル伯爵令嬢とよく喧嘩していた、ピンクの男爵令嬢のこと覚えている?」

「ああ!あの髪も目もピンクの、あざとい感じの男爵令嬢のこと?」

「そう!その令嬢がね、確かエレノアが風邪をひいて学園をお休みした時にね、目をウルウルさせて、『王子殿下ぁー、実はベネット伯爵令嬢に私はいじめられているのですぅ。』とか話をしている現場を見てしまったことがあったのよ!」

「あったわよね!そんなこと。面白そうだから、私達は隠れて見ていたのよね!」

「…えっ?あのピンク、私の文句言っていたの?」

「エレノア、怒らないでよ!話の続きを聞いてちょうだい。
 それを言われたナイトレイ公爵様はね、激怒したのよ!怖かったわよねぇー。」

「そうだったわね。ええと、確か…『エレノアはお前みたいな女を相手にするほど暇じゃない。私はエレノアを信じている。』とか言って、すごいキレていて本当に怖かったんだから。」

 ……嬉しいけど、嬉しくないような複雑な気持ちになるのは何でだろう?

「それに…、エレノアがロジャース伯爵様と婚約した時だってね、『あんな没落しそうな人と婚約するなんて。』って言って嘲笑う人達がいたのよ。それを黙らせていたのはナイトレイ公爵様よ。」

「そうだったわね…。『友人が選んだ人を貶すようなことを言うべきではない。』とか『友人の幸せを願うことも出来ないのか?』とか言って黙らせていたのよね。」

 そんな……

「私…、知らなかった。」

「私達も話さなかったからね。あの時のエレノアは、公爵様の話をすることすら嫌がっていたでしょ?」

「ナイトレイ公爵様は、完璧なように見えて、実は不器用なところがある方よね。それが面白いから、友人達には慕われていたのだと思うわよ。」

「この前の王家のパーティーだって、エレノアを守るためにパートナーをしてくれたんでしょ?
 優しい人じゃないの。」

「……そうね。優しい人なのかもしれない。」



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