君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした

せいめ

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閑話 アブス子爵令嬢

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  翌日。また家族で話し合いをする。

「ララ。告訴される前に、修道院に行け。私はそれが最善だと思っている。」

「わ、私は、子を身籠もっているかもしれないのです。ロジャース伯爵様の血を引く子供が産まれれば、伯爵様だって………」

「許してくれるとでも言いたいのか?無理に決まっている!
 いい加減に目を覚ませ!ロジャース伯爵は夫人だけを愛しているのがなぜ分からない?
 伯爵家に嫁げたとしても、お前も子供も愛されないし、子供は犯罪で生まれてきた子だと言われるだろうから絶対に不幸になる。
 伯爵から愛されていて、若くて美しくて商才のある正妻と比べられて、お前は惨めな思いもするだろう。
 今なら間に合う。お前は僻地の修道院に入って、もし子が産まれたら、表向きは死産だったことにして、ひっそりと暮らせばいい。」

「私はロジャース伯爵様と結婚したいのです!ここまでしてきて、今更後には引けません。あの方が好きだから、愛されなくても側にいたいのです。
 修道院なんて絶対に嫌よ!修道院に行くくらいなら、死んでやる!!」

 大人しいはずの私がここまで言うとは思っていなかったのだろう。両親も弟も絶句していた。


「アナタ、ララを許してあげて。伯爵家にはまだ跡取りはいないのだし、ロジャース伯爵様は責任は取ってくれそうよ…。
 ただ……、あのロジャース夫人は難しい方だから、機嫌を損なわないように、しっかりやらなければならないわね。」

「慰謝料を払えと言うのか?あんな大金は簡単に用意出来ないぞ。」

「でもアナタ!慰謝料を払うことで、ベネット家から許してもらえるなら仕方がないことかと。」

「領地の一部を売るしかないな……。
 お前は実家の男爵家にお金の相談に行ってこい。今回のことは、お前も悪いのだからな。」

「何ですって?ロジャース伯爵家は今、かなり潤っている家門ですのよ。そんな家門と縁を結びたいと思って何が悪いのですか?」

「はあ?父上も母上も正気ですか?うちの領地はそこまで広くないのですよ。
 何でこんな犯罪者を庇うのです?俺は反対です!
 慰謝料を払って全て許される問題ではないですよね?
 俺は今年、デビュタントを控えているのに…。
 姉上…、いや、もうアンタは俺の姉じゃない。
 死んでも構わないから、修道院に行け!うちの家門の恥さらしが!」

 弟は、そのまま部屋を出て行ってしまった。元々そこまで仲は良くなかったのだが、その日以降、顔も合わせてくれなくなった。

 お父様とお母様は毎日のように夫婦喧嘩をし、家庭内不和になってしまった。




 結局、両親は領地の一部を売りお金を工面してくれた。私はロジャース伯爵様の第二夫人になることが決まったのだ。
 でも…、ロジャース伯爵様は心底嫌そうにしていた。

 そこまで嫌がらないで…


 私の貴方への愛は本物よ。私は貴方だけをずっと見てきた…。貴方の本妻より、私の愛の方が真実の愛なのだから。

 私と一緒にいれば、貴方もいつかその事に気付く日が来るわ…。


 その時、ロジャース伯爵様は苦痛そうな表情をしているのに、夫人の方はどこか余裕のある表情をしていることに気付いてしまった。

 伯爵様にあんな表情をされると、私まで悲しくなるが……。
 この女は少しは悲しめばいいのに…。

 私が伯爵様の愛を奪いに行くのに、その表情は何なのよ?
 そういえば、胸元の開いたドレスを着て、伯爵様が付けた痕を見せつけた時も全く悲しそうにしていなかったわね。

 本当に憎らしい女…!

 





 短い婚約期間、ロジャース伯爵様は全く会いに来てくれなかったし、手紙や連絡すらくれなかった。

 これも、私の計画を邪魔したロジャース伯爵夫人と、その義弟のせい!
 伯爵様もあの夫人がいるせいで、私の愛に気付けないのよ。


 許さない……。
 許さない許さない許さない……



 両親やロジャース伯爵様が反対したので、私は結婚式は挙げられなかった。
 国王陛下から結婚の許可を得て、教会に書類を提出して終わり。

 結婚式は特別なものなのに……




 そして、ロジャース伯爵家に引っ越す日を迎える。




「ララ。慰謝料で支払ったお金は、私からお前への手切れ金だと思え。今日を以て、お前とは親子の縁を切らせてもらう。」

「お父様……」

「私はお前が苦労するのが目に見えたから、この結婚に反対したが、お前は死んでやると言って考えを曲げなかった。
 そこまで言うほどロジャース伯爵と結婚したかったのだから、何があってもここには帰って来るな。この先、何があっても歯を食いしばって耐えることだ…。」

 お父様はそれだけ言うと、邸に入って行ってしまった。
 
「ララ…、お父様もお母様もロジャース伯爵家に立ち入りは許されていないから、会いには行けないけど、手紙は書いてちょうだいね。
 夫人に嫌われないようにしっかりやるのよ。」

 お母様は泣いていた。

 弟は見送りにすら来なかった…。





 メイド1人を連れて、ロジャース伯爵家に向かう。

 ロジャース伯爵家に到着した私を出迎えてくれたのは家令とメイド長だけだった。

「家令のトーマスです。どうぞよろしくお願い致します。
 旦那様は毎日執務がお忙しい状態なので、今日もお迎えできません。
 多忙なので、会いに来るのは絶対にやめるようにとのことです。
 奥様の機嫌を損ねないように努めること。また、邸内を勝手に歩き回るのは禁止することと、この邸で生活したいなら、決まりを守って生活するようにと旦那様から言付けでございます。
 何が用事がある場合は、私かメイド長に話して下さい。忙しい旦那様に直接言いに行くのは禁止だと言われております。」



 何を言っているの…?



「どういうこと?第二夫人とはいえ、私は妻よ?それでは旦那様にお会い出来ないじゃないの!」

「妻ではないと旦那様よりお聞きしております。旦那様の妻はただ1人だと…。
 この邸では身の程を弁えて生活するようになさって下さい。」

 妻ではないですって……

 家令の目は笑っていなかった。

「この後は、メイド長が客間までご案内致します。」

 …客間って言ったの?この私を?

「ご案内致しますわ。こちらでございます。」

 メイド長が案内してくれたのは、邸の奥の客間だった。
 
「ねぇ?夫人は挨拶に来ないの?」

 あの女は、一応はまだこの邸の女主人。第二夫人の私に挨拶くらいは来るだろうと思っていたのだが…

「奥様はお忙しいので、お会いにはなりませんわ。」

 あの女まで私を馬鹿にして!!

「この後、子爵家から連れて来られた専属メイドに、この邸の仕事や決まりなどの説明をしたいのですが、メイドを少しお借りしてもよろしいでしょうか?」

「勝手にしなさい!!」

「ありがとうございます。」



 メイド長と、私が実家から連れてきたメイドのエマは部屋から出て行った…。


 1人部屋に残された私は、無意識に爪を噛んでいた。



 どうしてくれようか……
 
 


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