君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした

せいめ

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 見た目小娘、中身はアラフォーおばちゃんのエレノアです。

 今日はロジャース伯爵領に来ています。
 勿論、愛のない旦那様と一緒に。


 いちごの加工場を建設する候補地を、領主代行をしているパーカー様が見つけてくれたので、私達はその場所を確認しに領地にやって来たのだ。


「エレノア、あそこの土地がカイルが加工場を建てるのに勧めていた場所だ。」

 その場所は、ちょうど住宅地と畑の間にある平坦な土地だった。
 見た感じは悪くなさそうだ。道が狭くはないから馬車で乗り入れするのに問題はなさそうだし、近くに決壊しそうな大きな川があるわけでもないし、土砂崩れが起きそうな山があるわけでもない。
 
「いい土地ですね。広くて平坦ですし。」

「元々は使っていなかった畑だったようだ。」

「では、私の方は加工場の建設をするために、本格的に動こうと思います。
 伯爵様、ありがとうございました。」

「エレノアが気に入ってくれたなら、カイルも喜ぶだろう。」


 その後は、整地した畑やパーカー様が植えてくれたレモンの木を見せてもらった。

 農家が既に育てていた苺の試食もさせてもらった。
 うーん…。やっぱり品種改良が進んでいた前世で食べた苺の方が、甘くて美味しかった気がする。
 不味くはないけど、この世界の苺はそのまま食べるよりもジャムにした方が無難ね。



 今夜も伯爵領にお泊まりだ。


 胡散臭い笑顔のパーカー様が、また夫婦の部屋に案内してくれる。
 ハァー。家庭内別居だから部屋を分けて欲しいと話をしたいくらいだわ。


「エレノア…。今夜は…、その…。」


 部屋の中で2人きりになった私に、伯爵様がモジモジと何かを言っている。


「今、お茶を運んで来てくれるらしいですから、少しお待ち下さいませ。」

「あ、そうだな…。」


 その後、お茶とフルーツが運ばれてくる。
 無言でお茶を飲み干す鬼嫁。そして、そんな私をチラチラと見ている伯爵様。

「伯爵様、何か私に話でもあるのでしょうか?」

「……話と言うほどではない。」

「そうですか。分かりました。」


 ならば結構。無理に聞き出す必要はないわね。

「いや、やはり…。その…。」


 ハッキリしろ!


「言いたいことがあるなら、ハッキリと言って頂けると助かりますが。」

「今夜は……、その…、2人で一緒に寝たい。私達は夫婦なのだし。」


 そんな恥ずかしそうに俯きながら言わないでよ。

 閨のことを言っているの?
 お飾りの妻にそこまで求めるか?最近、図々しくない?


「今夜は一緒の部屋で寝ますわ。それでよろしいですね?」

「エレノアは、またソファーで寝るとか言うのだろう?」

「ええ、勿論ですわ。」

「私達は夫婦なのだから、一緒のベッドで休むくらいは許して欲しい。」


 伯爵様はこの結婚の始まりに自分が何を言ったのかを忘れてしまったのね。
 ふぅー。久しぶりにあのセリフを言ってやるか。


「〝私は君を愛するつもりはない。結婚はしたが、伯爵家のために愛のない結婚をしただけだ。私から愛されたいとも思うな。〟私にそう言ったのは伯爵様です。
 結婚生活の初日に、伯爵様からそのように言われましたので、私は貴方からの愛は求めずに今までやってきました。
 初夜にそう話されたので、私との初夜を拒否されたのだと思いましたし、今後私と伯爵様は閨を共にしないのだと判断しました。
 もしそういうことをしたいと考えるならば、伯爵様が本当に愛する人となさって下さい。
 伯爵家の跡取りが必要なことは理解しておりますので、私は伯爵様が愛人や第二夫人を持つことには反対致しませんわ。」

 
 鬼嫁にそんな泣きそうな表情をしてもムダよ…

 泣きたいのはこの私だったんだから!
 あんなことを結婚初夜に言われたせいで、頭の中のお花畑は一瞬にして枯れてしまったんだからね。

 
「………本当に悪かった。」

「いえ。分かって下さるのならいいのです。
 私達は本物の夫婦にはなれませんでしたが、共同の事業をするパートナーとしては、仲良くやっていきましょうね。」

「それは分かっている…。」



 その日の夜も、私はさっさとソファーに横になって寝てしまった。




 その後、王都に戻った私は、加工場の建設計画や、加工場の責任者探しなどで忙しい日々を過ごすことになる。

 気がつくと、白い結婚を申請出来る日でもある、2度目の結婚記念日まであと1ヶ月になっていた。


 

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