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私は被害者

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 アブス子爵令嬢とその両親が邸に到着したらしく、メイド長が私を呼びに来てくれた。

 ダメ亭主を持つと苦労するわー。ああ、ストレス!

 今日はこの邸で誰が1番偉いのか分るように、鬼嫁としてしっかり対応させてもらおう。
 悪いのはあの伯爵様であって、不貞行為をされた側の私は被害者だから。
 出来た嫁なら、伯爵様と一緒に相手に謝るくらいのことをするのかもしれないけど、愛もお金もない旦那様のために、私はそこまではしないの。

 第二夫人を狙ってくるような家門は、大したことないから、遠慮なく鬼嫁になってやる。

 今回も護衛騎士と私達のやり取りを記録させる為の秘書官を同行させる。

「奥様、旦那様はすでに応接室に入っております。」

「分かったわ。」

 どうせいても役立たずの旦那様だからね。

 
 応接室のドアをノックすると、伯爵様の返事が聞こえる。
 中に入ると、久しぶりに見るアブス子爵令嬢とその両親と見られるおじさんとおばちゃんがいた。

「エレノア、申し訳ないな…。」

「ええ、本当に…。」

 情けない顔して…。ハァー。

 イラっとしているその時だった…

「夫人。忙しい時にごめんなさいね。今後の話をするためには、夫人にもいてもらわないと困りますので。」

 何だ、このおばちゃん?
 私が小娘だからって下に見ているよね…。

「アナタ、こちらの方は?」

 鋭い目で伯爵様にわざと誰なのかを尋ねる。

「アブス子爵と夫人だ。」

「あら?伯爵夫人である私が発言を許してないのに、こちらの方はなんて無礼なんでしょうか!」

「……なっ!」

「妻を持つ男性と閨を共にする非常識な令嬢の親も非常識なのかしら?まずは跪いて謝るくらいのことをしてもよろしいのではなくて?」

「エレノアなんてことを!」

「あらあら、私は被害者だということをお忘れですか?アナタとアブス子爵家に慰謝料を請求して今すぐ離縁してもいいのです。」

 一気に応接室の雰囲気が悪くなる。関係ないわ!
 おばちゃんはいつでも空気を読まずにボロクソ言えちゃうの。

「…エレノア、私は君と離縁はしない。私の妻は君だけだ。
 本当にすまない…。私には君だけなんだ。」

 私に必死に謝る伯爵様の姿を見て、アブス子爵家御一行様は、えっ?って顔をしている。
 ふん!私がこの家で1番偉いのよ!

「私はすぐにでも離縁可能ですわ。
 わざわざ首筋のキスマークをアピールするようなドレスを着て来るほど、アナタをお慕いしているアブス子爵令嬢を、正妻としてお迎えしてあげて下さい。
 ねぇ、アブス子爵令嬢はずっとうちの旦那様が好きでしたわよね?」

 大人しくて、あまり派手ではなかったアブス子爵令嬢が、珍しく胸元の開いたドレスを来ている。情事の痕を見せつけるためなのだろう。気持ちわるっ!

 大人しそうにしていたけど、本性は凄いのね。
 おばちゃんは、社交界でみんなにバラしちゃうんだから!

「私はそんなつもりは…。」

 見た目小娘の私がここまで破壊力のあることを言うとは思っていなかったのだろう。令嬢は驚いているし、両親も絶句している。

「あら、うちの旦那様をよく見つめていましたし、夜会ではよく話しかけていましたから好きなのかと思っていましたわ。
 それに…、好きでもない殿方が休んでいる部屋に、わざわざ入ったりしませんわよねぇ?
 アブス子爵令嬢は、殿方が休んでいる部屋に忍び込むほどの尻軽だとは思っていませんでしたわよ。」

「……そ、そんな。酷いですわ。」

「エレノア、言い過ぎだ!」

 このバカ旦那が!

「あら、アナタは妻である私よりも、アブス子爵令嬢を庇うのですね…。よろしいわ。ぜひ、彼女を正妻に迎えてあげて下さいませ。
 ところでアナタ…、正直に答えてください。
 あの夜、貴方はアブス子爵令嬢を意図的に部屋に連れ込んだのですか?」

「そんなことはしていない!気分が悪いから部屋で休ませてもらいたいと友人に頼んで、部屋まで案内してもらったんだ。
 私の妻はエレノアだけなんだ…。分かってくれ。」

「……では、なぜアブス子爵令嬢は部屋にいたのです?アブス子爵令嬢、教えて下さいませ。」

「………。」

 言えないのね。

「ロジャース伯爵夫人、そんなことよりも、うちの娘は純潔を奪われたのですわ!」

 うるせぇババアだな!

 父親の子爵は黙っていて空気みたいだし、自分の奥さんくらい黙らせろよ。
 自分も煩いババアなのだが、今は気にしていられない。

「そうですわね。純潔を奪われたのか、奪わせるように仕向けたのかは分かりませんが…、既成事実を作ってしまった以上は、うちの旦那様は責任を取らなくてはいけませんわね。」

 私のその言葉に、アブス子爵令嬢の口角が上がった瞬間を私は見逃さなかった…。

 


 
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