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優しい義弟
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夜会で家庭内別居状態の旦那と仲良しカップルを演じることに疲れ切っている時だった……
「義姉さん!」
「あら、ギルいたのね」
義弟のギルが来てくれた。
「いるに決まっているだろ。
ロジャース伯爵様、ご機嫌麗しゅうございます。義姉をダンスに誘いたいのですが、よろしいでしょうか?」
「構わない。私は友人達とここで待っているから、行ってくるといい」
「ありがとうございます。
義姉さん、踊って頂けますか?」
ギルとダンスなんて、いつぶりだろう。
「はい。喜んで」
ホールの中心に移動すると、そのタイミングで曲が始まる。
「義姉さん。あんな演技してさ……、顔が疲れていたから、ダンスに誘ったよ」
「見ていたのね。ありがとう。本当に疲れて、大変だったの!」
「ハァー。もう、無理しなくてもいいよ」
「……ギルが優し過ぎて、義姉さんは涙が出てきそうだよ」
「何を言ってるんだか……、今日はもう帰ったら? 良き妻として頑張ったと思うよ」
「そうするわ」
ダンスが終わり、ギルと伯爵様のところに戻ろうとしたところで、学園時代の親友達に話しかけられる。
事情を知らない彼女達からも、新婚生活について聞かれたので、そのうちウチの邸に遊びに来るように話しておいた。誰が聞いているのか分からない夜会で、私の結婚生活を語るのは危険だからだ。
「ロジャース伯爵様、義姉はもう疲れているみたいです。こんな義姉ですが、伯爵様とご友人方のお時間を割くのは申し訳ないと思っているようでして……
よろしければ、私が先に義姉を送って帰ろうかと思います。お許し頂けませんか?」
ギルが神様に見えた。いつの間にこんなに気遣いの出来る人になったの? 義姉さんは嬉しいんだけど!
それなのに……
「お気遣い感謝する。だが、私もそろそろ帰ろうかと思っていたところなんだ。だから送ってもらわなくて大丈夫だ。
エレノア、帰ろう」
えー、ギルと帰りたかったのに。何なのよ!
腰を抱かないでくれる! ああ、ストレスが……
「そうですか……。義姉さん、気を付けて帰ってね」
「ギルもね。今日はありがとう。またね。
皆様、ご機嫌よう」
「……そろそろ腰を抱くのをやめてもらえますか?」
馬車止めまで向かう途中、人がいないことを確認した私が、我慢できずに発した言葉だった。
「……馬車までは我慢して欲しい」
「……」
普通の夫婦らしくすることは、こんなにも大変なことなのだと、今日は身をもって感じた。
馬車に乗った私は疲れがピークを迎えていた。
「エレノアは義弟と仲が良いな。あそこまで仲が良いとは知らなかった……」
疲れている時に、話しかけないでよー。
「ギルは義姉思いの優しい義弟なのですわ。伯爵様だって、従兄妹の御令嬢から告白されるくらい仲が良かったですわよね」
「シンディーのことは妹としか思っていないと、何度言ったら分かってくれるんだ?」
怒ってるの? こっちは疲れ切って話すのも嫌なのに。
「今更そんなことはどうでもいいのですわ。伯爵様と御令嬢は、兄妹みたいに仲良くしていたのですよね?私もギルとはそんな感じです。伯爵様がなぜそれを怒るのか意味が分かりませんが」
「………すまない」
「いえ」
その後は、お互い無言になった。
チュンチュン……
鳥のさえずりが聞こえる。ってアレ?
馬車に乗っていたはずの私はベッドに寝ていた。
「奥様、お目覚めですか? 昨夜、馬車で疲れて寝てしまったようですわね。湯浴みせずに寝てしまったので、今から湯浴みしましょうか?」
「……ミサ。昨夜、私は馬車で寝落ちしてしまったのね」
「はい。伯爵様がここまで運んで下さいました」
何たる失態!
「そう。怒っていなかったかしら……?」
「いえ。奥様の寝顔を見て微笑んでいましたが」
ゾワっとした。
「えっ、それ本当なの?」
「はい。可愛い寝顔でしたので、何も問題はないかと」
鬼嫁としてそれは許されないのよ!
「……やっちゃったわね。ハァー、湯浴みしようかしら」
「はい。今すぐ準備しますのでお待ち下さい」
あの人と一緒の夜会は疲れるから、極力控えるようにしよう。
「義姉さん!」
「あら、ギルいたのね」
義弟のギルが来てくれた。
「いるに決まっているだろ。
ロジャース伯爵様、ご機嫌麗しゅうございます。義姉をダンスに誘いたいのですが、よろしいでしょうか?」
「構わない。私は友人達とここで待っているから、行ってくるといい」
「ありがとうございます。
義姉さん、踊って頂けますか?」
ギルとダンスなんて、いつぶりだろう。
「はい。喜んで」
ホールの中心に移動すると、そのタイミングで曲が始まる。
「義姉さん。あんな演技してさ……、顔が疲れていたから、ダンスに誘ったよ」
「見ていたのね。ありがとう。本当に疲れて、大変だったの!」
「ハァー。もう、無理しなくてもいいよ」
「……ギルが優し過ぎて、義姉さんは涙が出てきそうだよ」
「何を言ってるんだか……、今日はもう帰ったら? 良き妻として頑張ったと思うよ」
「そうするわ」
ダンスが終わり、ギルと伯爵様のところに戻ろうとしたところで、学園時代の親友達に話しかけられる。
事情を知らない彼女達からも、新婚生活について聞かれたので、そのうちウチの邸に遊びに来るように話しておいた。誰が聞いているのか分からない夜会で、私の結婚生活を語るのは危険だからだ。
「ロジャース伯爵様、義姉はもう疲れているみたいです。こんな義姉ですが、伯爵様とご友人方のお時間を割くのは申し訳ないと思っているようでして……
よろしければ、私が先に義姉を送って帰ろうかと思います。お許し頂けませんか?」
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それなのに……
「お気遣い感謝する。だが、私もそろそろ帰ろうかと思っていたところなんだ。だから送ってもらわなくて大丈夫だ。
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えー、ギルと帰りたかったのに。何なのよ!
腰を抱かないでくれる! ああ、ストレスが……
「そうですか……。義姉さん、気を付けて帰ってね」
「ギルもね。今日はありがとう。またね。
皆様、ご機嫌よう」
「……そろそろ腰を抱くのをやめてもらえますか?」
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「……馬車までは我慢して欲しい」
「……」
普通の夫婦らしくすることは、こんなにも大変なことなのだと、今日は身をもって感じた。
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疲れている時に、話しかけないでよー。
「ギルは義姉思いの優しい義弟なのですわ。伯爵様だって、従兄妹の御令嬢から告白されるくらい仲が良かったですわよね」
「シンディーのことは妹としか思っていないと、何度言ったら分かってくれるんだ?」
怒ってるの? こっちは疲れ切って話すのも嫌なのに。
「今更そんなことはどうでもいいのですわ。伯爵様と御令嬢は、兄妹みたいに仲良くしていたのですよね?私もギルとはそんな感じです。伯爵様がなぜそれを怒るのか意味が分かりませんが」
「………すまない」
「いえ」
その後は、お互い無言になった。
チュンチュン……
鳥のさえずりが聞こえる。ってアレ?
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「……ミサ。昨夜、私は馬車で寝落ちしてしまったのね」
「はい。伯爵様がここまで運んで下さいました」
何たる失態!
「そう。怒っていなかったかしら……?」
「いえ。奥様の寝顔を見て微笑んでいましたが」
ゾワっとした。
「えっ、それ本当なの?」
「はい。可愛い寝顔でしたので、何も問題はないかと」
鬼嫁としてそれは許されないのよ!
「……やっちゃったわね。ハァー、湯浴みしようかしら」
「はい。今すぐ準備しますのでお待ち下さい」
あの人と一緒の夜会は疲れるから、極力控えるようにしよう。
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