君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした

せいめ

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私は変わりたい

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 お茶会は思っていたよりも楽しい時間だった。
 お開きの時間を迎え、帰ることになった鬼嫁。


「エレノア、また来てちょうだいね。楽しかったわ。」

「王妃殿下。私こそ、素晴らしい時間を過ごすことが出来ました。ありがとうございました。」

「エレノア…。馬車まで送る。ほら!」


 え?王子殿下がエスコートしてくれるの?
 『ほら!』って手を出されても、簡単に手を出して良い人ではないから困るのだけど…。


「エレノア、マテオは暇だから気にしないでエスコートしてもらいなさい。」


 暇そうには見えないよ…。
 でも、王妃殿下にそう言われたら…


「ありがとうございます。よろしくお願い致しますわ。」



 

 しかし…、しくじったわ。

 王子殿下にエスコートされて王宮内を歩くことが……、こんなに目立つことだったなんて!!

 王宮で働く文官や近衛騎士にさっきからチラチラと見られまくって嫌なんだけど。


「エレノアが来ると母上は喜ぶから、また来て欲しい。」

「勿論ですわ。」

「エレノア…。本当に辛い時は私を頼ってくれ。
 エイベル伯爵令嬢のことも、頼ってくれて嬉しいと思ったんだ。
 私は今までエレノアの気持ちを考えて行動出来なかったことを反省している。
 私は変わりたいと思う。だから…、エレノアにはこれからの私を見ていて欲しい。」


 なるほど…。


 今日はいつもより落ち着いていたし、あまり腹が立つことも言われなかったし、今までより親切になったとは思っていたけど…、20歳過ぎてやっと心を入れ替えることにしたのね。
 …だよねぇ。いつまでも子供では困るもん。
 こんなんでも一応は国王の息子なんだから。


「こんなにも頼り甲斐のある王子殿下が、私の友人でいて下さることを嬉しく思っておりますわ。
 友人である王子殿下には何でもお話しさせて頂きますし、勿論、遠慮なんて致しません。友人ですから。
 それに…、殿下が自分で変わりたいとお考えであるのなら、私は陰ながら応援させて頂きます。
 私こそ、これからもどうぞよろしくお願い致します。」

 ふふっ!

 絶対的な王族の権力を期待して、王子殿下にはいざという時に友人として助けてもらおう。
 おばちゃんの図々しい下心だけど許してね。


 ……アレ?


 王子殿下の様子が変だわ。何か顔が赤い。
 はっ!もしかしておばちゃんの下心がバレた?怒ってる?


「王子殿下…、私、もしかして殿下に失礼なことを言ってしまいましたでしょうか?」

「……っ!ち、違うんだ。
 エレノアがそんな風に私に笑いかけながら、嬉しいことを言ってくれたのは初めてのことだったから…、嬉しくて……。
 あ……、今のは忘れてくれ!これからも私と仲良くしてくれ。」


 私って、そんなに王子殿下に塩対応だった…?

 一応はこれからは仲の良い友人という設定で、いざという時はこの人の権力に助けてもらう予定でいるのだから、私も態度を改めないとね。


「王子殿下。私も自分が変われるように気をつけるようにしますわ。」

「エレノアはそのままでいい!」

 あっ、そうなんだ。それは良かったわ。



 馬車止めまで来たら、王子殿下の従者が息を切らせて走ってきた。

「殿下、何とか間に合いました!」

「ご苦労だったな。」

「いえ。」

 従者から何かを受け取る殿下。

「エレノア、お前の好きなアップルパイだ。
 焼き立てだから、帰ったらみんなで食べてくれ!」

「………。」

 この人どうしちゃったの?

「エレノア…?もしかして、食べ飽きてしまったか?」

 はっ!あまりにも衝撃的すぎて、言葉を失っていたわ。

「殿下…。私、すごく嬉しいです。
 王宮のアップルパイが本当に大好きですし、焼き立てを頂けるなんて……。
 幸せをありがとうございます。」

 バターの香るサクサクのパイ生地に、甘すぎないリンゴの入ったこのアップルパイが本当に好きなんだよね。
 焼き立てなんて最高に美味しいに決まっている!
 さっさと帰って、温かいうちに食べようっと!

「……そ、それは良かった。
 気をつけて帰るようにな。」

「はい。今日はありがとうございました。
 失礼致します。」


 今までと違いすぎる殿下と、パイを届けに来てくれた笑顔の従者に挨拶をして、焼き立てを早く食べたい私は、急いで帰ることにした。

 
 














「殿下。あそこまで喜んで頂けて、本当に良かったですねー。
 調理場から必死に走って来て良かったですよ。
 殿下…?顔がリンゴのようになってますよ。」

「…っ!煩いぞ!」



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