君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした

せいめ

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最後の夜会 1

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 白い結婚まで残り約1ヶ月。

 伯爵家を出た後に住む予定の邸は、すでにリフォームを終わらせて家具も配置済み。
 邸のすぐ裏には、邸で働く使用人達の寮があって、その寮も綺麗にリフォームしておいたからバッチリ。
 邸で働く使用人は、お父様とお母様がすでに手配してくれていた。実家のベネット家の使用人の他に、新しく人を雇い入れるらしい。
 
 これでマイホームの準備は整ったから、伯爵家にある私の荷物をバレないように少しずつ運び出すことに決めた。


 苺ジャムの加工場の工事は始まったし、ジャムや高級ジュースを入れる瓶は、お洒落なデザインの瓶を特注で頼んである。現地の責任者と、ジャム作りの経験者を数名採用したし、パートで雇うおばちゃん達は領民から雇うことに決めた。ここまでくれば、あとは何とかなりそうだ。

 


 そして今夜は国王陛下の誕生祭の夜会の日。

 数日前からメイド達に磨かれ、今朝は早起きまでして最後の仕上げをされた私は、強制参加の夜会の準備を終えて、出発の時間を迎えた。
 
「奥様。旦那様が玄関ホールでお待ちになっております。」

「今行くわ。」

 ふふ…。伯爵様と夫婦として参加する夜会は、今夜が最後になるわね。



 玄関ホールで待ってくれていた伯爵様と一緒に馬車に乗り込む鬼嫁。


「エレノア、今日は久しぶりに君と2人きりで夜会に行けることを嬉しく思っている。
 これからはエレノアのエスコートは必ず私がするようにしたいし、次の夜会は私から君にドレスをプレゼントさせて欲しい。」


 は…?


「伯爵様。2人きりでいる時にまで、仲良し夫婦を演じなくても大丈夫です。
 プレゼントも私には必要ありませんわ。」
 
「仲良し夫婦など演じてない!
 私はただ君を大切にしたいと思っているだけだ。」


 今更何言ってんの?
 鬼嫁の血が騒いで、色々と言い返してやりたいところだけど、今から夜会に行くのに雰囲気を悪くしたくないし…。今は我慢よ、我慢!


「お気持ちだけ頂いておきますわ。」

「今更だと思っているか…。」

 ええ。その通り!

 言葉を返すことも面倒な鬼嫁は、聞こえていないフリをして、ひたすら窓の外を眺めることにした。


 お互い無言のまま、馬車は王宮に到着する。
 伯爵様にエスコートされて大広間に入るが、今日も視線が痛い。
 伯爵様とアブスが離縁して、初めての王宮の夜会だからかな。こんな状態で私が白い結婚で伯爵家を出て行ったなんて噂になったら、お騒がせ伯爵家だと思われてしまうな…。

「エレノア。今日はあの女との離縁のことで、また嫌なことを言われるかもしれない。
 私は今日はずっとエレノアの側にいるようにするが…。本当に悪いな。」

「いえ。伯爵様が1番お辛い立場なのは理解しておりますので、気になさらないで下さい。」

 どうせ来月には、私との白い結婚でまた色々言われるんだから、退場したアブスのことなんかいつまでも気にしていられないのよ。
 社交の場でいつも必ずと言っていいほど嫌味を言って絡んでくる、あのいけ好かないエイベル伯爵令嬢は、王子殿下が排除してくれたしね。
 王宮の夜会で嫌なことを言われたりしたら、また友人の王子殿下に相談という名目でチクるつもりでいるし。

「エレノア、ありがとう。
 私の妻が君で良かったと本当に思っているんだ。」


 うっ!鬼嫁のご機嫌取りのためにそんな事を言っているのだろうけど、あんまりそういうことを言われると、少しだけ心が痛むような気がする…。

 いや、絆されないわよ。
 私は大切な結婚初夜の日、この男に頭の中に向かって除草剤を撒かれたんだから!
 お花畑の住人のエレノアも、お花畑に咲いていた沢山の花達もみんな死んだんだからね。
 この結婚は後悔しかなかったんだから。
 時期が来たら、私はさっさと出ていくんだからね。



 そんなことを考えていたら、夜会が始まっていたようだ。

 国王陛下に誕生祭のお祝いをお伝えした後に、乾杯してダンスが始まる。


「エレノア、今日は私とダンスをしてくれるか?」

「はい。喜んで。」


 夫婦最後のダンスが始まる…。





 
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