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閑話 ロジャース伯爵

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 その日の夜会は、エレノアは取引先との別の夜会があるからと、私1人で参加した。
 学生時代からの付き合いのエイジャー伯爵家の夜会で、仲の良い友人達が沢山来ていた夜会だったので、油断してしまったのがよくなかったのかもしれない。


 いつものように友人達とワインを飲んでいると、急に気分が悪くなる。
 友人達に体を支えられて、客室のベッドで休ませてもらったのだが、その後の記憶が曖昧であった。

 ただ何となく覚えているのは、ベッドにエレノアではない女性がいて、私はその女性と何度もまぐわっていること。私の意志とは関係なく、体が勝手に反応して動いており、女性はそんな私に抱きついて離れない。
 不快な夢でも見たのかと思って目覚めた私の隣にいたのは、裸のアブス子爵令嬢だった…。
 
 目覚めた私に気付いたアブス子爵令嬢は、恥ずかしげに俯く。
 そして彼女の言葉を聞き、私は奈落の底に落とされるのであった。

「ロジャース伯爵に純潔を捧げてしまいました…。」

 純潔を捧げた…?
 
 頭の中が真っ白になりそうになるが、この状況で否定は出来なかった。
 お互い裸でベッドにいて、アブス子爵令嬢の体には、私が付けたのかもしれない痕があって…。

「アブス子爵令嬢……、すまない。私は君になんて酷いことを…。」

「ロジャース伯爵様、純潔を失ってしまったら、貴族令嬢としてまともな嫁ぎ先はなくなってしまいます。
 …責任を取って頂けませんか?」

「すまないが、私には妻がいる。」

「それは知っておりますわ。私は第二夫人で構いません。
 このことは両親にも報告させてもらいますので、後日話し合いをさせて頂きたいのです。」

「分かった…。両親には、私から謝罪させて頂く。
 本当にすまない…。体は大丈夫か?孕んだら大変だから、すぐに避妊薬を飲んで欲しい。」

 アブス子爵令嬢が一瞬、眉を顰めたような気がする。
 既婚者である私とこんなことになったのだから、当然だな。

「………分かりました。」

 アブス子爵令嬢は、大人しくて控えめな令嬢だが、夜会で顔を合わせると挨拶をしてくれたり、飲み物を取ってきてくれたりする優しい令嬢だったと記憶している。

 悪酔いして覚えていないが、私はこんな大人しい令嬢を部屋に連れ込んでしまったのだろうか?
 いや、気分が悪くて友人達に体を支えてもらってこの部屋に来た記憶はある。
 もしかして、優しいアブス子爵令嬢が気分の悪い私の様子を見に来てくれた時に、私は酔って彼女を手篭めにした…?

 記憶が曖昧で分からないが、ただはっきり言えることは…、私はアブス子爵令嬢を傷付け、妻のエレノアを裏切ったということだ。


 流石に二人一緒に部屋を出るわけにはいかず、先にアブス子爵令嬢に帰ってもらった。



 その後、心配してくれたのか、この邸の主人である友人のエイジャー伯爵が部屋に来てくれる。

「アラン、何があった?昨夜、具合が悪くなったお前は歩くことも出来ないくらいだったのに、なぜあの令嬢がこの部屋にいたんだ?」

「……私にもわからないんだ。記憶が曖昧で、気が付いたら、全て終わった後だった。
 私はアブス子爵令嬢に酷いことをしてしまったし、妻を裏切る行為をしてしまった…。
 私は、終わりだ……。」

「アラン。お前、嵌められたか?」

「…嵌められる?そんな理由があるか?」

「ハァー。嵌められた証拠がないと、何も出来ないか。
 使用人達には、口止めしておいたが、人が多く出入りしている夜会では誰が見ているか分からないからな。
 とにかく!今は急いで帰って、夫人に正直に事情を話して、跪いて謝れ。夫人が1番大切なんだろう?」

「…ああ。エレノアが1番大切だ。謝らないとな。」

 泣きそうにな気持ちで、邸に帰りエレノアに事情を話して謝罪する。
 私は謝らなければいけないようなことばかりしている。どうしようもない男だ…。

 エレノアは、私の話を聞いた後に感情がなくなったような表情になってしまった。

 泣いて責められたり、感情をむき出しにして怒られた方がまだ良かった。
 エレノアの私へのその態度は、諦めや無関心のようなもので、それは私に対しての興味も期待も、何も持っていないということなのだろう。

 自分がそうさせてしまったのは分かっているし、私が全て悪いことも理解しているのだ。
 でも…、私はエレノアと一緒にいたい。


 そんなエレノアは、私にアブス子爵令嬢の責任を取るようにとか、私とアブス子爵家に慰謝料を請求して今すぐ離縁してもいいだとか言い出す。

 私は離縁は絶対に認められなかった。必死に謝って、エレノアに何とか許されたいという気持ちを捨てられないのだ。

 ここまでのことをしてしまい、エレノアを苦しめているのは分かっている。
 エレノアの望むように離縁に応じて、彼女を解放してあげた方がいいのかもしれない。

 それでも私がエレノアを手放すことが出来ないのは……

 もしかしてこれは…、執着なのか?



 亡くなった母が、あの父に執着していたように…。



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