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本音がポロッと

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 「エレノア……。お前、本当に幸せにやっているのか?私には無理に笑っているようにしか見えないぞ。」

 王子殿下の鋭い指摘に困る鬼嫁。

 この人、よく見てるんだよねぇ。さすが王族というか、無駄に鋭いというか。

「無理をしてでも、笑わなければいけないこともあるということです。社交とはそんなものでしょう?」

「何だよそれ?自分が望む相手と結婚したヤツが口にする言葉ではないだろう?」

「私も結婚したことで、やっと大人になれたということですわ。」

「結婚か…。私もな、兄上に3人目の子が産まれたし、今年兄上が王位継承することに決まったから、それに伴って臣籍降下も出来るし、結婚相手も決めることが出来そうだ。」

 第二王子が早くに婚約者を決めると、婚約者の実家が継承権に口を挟んだり、王位を狙ったりする恐れがあるからと、この国では兄の王太子殿下が王位を継承するまでは、第二王子は婚約者は決めないんだっけ。
 自由な次男坊に見えたけど、それなりに我慢をすることもあったのだろうね。

「まあ!それを知った御令嬢方はみんなお喜びになるでしょう。
 そういえば、エイベル伯爵令嬢も相手を探していると聞きましたわよ?」

 ふふっ!いけ好かない女だけど、好きな人と結ばれたら、少しは性格が良くなるかもしれないからね。
 優しい私がお見合いおばちゃんみたいに縁結びをしてあげようか…?

「……アレは遠慮しておく。」

 即答かい!縁結び失敗…。

「そうですか。残念ですわ…。しかし、殿下なら素敵な婚約者候補が沢山いるでしょうから、今後が楽しみですわね。」

「父上と母上は、エレノアなら初婚じゃなくても構わないと言っていた……。」

 構わないって言った…?私に失礼じゃないの!
 もしかして、王家もベネット家の金を狙っていた?怖いんだけど!
 顔だけの伯爵様も、金の為に無理をして私と結婚したみたいだし。ああ、人間不信になりそうだ。

「陛下も王妃殿下も、面白いご冗談を…。
 王子殿下には別に相応しいお方は沢山いらっしゃると思いますわ。殿下の幸せをお祈りしております。」

「……ふっ。エレノアが私の幸せを祈ったりなんかしたら、嵐が起こるかもしれないな!」

 殿下とくだらない話をしていると、ダンスの曲が終わったようだ。
 

「エレノア、お前の旦那様は?」

「さあ…?どこかで御令嬢の相手でもしているのかもしれませんわ。」

「………何を言って?」

 あっ!殿下だったから、ついポロッと嫌そうな表情で、本音が出てしまったな。人前では当たり障りなく仲良し夫婦を演じるようにしていたのに、やっちゃった。
 あの殿下が、困惑したような顔をしている。ヤバい!

「うちの旦那様は、殿下ほどではありませんが、御令嬢方に人気みたいですので、つい嫉妬をしてしまいましたわ。オホホ…。
 お恥ずかしいので内緒にしてくださいね、殿下!」

「エレノア…、無理してるよな?」

 あの子憎らしい殿下が本気で心配している…。

「いえ、毎日蕩けそうな程に幸せにしておりますのよ。」

 するとあの人の声が…

「エレノア、ここにいたのか!
 王子殿下。ご機嫌麗しゅうございます。私の妻がお世話になりました。」

 何だこの人。

「ロジャース伯爵、夫婦仲が良いようで何よりだ。妻は大切にするといい…。
 エレノア、またな。」

 それだけ言うと、殿下は護衛を引き連れて人混みの中に消えていった。

「エレノア…、そろそろ帰ろう。」

「御令嬢方とはもういいのでしょうか?」

「もう他の令嬢とは踊りたくない。エレノアは疲れた顔をしているぞ。もう帰ろう。」

「はい。分かりました。」

 前のように、伯爵様から腰を抱かれて馬車に戻る。



「エレノア、今日は嫌な思いをさせて悪かった…。
 友人達も悪気がある訳ではないんだ。」

「伯爵様のご友人が何か?」

「その…。早く跡継ぎができればいいだとか、エレノアの店に行きたいだとか。
 エレノアが私との友人達との付き合いを最低限にしたいと言う理由が分かった。すまない。」

「そう思うのでしたら、夜会への同伴は王族主催のものだけにして下さい。」

「なるべくそうするようにはしたい。ただ、親友達の主催する夜会は一緒に参加して欲しい。」

「今後は最低限にして欲しいと思っています。お願いしますね。」

 鬼嫁の私が嫌だと言ってるんだから理解してよ。

「……分かった。」


 今夜は前の夜会の時のように寝落ちしないぞって気合いを入れていたら、馬車で眠ることなく屋敷に到着した。
 疲れ切っていた私は、その夜も爆睡だった。



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