上 下
42 / 125

義弟、断罪する 2

しおりを挟む
 自分のサイン入りの同意書を見せられて、目を見開くアブス子爵令嬢。

「…そ、それは誰かが私になりすましたのではないでしょうか?」

「そんな風に言われる方もいるので、店にはカメラもあるのですよ。今、ご令嬢が買いに来られた時の画像をお見せしますね。」

 ギルはすぐに再生してくれた。
 画像には、慌ただしく店に来て、店員の説明を聞こうともせずに、急いで買って帰りたいといったように見えるアブス子爵令嬢の姿が映っていた。

 ここまで証拠を出されたら、自分ではないと言い逃れは出来ないだろう。

「ララ…。もしかして…、あなた…。」

 あの口煩いババアの子爵夫人が、絶句している。

「ち、違います!実は…、い、言いたくなかったのですが、友人に頼まれて買いに行ったのです。私は使っていませんわ。」

「アブス子爵令嬢、それは本当ですか?それは、犯罪行為と見なして告訴しなくてはいけませんが!」

「え?」

「貴女は、店員の説明を聞かずに店から飛び出して行ってしまったようなので、知らないのかもしれませんが…。貴女のサインした同意書にも、きちんと説明文を載せていましたので、読まなかった貴女の責任になりますね。」

「…え?どうして犯罪?」

「ハァー。本当に困ったお方だ。
 うちの媚薬は良く効くと評判でしてね。人気の商品なので、模造品を作って無許可で売る者や、媚薬を盛って犯罪行為をする者が沢山いるのですよ。
 私達は犯罪行為は許せませんが、本当に必要としている善良なお客様には商品をお届けしたいと考えております。
 商品を購入される方の身分証明書を確認して、身分のしっかりしているお方だけに商品をお売りしているのです。前科のあるお方にはお売り出来ないので。」

「……え?」

「同意書には、犯罪行為に利用されるのを防ぐために、必ず購入者が使用することと、第三者への譲渡を禁止すること、守れない場合は告訴することもあるとも書いてあったと思いますが。…読んでいないのですね?」

「……。」

「ですから、貴女以外の方が使用したとなると、犯罪行為と見なして、私達は貴女を告訴できるのですよ。
 しかも、貴女は店員に強い媚薬が欲しいと頼んだようですね?あの『野獣の愛』という媚薬は、壮年の男性向けの媚薬なので、若い男性に使用すると薬が強すぎて、副作用が出やすいのです。」

「そんな…!」

「壮年の男性向けの媚薬なんてあったの?」

 つい『野獣の愛』に食いついてしまったおばちゃん。

「義姉上。『野獣の愛』とは、元気がなくなってきた壮年男性が、また野獣に戻れるようにと、うちの優秀な薬師達が考えた最高傑作の媚薬なのですよ。強い薬なので、副作用もあるのです。」

 そ、それって…、もしかしてE○の人向けの媚薬?
 そんなの売ってたのかい!

「媚薬を買っているのを誰にも見られたくなくて、薬師の説明も碌に聞かずに店から早く去ったのでしょうけど…。店頭で購入するのが恥ずかしいのであれば、呼んでくだされば、うちの店は訪問販売もしていたのですがね。
 うちのお得意様の方々は、皆様、店頭で媚薬なんて購入しませんからね…。アブス子爵令嬢はかなり目立つお客様だったと、店員や薬師達は貴女をしっかりと覚えておりましたよ。」

「……っ!」

 アブスの肩が震えている。

「アブス子爵令嬢とロジャース伯爵の不貞のあった夜会も調べさせてもらいました。
 エイジャー伯爵やロジャース伯爵の友人方にお聞きしたところ、その日、ロジャース伯爵はワインを飲んですぐに気分が悪くなって、歩くのも困難な状態になり、友人に体を支えられて客室まで移動したと聞きましたが、…伯爵様、間違いありませんか?」

「…そうだ。ワインを飲んだ後に気分が悪くなって、私は悪酔いしたのかと思っていた。」

「自力で歩くのが難しい状態で、アブス子爵令嬢を部屋に連れ込むのは無理でしょうね。
 アブス子爵令嬢が意図的に部屋に忍び込んだと考えるのが自然かと…。」

 バカ伯爵様でも、ここまで来ると何があったのかを自覚し始めたようだ。鋭い眼光でアブスを睨みつけている。 
 おおー!最近は情けない表情しか見てなかったこど、こんな顔して怒るのね。

 
 ギルの断罪劇はまだ続く……



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った

Mimi
恋愛
 声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。  わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。    今日まで身近だったふたりは。  今日から一番遠いふたりになった。    *****  伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。  徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。  シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。  お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……  * 無自覚の上から目線  * 幼馴染みという特別感  * 失くしてからの後悔   幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。 中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。 本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。 ご了承下さいませ。 他サイトにも公開中です

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

処理中です...