君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした

せいめ

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初めての…

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 私達が普通の夫婦ではないことをパーカー様は知らないのかー。

 私達、サイフだけでなく寝室も別ですよって言える雰囲気じゃないな。



「こちらがお2人に泊まって頂く夫婦の寝室です。
 すぐにお茶をお持ちしますから、それまでゆっくりお過ごし下さい。」

「…ああ。ありがとう。」

「ありがとうございます。」

 胡散臭い笑顔のまま、パーカー様は行ってしまわれた。


「………。」

「…………。」


 特に話すことはないし、気を遣って話しかけようとも思わなかったので、普通に無言になってしまった。
 伯爵様も窓の外を眺めたままでいる。

 メイドのミサと護衛騎士は廊下に待機している。
 使用人はあまり夫婦の部屋には入って来ないのね。
 2人は、声を掛けてくれたらすぐに部屋に突入しますからと言ってくれていたが。

 突入って……

 恐らく、ギルから色々と指示されて来ているのだと思う。


 その後、ミサがお茶を運んで来るまでお互い無言で過ごす。

 今更気づくけど、結婚してこうやって2人きりでお茶を飲むのは初めてかも知れない…。
 私達って、本当に夫婦として終わってるよね。始まってもなかったけど。







 夕食を食べ、湯浴みを終えた後、また部屋に2人きりにされる。寝る時間というやつだ。


「………。」

「……。」


 しょうがないな……


「伯爵様。私はあちらのソファーで寝ますので、毛布を一枚もらいますね。伯爵様はベッドで寝てください。」

「………。」

 何なの…?その顔は。

「疲れましたので私は寝ます。イビキと歯ぎしりはしないと思いますのでご心配なく。
 も・し・も…、イビキや歯ぎしりで煩いと感じたら、起こして下さってかまいませんから。
 それではお休みなさいませ。」

 この伯爵様は、夜這いをするほどの肉食ではないから何の心配もなさそうだ。面倒な話をされる前にさっさと寝ちゃおう。

「エレノア、私がソファーで寝る!」

「大丈夫ですわ。あのソファーは大きいので、寝心地は良さそうですから。」

 そのまま何か言いたそうな伯爵様を無視して、毛布を頭までかぶって鬼嫁は深い眠りについた。







 

 翌朝、パチっと目覚めた私。


 ん、んー!よく寝たわ…。
 まだ少し早いから顔を洗って庭でも散歩して来ようかな。

 起き上がって洗面所に行き、洗面をした後、簡単に着れるシンプルなドレスを取り出して、隣の浴室に移動してサッと着替える鬼嫁。

 着替えを終えた後、伯爵様の寝ているベッドの方を見ると、まだ寝ているように見える。
 このまま伯爵様が目覚めるのを待つのは気まずいから、無難に散歩に行くのがいいよね。


 そっとドアを開けて廊下に出ると、護衛騎士のレイクス卿がいてくれた。

「もう大丈夫だから、部屋で休んでいていいわよ。」

「お嬢、そうはいきませんよ。」

 見た目によらず真面目な男だったわ。

「悪いわね。これから散歩でも行こうかと思うのだけど。」

「お供します。」

「ありがとう。」



 王都のタウンハウスとは違って、緑に囲まれた伯爵邸の庭は朝の散歩には持ってこいの場所だった。

 きっちりと手入れされているって感じではないけど、季節の花が咲き乱れでいて、小さな女の子だったら、お花の首飾りを作って遊びたくなるような雰囲気の庭だ。
 夏休みとかに泊まりに来たら、伸び伸び過ごせそう。子供なんかは喜びそうな場所だと思う。



「お嬢、そろそろいい時間かと思います。」

「そうね…。そろそろ戻りましょうか。」




 邸の玄関に行くと、あの男が待っていた。

「エレノア、心配したぞ!」

「伯爵様。おはようございます。
 早く目覚めましたので、庭を散歩して来ましたわ。
 ご心配をおかけしました。」

「目覚めたら君の姿が見えないし、専属メイドは行き先を知らないと言うし…。攫われてしまったのではないのかと不安になってしまった。」

 護衛騎士が一緒にいるんだから大丈夫だって。

「護衛が付いていますから大丈夫ですわ。」

「エレノア……、私を置いて黙って行かないでくれ。」

 泣きそうな顔して子供か!!



 その後、2人きりで朝食を頂いた。

 無言でひたすら新鮮な野菜や果物を食べる鬼嫁。産地最高だわ!

 朝食を伯爵様と一緒に食べたのも初めてです……





 
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