君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした

せいめ

文字の大きさ
上 下
37 / 125

私は被害者

しおりを挟む
 アブス子爵令嬢とその両親が邸に到着したらしく、メイド長が私を呼びに来てくれた。

 ダメ亭主を持つと苦労するわー。ああ、ストレス!

 今日はこの邸で誰が1番偉いのか分るように、鬼嫁としてしっかり対応させてもらおう。
 悪いのはあの伯爵様であって、不貞行為をされた側の私は被害者だから。
 出来た嫁なら、伯爵様と一緒に相手に謝るくらいのことをするのかもしれないけど、愛もお金もない旦那様のために、私はそこまではしないの。

 第二夫人を狙ってくるような家門は、大したことないから、遠慮なく鬼嫁になってやる。

 今回も護衛騎士と私達のやり取りを記録させる為の秘書官を同行させる。

「奥様、旦那様はすでに応接室に入っております。」

「分かったわ。」

 どうせいても役立たずの旦那様だからね。

 
 応接室のドアをノックすると、伯爵様の返事が聞こえる。
 中に入ると、久しぶりに見るアブス子爵令嬢とその両親と見られるおじさんとおばちゃんがいた。

「エレノア、申し訳ないな…。」

「ええ、本当に…。」

 情けない顔して…。ハァー。

 イラっとしているその時だった…

「夫人。忙しい時にごめんなさいね。今後の話をするためには、夫人にもいてもらわないと困りますので。」

 何だ、このおばちゃん?
 私が小娘だからって下に見ているよね…。

「アナタ、こちらの方は?」

 鋭い目で伯爵様にわざと誰なのかを尋ねる。

「アブス子爵と夫人だ。」

「あら?伯爵夫人である私が発言を許してないのに、こちらの方はなんて無礼なんでしょうか!」

「……なっ!」

「妻を持つ男性と閨を共にする非常識な令嬢の親も非常識なのかしら?まずは跪いて謝るくらいのことをしてもよろしいのではなくて?」

「エレノアなんてことを!」

「あらあら、私は被害者だということをお忘れですか?アナタとアブス子爵家に慰謝料を請求して今すぐ離縁してもいいのです。」

 一気に応接室の雰囲気が悪くなる。関係ないわ!
 おばちゃんはいつでも空気を読まずにボロクソ言えちゃうの。

「…エレノア、私は君と離縁はしない。私の妻は君だけだ。
 本当にすまない…。私には君だけなんだ。」

 私に必死に謝る伯爵様の姿を見て、アブス子爵家御一行様は、えっ?って顔をしている。
 ふん!私がこの家で1番偉いのよ!

「私はすぐにでも離縁可能ですわ。
 わざわざ首筋のキスマークをアピールするようなドレスを着て来るほど、アナタをお慕いしているアブス子爵令嬢を、正妻としてお迎えしてあげて下さい。
 ねぇ、アブス子爵令嬢はずっとうちの旦那様が好きでしたわよね?」

 大人しくて、あまり派手ではなかったアブス子爵令嬢が、珍しく胸元の開いたドレスを来ている。情事の痕を見せつけるためなのだろう。気持ちわるっ!

 大人しそうにしていたけど、本性は凄いのね。
 おばちゃんは、社交界でみんなにバラしちゃうんだから!

「私はそんなつもりは…。」

 見た目小娘の私がここまで破壊力のあることを言うとは思っていなかったのだろう。令嬢は驚いているし、両親も絶句している。

「あら、うちの旦那様をよく見つめていましたし、夜会ではよく話しかけていましたから好きなのかと思っていましたわ。
 それに…、好きでもない殿方が休んでいる部屋に、わざわざ入ったりしませんわよねぇ?
 アブス子爵令嬢は、殿方が休んでいる部屋に忍び込むほどの尻軽だとは思っていませんでしたわよ。」

「……そ、そんな。酷いですわ。」

「エレノア、言い過ぎだ!」

 このバカ旦那が!

「あら、アナタは妻である私よりも、アブス子爵令嬢を庇うのですね…。よろしいわ。ぜひ、彼女を正妻に迎えてあげて下さいませ。
 ところでアナタ…、正直に答えてください。
 あの夜、貴方はアブス子爵令嬢を意図的に部屋に連れ込んだのですか?」

「そんなことはしていない!気分が悪いから部屋で休ませてもらいたいと友人に頼んで、部屋まで案内してもらったんだ。
 私の妻はエレノアだけなんだ…。分かってくれ。」

「……では、なぜアブス子爵令嬢は部屋にいたのです?アブス子爵令嬢、教えて下さいませ。」

「………。」

 言えないのね。

「ロジャース伯爵夫人、そんなことよりも、うちの娘は純潔を奪われたのですわ!」

 うるせぇババアだな!

 父親の子爵は黙っていて空気みたいだし、自分の奥さんくらい黙らせろよ。
 自分も煩いババアなのだが、今は気にしていられない。

「そうですわね。純潔を奪われたのか、奪わせるように仕向けたのかは分かりませんが…、既成事実を作ってしまった以上は、うちの旦那様は責任を取らなくてはいけませんわね。」

 私のその言葉に、アブス子爵令嬢の口角が上がった瞬間を私は見逃さなかった…。

 


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

【完結】婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける

堀 和三盆
恋愛
「クアリフィカ・アートルム公爵令嬢! 貴様との婚約は破棄する」  王太子との結婚を半年後に控え、卒業パーティーで婚約を破棄されてしまったクアリフィカ。目の前でクアリフィカの婚約者に寄り添い、歪んだ嗤いを浮かべているのは異母妹のルシクラージュだ。  クアリフィカは既に王妃教育を終えているため、このタイミングでの婚約破棄は未来を奪われるも同然。こうなるとクアリフィカにとれる選択肢は多くない。  せめてこれまで努力してきた王妃教育の成果を見てもらいたくて。  キレイな姿を婚約者の記憶にとどめてほしくて。  クアリフィカは荒れ狂う感情をしっかりと覆い隠し、この場で最後の公務に臨む。  卒業パーティー会場に響き渡る悲鳴。  目にした惨状にバタバタと倒れるパーティー参加者達。  淑女の鑑とまで言われたクアリフィカの最期の姿は、良くも悪くも多くの者の記憶に刻まれることになる。  そうして――王太子とルシクラージュの、後悔と懺悔の日々が始まった。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...