上 下
58 / 125

ワガママ

しおりを挟む
 鬼嫁業務よりも、自身の事業が忙しいエレノア20歳です。

  事業が忙しいので、寝ている時以外は、執務室か出掛けていることが多く、伯爵様やアブスに会うことは殆どない状態。
 というか、アブスが嫁いで来てから、一度も顔を合わせてないの…。

 メイド長から聞いたのだけど、伯爵様から邸内を勝手に歩き回ることを禁止されているらしい。

 それにも関わらず、真夜中にセクシーなナイトドレス姿で邸内をフラフラ歩き回り、旦那様の寝室を探している姿を、偶然、住み込みの使用人が見つけてしまったらしい。
 幽霊だと勘違いした使用人が大声で叫んでしまい、駆けつけた他の使用人達にセクシーな姿を見られ、起きて来た伯爵様に厳しく怒られ、大恥をかいたアブスは、しばらくは部屋から出ることを禁止されたようなのだ。
 使用人達の中でアブスは痴女だと噂になっているらしい。

 伯爵様は身の危険を感じて、頑丈な鍵を自室や執務室に取り付けて、寝る時は必ず施錠していると聞いた。

 アブス、結構ヤバくない?

 
 私は眠りが深いタイプで、眠ってしまったら朝まで目覚めないから、寝ている時に刺されたり、首を絞められたりしたら完全アウトだわ!
 一応は夜間も護衛騎士をドアの外に立たせてはいるけど、あの女なら護衛騎士に一服盛ることもしそうだから要注意よ!

 その話を聞いた私は、急いで私の寝室や執務室、住み込みで働いている私のメイド達や従者、騎士達の部屋に頑丈な鍵を付けさせたのだった。

 ていうかさ…、伯爵様。いくら家庭内別居でも、この邸はアンタの邸なんだし、一応は妻でもある私の部屋の配慮もしようよ…。
 本当にダメ亭主だわ。

 それとメイド長からの報告で、アブスが食事に文句を言って大変だと聞いた。
 何で伯爵家の食事がこんなに質素なのかとか、私だけ差別してこんな食事にしているのかとか言うらしい。

 あのバカお嬢様…。

 伯爵家は財政難なんだから、節約するっていったらまずは食費や人件費でしょう?
 何で分からないかなぁ…。

 メイド長も毎日のようにアブスから色々と言われ過ぎて疲れた顔をしている。
 メイド長がいるから、私はあの女に関わらなくて済んでいるからね。申し訳ないな…。

 
 こんな時は優しい義弟に頼ってしまおうか?


 私はギル宛に手紙を書いて騎士に届けてもらう事にした。

〝実家のシェフの中で、若向けのコッテリした料理やスイーツを作るのが得意なシェフがいたら、伯爵家に派遣して欲しい〟と……。


 優しいギルはその日のうちにシェフを派遣してくれた。

 シェフには、見栄えの良い、派手な料理を大盛りで作って欲しいと頼んでおいた。
 食材費は高くなりそうだから、私が出すか…。

 可愛いお嬢様が美味しい物をそこまで望んでいるなら、毎日3食+オヤツ2食を優しい鬼嫁がご馳走してあげるわ。


 シェフは命令通りに、せっせと料理を作ってくれた。それをアブスにだけ提供させた。
 アブスには、私がそうさせたということは内緒だ。

 アブスは食事の文句を言わなくなったらしいが、新しいドレスが欲しいと伯爵様に頼んでいるらしい。
 エマからの報告だと、ドレスのサイズが変わってしまったらしいのだ…。

 しかし節約家の伯爵様は、嫁いで来たばかりで、沢山ドレスを持ってきているはずなのだから、新しいドレスは必要ないと却下したらしい……。

 ぷっ!こんな時にまでケチな人なんだね。

 でもね…、伯爵様はそれで良くても間にいるメイド長や、直接お世話しているエマは大変なの。アブスに毎日、グチグチ言われる2人は可哀想。


 伯爵様、もう少し下の人間を配慮できるようになるといいですわね……


 可哀想なお嬢様のために、優しい鬼嫁はドレスをプレゼントしてあげることに決めた。

 メイド長にアブスの採寸をしてくるように指示をし、アブス本人にはドレスをプレゼントしたいから、採寸を頼まれてきたと伝えさせた。誰がプレゼントするのかは内緒にさせた。
 アブスは最近、ドレスを伯爵様にお願いしたばかりだから、伯爵様がドレスをプレゼントしてくれると思い込んで、かなり嬉しそうにしていたらしい。

 甘いよ、アブス!

 あの伯爵様は倹約家でドケチだからね。私なんて、結婚してから何も買ってもらってないんだから!


 鬼嫁はデザイナーに、胸元が開いていて、高そうに見える派手目なドレスをお願いした。更に採寸より、少しゆとりのあるサイズで作って欲しいことも伝えた。
 毎日、ご馳走ばかり食べているから、またサイズが変わってしまうかもしれないからね。

 地味な食事に文句を言うくらいだから、ドレスも少し派手な方が好きだよね?
 話し合いの時に胸元が開いたドレスを好んで着ていたから、そういうデザインが好きに違いないよね…。

 そして注文から2週間後くらいにドレス10着が届いたので、そのままアブスの部屋に届けて貰った。
 伯爵様がワタクシの為に選んでくれたのねと言って、アブスは大喜びだったらしい。

 ふふ!喜んでもらえて、プレゼントした私まで嬉しくなっちゃうわ!
 誰も伯爵様からのプレゼントだとは言ってないのにね。お嬢様の幸せ気分を壊したくないから、秘密にしておこう。




 結局、嫁いで来たアブスとはまともに顔を合わせることのないまま、王太子殿下の誕生を祝う夜会の日を迎えるのであった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。 そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。 婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。 どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。 実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。 それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。 これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。 ☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?

氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。 しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。 夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。 小説家なろうにも投稿中

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。 このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。 そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。 ーーーー 若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。 作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。 完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。 第一章 無計画な婚約破棄 第二章 無計画な白い結婚 第三章 無計画な告白 第四章 無計画なプロポーズ 第五章 無計画な真実の愛 エピローグ

処理中です...