君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした

せいめ

文字の大きさ
上 下
53 / 125

閑話 アブス子爵令嬢

しおりを挟む
 ロジャース伯爵様を奪ってやりたいと思っても、自分が魅力的でないことはよく知っているから、難しいことは分かっていた。

 だから夜会などの噂話で聞いていた、あの薬に頼ろうかと考えた。

 下品なマダム達が女性同士で閨の話をしているのをよく耳にしていたのだが、その会話によく出ていたあの媚薬……


『ベネット家の店で売っている媚薬はよく効くわね。凄かったもの…。』

『ベネット家の媚薬は高いけど安心だし、依存性もないみたいだからいいわよ。』

『うちの旦那様ったら燃えちゃって…、もう大変だったわ。でも、オススメね!』

『他の店のものは、粗悪品だから恐くて使用出来ないわ。』

 ちょうどいいわね。あの女の実家の店の薬を使ってやるわ!


 自分のメイドに頼んで媚薬を買って来てもらおうとしたが、

「お嬢様。店に行ったのですが、身分のしっかりした人でないとお売り出来ないと断られてしまいました。購入するのに身分証明書が必要みたいです。」

 うちの使用人達は平民だから買えないってこと?
 仕方がないわ。私が直接買いに行くしかないのね。

 客を選ぶ店なんて、潰れてしまえばいいのに…。



 店に行き、身分証明書を見せた後に男性用の強い媚薬が欲しいと言うと、すぐに媚薬を出してくれた。

「お客様、こちらの商品の説明をさせて頂いた後に、こちらにサインをお願いしております。
 こちらの薬は………」

「時間がないの!!サインなら今すぐするわ!
 ……これでいいわよね。お釣りは要らないわ。失礼します!」

 他にも客が沢山いたこともあり、媚薬を買っている姿を誰にも見られたくない私は、説明も聞かずに急いで店を離れた。

 後でそのことを悔やむとも知らずに…。



 ロジャース伯爵様が1人で参加している夜会でこれを使ってやる!

 ワインを沢山飲む方だから、こっそりワインに入れてロジャース伯爵様に運んでもらえばいいわ。
 媚薬が効いてきたように見えたら、酔いを覚ますのに座れる場所に行きましょうとか言って誘い出せばいいし、伯爵様が1人でどこかに行くようなら、後をつければいい。

 まぐわってしまえば、ロジャース伯爵様は酒に酔ってやってしまったと考えるだろう。
 優しい人だから責任は取ってくれると思うし、あの方は罪悪感から私を蔑ろには出来ないわ。

 夜会での出来事は誰かに見られているだろうから、ロジャース伯爵様も隠すことは出来ないだろうし、伯爵夫人は面白くないだろうが、夫の為に我慢して私を第二夫人として受け入れるはずよ。

 結婚した後、私はいつも彼の側にいて彼を癒やしてあげるの。
 始めは正妻に気を遣ってしまい、愛を育むことは難しいかもしれないけれど、仕事で一緒に過ごせない正妻よりも、いつも近くにいる私が彼の愛を奪ってやるわ。
 子供ができたら大成功ね!



 しかし、予定は全て狂ってしまうのである。



 媚薬入りのワインを飲んでくれたのは良かったが、明らかに具合が悪くなってしまったロジャース伯爵様は、友人達に支えられて客室に運ばれて行ってしまった。
 強い媚薬と聞いて買ってきたけど、どうして?



 私はこの時にやめておけば良かったのだ。

 でもここまできて、計画を中止にするという考えにはならなかった。



 バレないように客室を突き止めた後、伯爵様の寝ているベッドに入るが、なかなか目覚めてくれず、目覚めても目が虚で反応が鈍い。伯爵様の体は反応してくれていたから、抱きついたりして刺激を与えていたら、やっとしてくれた。

 分かってはいたことだが、私は初めてだったのに、全然ロマンチックではなかった。
 とにかく痛いし、伯爵様は意識がはっきりしてないからか、動物のような行為だった。

 1番辛かったのは、『エレノア』と何度も夫人の名前を呼んでいたこと…。
 媚薬を使ったとはいえ、私と愛し合っているのに、他の女の名前を呼ばれるのは惨めな気分だった。

 目覚めた伯爵様は、絶望するような表情をして、避妊薬を飲むように言ってきた。

 私をそこまで拒否するの…?
 
 正直、面白くなかった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】 男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。 少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。 けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。 少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。 それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。 その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。 そこには残酷な現実が待っていた―― *他サイトでも投稿中

大好きな旦那様が愛人を連れて帰還したので離縁を願い出ました

ネコ
恋愛
戦地に赴いていた侯爵令息の夫・ロウエルが、討伐成功の凱旋と共に“恩人の娘”を実質的な愛人として連れて帰ってきた。彼女の手当てが大事だからと、わたしの存在など空気同然。だが、見て見ぬふりをするのももう終わり。愛していたからこそ尽くしたけれど、報われないのなら仕方ない。では早速、離縁手続きをお願いしましょうか。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

処理中です...