君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした

せいめ

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あの女が帰ってくる?

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 領地から王都に戻って来ると、アブス子爵家から伯爵様に手紙が届いていた。


 伯爵様を馬車から降ろした後、私は療養先である実家のベネット家にすぐ戻るつもりでいたのだけれど、アブスの実家からの手紙は気になるから、伯爵家でお茶を飲みながら手紙を読むことにした。



 応接室のソファーに座ると、アブス子爵家からの手紙を家令のトーマスが持ってきてくれる。

 伯爵様は手紙をペーパーナイフて開けると、自分は手紙を読まずに先に私に渡してくれる。

 アレ…。私が先に読んでいいの?一応、この邸で1番エライのは伯爵様なんだけど…。
 ま、いいか!

 この伯爵様は、すっかり鬼嫁に従順になったようだ。



 手紙の内容は予想通りの内容だった。



 アブスの体調が良くなったし、本人は伯爵家での今までの振る舞いについて深く反省しているようなので、そろそろロジャース伯爵家に戻らせて欲しいということが書いてあった。
 アブス本人が伯爵家に戻ることを強く望んでいて、正妻(ワタシ)に今後は絶対に無礼な態度は取らないと約束をしているので、今回は許して欲しいと書いてある。

 反省ねぇ…。
 どうせ伯爵様がいない所で、また私を睨みつけたりするんでしょうけど。


「伯爵様も読んでみて下さい。」


 手紙を読み始めた伯爵様は、見る見る顔色が悪くなってきた。
 やっぱり…、よほどあの女が嫌なのね。

 あの夜のことがトラウマになっているのかもしれない。
 今更冷静になって考えて見ると、男性の性被害ってヤツだよね。そうとは気付かずに、鬼嫁は酷いことを言ってしまったからなぁ。

 ちょっぴり心が痛むような気がする…。

 顔だけ男だとか、結婚詐欺師だとか散々ディスってきたけど、これだけは気の毒だとは思う。
 アブスもただの大人しい令嬢かと思っていたら、すごいヤバい女だったし。
 1番の被害者はこのワタシという考えは変わらないけどね。
 

「エレノアはどうしたい…?」


 いやー、私はさっさとこの邸から出て、独身に戻りたいと思っているのですけどね…。
 今はそのことは聞かれていないか。

 自分が辛いのに、私の意見を先に聞いてくれるなんて、伯爵様も少しは他人を思いやれる心を持てるようになったということかな…。

「あの女は危険ですから、放置は出来ませんわよ。
 しかしながら、伯爵様はどうしたいのですか?
 私は怒りませんから、正直に話して下さいませ。」

 伯爵様は力のない声で話し出す。

「私は……、私がこんな事を私が言える立場ではないが……、すぐにでも離縁したい。あの女とはすぐに縁を切りたい。
 私よりもエレノアの方が辛いのは分かってはいるんだ。でも私は…、私なりに…辛いのだ。
 今でもあの夜を思い出すと、気持ちが悪くなる。
 唯一良かったと思えるのは、あの女が妊娠していなかったということだ。あの女が子を成したとしても、自分の子だとは思えないだろうし、子に罪はなくても愛する自信はない。
 それくらいあの女が憎いのだ…。」

 伯爵様の表情を見ると、言っていることは本気なのだろうなとは思う。具合が悪そうな顔して話しているし。


 これはヤバいわ…。


 あの女が帰って来たりなんてしたら、またあの時のように具合が悪くなって、私に依存してきたりして。

 それは困る!また具合が悪くなられたら、離縁がしにくくなるじゃないの。

 私の計画を順調に進めるためには、何としても伯爵様には元気でいてもらわないと本当に困るの!!

 これは、アブスの不貞の証拠を掴んでいるギルに相談して早めに動いた方がいいわね。
 計画を立てるためにも、やはり私は1度実家に戻ろうか。


「伯爵様の気持ちは分かりました。そこまで落ち込まないで下さい。
 伯爵様に何かあったら、領民はどうなるのです?気持ちをしっかり持って下さいね。」

「ああ。エレノア…、ありがとう。」

「私はまだ療養中の荷物が実家に置いてあるので、今日は実家に帰らせて頂きますが、近々すぐにこの邸に戻って来ますから。
 伯爵様は領地視察の疲れをきちんと取るようにして下さい。
 トーマス、伯爵様は今日は早く休ませて下さいね。頼みましたよ。」

「奥様、畏まりました。」

「エレノア。実家に帰ってしまうのか?」

 ヤバい!伯爵様があの依存的になっていた時の表情になっている。
 ひぃー…。勘弁してぇ。

「は、伯爵様。近々戻りますから、大丈夫ですわ。」

「エレノア…、早く帰って来てくれ。頼む。」

「はは…。伯爵様はきちんと休んで下さいね。気をしっかり持つようにして下さい。
 メイド長。伯爵様がぐっすり眠れるように、ハーブティーでも淹れてあげて。」

「畏まりました。」




 焦った鬼嫁は、実家へと急いで帰るのであった。
 


 
 
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