上 下
112 / 125

弟をよろしく

しおりを挟む
 ダンスを一曲踊り終えた時だった。


「ナイトレイ公爵様。国王陛下と王妃殿下がお呼びでございます。」

 国王陛下とは、公爵様のお兄様ですよね…。

「今行く。ちょうど挨拶に行こうと思っていたんだ。
 エレノア、兄上に挨拶に行ってこよう。」

「…そうですわね。」

 公爵様は笑顔でいるけど、私はこのドレスのことで陛下達に迷惑をかけた話をデザイナーさんに聞いているから、何となく気不味いな…。

 ご機嫌で私の手を取って歩き出す公爵様。
 相変わらず、周りからは視線を感じるし。


 国王陛下と王妃殿下は、挨拶に来たと思われる沢山の貴族に囲まれていた。
 しかし、公爵様と私が来た事に気づいた貴族達は、サッと退いてくれ…、私達の目の前には、国王陛下と王妃殿下の元に続く一本道のようなものが出来ていた。

 何これ…?怖い。しかもまた注目されているし。
 そんな中でも、普通に堂々としている公爵様は凄いわ。こういうのって、育ちがでるよね。


「マテオ。パーティーは楽しんでいるか?」

「国王陛下のご配慮のおかげで、大変素晴らしい時間を過ごせております。」

「それは良かった。
 ベネット伯爵令嬢、今日は来てくれて感謝する。」

「国王陛下。御即位おめでとうございます。
 本日は、このようなおめでたい席にご招待してくださってありがとうございます。」

「ベネット伯爵令嬢、これからも弟をよろしくな。
 弟が贈ったドレスは、弟が必死に考えてデザインしたものなのだが、ベネット伯爵令嬢によく似合っているな。
 私と妃と母の3人で、デザインのアドバイスまでした甲斐があったよ。」

 国王陛下の声は、さすが一国一城の主なだけあって、堂々としたよく通る声をしている。
 なので…、その話は周りで聞き耳を立てている貴族達にも聞こえてしまっている訳で……

「まあ!公爵様がプレゼントしたドレスですって!」

「素敵だわー!」

「よくお似合いよね!」

 外野が騒がしくなるのが分かった。
 やめてー!私を見ないでー!

「あ、ありがとうございます。とても素敵なドレスで、た…、大切にしたいと思いますわ。」

 顔が引き攣りそうになりながら、この言葉を言うのが精一杯な私。

「兄上!余計なことをエレノアに話さないで下さい!」

 公爵様まで慌てているのか、さっきは〝陛下〟呼びしていたのに、〝兄上〟呼びに戻っているわ…。この兄弟って、仲が良いって聞くよね。

「マテオは初めて贈るプレゼントだからと、とにかく張り切っていたんだ。
 そのネックレスも私と妃は、重過ぎてベネット伯爵令嬢の首が可哀想だから程々にしろと話をしたのだ。しかし、それだけは折れてくれなかったんだよな。」

「ええ…。私はあまりに重過ぎると嫌われてしまうとまで公爵様には助言をしたのですが。
 ベネット伯爵令嬢は、あまりにも重い者はお好きではないでしょう?」


 王妃殿下まで…。


「な、何事も程々が一番かと思いますわ。」

「やはりそう思うでしょ?私も公爵様の義理の姉として、義弟があまり暴走しないように、気をつけて見守るようにしますから、これからも仲良くしてあげてね。」

「は、はい。」

「マテオ、良かったな。
 ベネット伯爵令嬢はお前と仲良くしてくれるそうだ。
 今度、マテオとベネット伯爵令嬢と私達で茶会でもしたいな。」

「そうですわね!近々、私からベネット伯爵令嬢に招待状を送りましょうね。」

「…こ、光栄ですわ。」






 その後、色々あったがよく覚えていない…。






 翌日。





「義姉さん…、もうナイトレイ公爵様で良いんじゃない?」

「は…?何言ってんのよ?」

 あのギルが真顔で話している。冗談を言っているようには見えない。

「昨日のパーティーで、国王陛下と王妃殿下、ナイトレイ公爵様に、完全に外堀を埋められてしまっていたじゃないか。
 国王陛下も、周りにアピールするようにわざわざあの場で、公爵様が義姉さんに贈ったプレゼントの話をしているし、王妃殿下も公爵様と仲良くしてあげてなんて言っていたでしょう?何より、あの独占欲の塊のようなネックレス…。
 私は友人達から、義姉さんと公爵様はいつ婚約したんだって聞かれたんだよ。
 とにかく、あの場にいた貴族達は、国王陛下と王妃殿下が公認のお付き合いをしているって思ったはずだろうね。」

「付き合ってないわ!」

「ナイトレイ公爵様ならいいと思うよ。一途な男って感じだし、仕事は出来るし、陛下とも仲がいい兄弟みたいだしね。
 義姉さんは、よくロジャース伯爵は私を金蔓としか思っていないとか口にしていたけど、公爵様なら王族で金持ちだから、金蔓にされる心配はなさそうだし。
 あの方なら、義姉さんを大切にしてくれそうな気がする。」

「ギルはあの男の差し金なの?」

「違うよ。……私は、たった1人の大切な義姉に幸せになって欲しいだけ。」

 ジーン…。

 ギルは今日も可愛いわ。

「義姉さん。ここだけの話なんだけど、少し前にボルチャコフ侯爵家から縁談の申込みがあったらしいよ。」

「え?あのしつこい侯爵子息?」

 ボルチャコフ侯爵子息は、ロジャース伯爵様と婚約する前にしつこくされて苦手だった子息だ。
 待ち伏せされたり、強引に人気のない所に連れて行かれそうになったり、大嫌いだったんだよね。

「白い結婚とはいえ、まだ別れたばかりだからと言って義父上は断っていたようだけど。
 あのしつこい男は簡単には諦めないだろうから、身分の高いナイトレイ公爵様が近くにいてくれたら便利かもね。」

「……。」


 正直なところ、あのしつこいボルチャコフ侯爵子息よりは、ナイトレイ公爵様の方が100倍マシだと思った私だ。
 


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

貴方様の後悔など知りません。探さないで下さいませ。

ましろ
恋愛
「致しかねます」 「な!?」 「何故強姦魔の被害者探しを?見つけて如何なさるのです」 「勿論謝罪を!」 「それは貴方様の自己満足に過ぎませんよ」 今まで順風満帆だった侯爵令息オーガストはある罪を犯した。 ある令嬢に恋をし、失恋した翌朝。目覚めるとあからさまな事後の後。あれは夢ではなかったのか? 白い体、胸元のホクロ。暗めな髪色。『違います、お許し下さい』涙ながらに抵抗する声。覚えているのはそれだけ。だが……血痕あり。 私は誰を抱いたのだ? 泥酔して罪を犯した男と、それに巻き込まれる人々と、その恋の行方。 ★以前、無理矢理ネタを考えた時の別案。 幸せな始まりでは無いので苦手な方はそっ閉じでお願いします。 いつでもご都合主義。ゆるふわ設定です。箸休め程度にお楽しみ頂けると幸いです。

別れてくれない夫は、私を愛していない

abang
恋愛
「私と別れて下さい」 「嫌だ、君と別れる気はない」 誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで…… 彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。 「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」 「セレンが熱が出たと……」 そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは? ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。 その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。 「あなた、お願いだから別れて頂戴」 「絶対に、別れない」

どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません

しげむろ ゆうき
恋愛
 ある日、婚約者アルバン様が私の事を悪く言ってる場面に遭遇してしまい、ショックで落ち込んでしまう。  しかもアルバン様が悪口を言っている時に側にいたのは、美しき銀狼、又は冷酷な牙とあだ名が付けられ恐れられている、この国の第三王子ランドール・ウルフイット様だったのだ。  だから、問い詰めようにもきっと関わってくるであろう第三王子が怖くて、私は誰にも相談できずにいたのだがなぜか第三王子が……。 ○○sideあり 全20話

処理中です...