上 下
76 / 125

初めての…

しおりを挟む
 私達が普通の夫婦ではないことをパーカー様は知らないのかー。

 私達、サイフだけでなく寝室も別ですよって言える雰囲気じゃないな。



「こちらがお2人に泊まって頂く夫婦の寝室です。
 すぐにお茶をお持ちしますから、それまでゆっくりお過ごし下さい。」

「…ああ。ありがとう。」

「ありがとうございます。」

 胡散臭い笑顔のまま、パーカー様は行ってしまわれた。


「………。」

「…………。」


 特に話すことはないし、気を遣って話しかけようとも思わなかったので、普通に無言になってしまった。
 伯爵様も窓の外を眺めたままでいる。

 メイドのミサと護衛騎士は廊下に待機している。
 使用人はあまり夫婦の部屋には入って来ないのね。
 2人は、声を掛けてくれたらすぐに部屋に突入しますからと言ってくれていたが。

 突入って……

 恐らく、ギルから色々と指示されて来ているのだと思う。


 その後、ミサがお茶を運んで来るまでお互い無言で過ごす。

 今更気づくけど、結婚してこうやって2人きりでお茶を飲むのは初めてかも知れない…。
 私達って、本当に夫婦として終わってるよね。始まってもなかったけど。







 夕食を食べ、湯浴みを終えた後、また部屋に2人きりにされる。寝る時間というやつだ。


「………。」

「……。」


 しょうがないな……


「伯爵様。私はあちらのソファーで寝ますので、毛布を一枚もらいますね。伯爵様はベッドで寝てください。」

「………。」

 何なの…?その顔は。

「疲れましたので私は寝ます。イビキと歯ぎしりはしないと思いますのでご心配なく。
 も・し・も…、イビキや歯ぎしりで煩いと感じたら、起こして下さってかまいませんから。
 それではお休みなさいませ。」

 この伯爵様は、夜這いをするほどの肉食ではないから何の心配もなさそうだ。面倒な話をされる前にさっさと寝ちゃおう。

「エレノア、私がソファーで寝る!」

「大丈夫ですわ。あのソファーは大きいので、寝心地は良さそうですから。」

 そのまま何か言いたそうな伯爵様を無視して、毛布を頭までかぶって鬼嫁は深い眠りについた。







 

 翌朝、パチっと目覚めた私。


 ん、んー!よく寝たわ…。
 まだ少し早いから顔を洗って庭でも散歩して来ようかな。

 起き上がって洗面所に行き、洗面をした後、簡単に着れるシンプルなドレスを取り出して、隣の浴室に移動してサッと着替える鬼嫁。

 着替えを終えた後、伯爵様の寝ているベッドの方を見ると、まだ寝ているように見える。
 このまま伯爵様が目覚めるのを待つのは気まずいから、無難に散歩に行くのがいいよね。


 そっとドアを開けて廊下に出ると、護衛騎士のレイクス卿がいてくれた。

「もう大丈夫だから、部屋で休んでいていいわよ。」

「お嬢、そうはいきませんよ。」

 見た目によらず真面目な男だったわ。

「悪いわね。これから散歩でも行こうかと思うのだけど。」

「お供します。」

「ありがとう。」



 王都のタウンハウスとは違って、緑に囲まれた伯爵邸の庭は朝の散歩には持ってこいの場所だった。

 きっちりと手入れされているって感じではないけど、季節の花が咲き乱れでいて、小さな女の子だったら、お花の首飾りを作って遊びたくなるような雰囲気の庭だ。
 夏休みとかに泊まりに来たら、伸び伸び過ごせそう。子供なんかは喜びそうな場所だと思う。



「お嬢、そろそろいい時間かと思います。」

「そうね…。そろそろ戻りましょうか。」




 邸の玄関に行くと、あの男が待っていた。

「エレノア、心配したぞ!」

「伯爵様。おはようございます。
 早く目覚めましたので、庭を散歩して来ましたわ。
 ご心配をおかけしました。」

「目覚めたら君の姿が見えないし、専属メイドは行き先を知らないと言うし…。攫われてしまったのではないのかと不安になってしまった。」

 護衛騎士が一緒にいるんだから大丈夫だって。

「護衛が付いていますから大丈夫ですわ。」

「エレノア……、私を置いて黙って行かないでくれ。」

 泣きそうな顔して子供か!!



 その後、2人きりで朝食を頂いた。

 無言でひたすら新鮮な野菜や果物を食べる鬼嫁。産地最高だわ!

 朝食を伯爵様と一緒に食べたのも初めてです……





 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った

Mimi
恋愛
 声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。  わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。    今日まで身近だったふたりは。  今日から一番遠いふたりになった。    *****  伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。  徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。  シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。  お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……  * 無自覚の上から目線  * 幼馴染みという特別感  * 失くしてからの後悔   幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。 中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。 本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。 ご了承下さいませ。 他サイトにも公開中です

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

処理中です...