君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした

せいめ

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夫と夜会 2

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 夜会が始まり、ダンスの曲が流れてくる。

「エレノア、せっかくだから踊らないか?」

 夫婦で来ているのに、ダンスをしないのは不自然だ。しょうがない。

「……分かりました」
「ありがとう」

 伯爵様とのダンスは、可もなく不可もなしって感じだった。本当に仲の良い夫婦なら、見つめ合って、微笑むくらいするのだろうけど、そこまでする必要はないと思っている。
 一曲終わった後、もうダンスは終了だと思っていたら……

「エレノア。私達は夫婦なのだから、ダンスは一曲だけで終われないだろう?」

 何が夫婦だ!
 鬼嫁が降臨しそうになるところだけど、ぐっと堪えるおばちゃん。
 確かに夫婦なら連続で踊る人が多い。しょうがない。今日は我慢するか。

「……そうですね。分かりました」
「ありがとう」

 結局、三曲踊らされた。無言で踊り続けるのはここまで辛いのか……。次からは一曲だけって始めに言っておこう。

 喉が渇いて2人でジュースを飲んでいる時だった。

「ロジャース伯爵夫人。ご機嫌よう」

 この声は、あの女か。相変わらず、しつこい女だな。

「まあ! エイベル伯爵令嬢、ご機嫌よう」

 この女は貴族学園時代からなぜか私をライバル視してこうやって絡んでくる、いけ好かない女なのだ。

「聞きましたわよ。ロジャース伯爵様の叔父のバード男爵様のお話。本当に大変でしたわねぇ。あっ、もう男爵家は取り潰しになったのでしたわね。失礼しました」

 拷問のようなダンスをした後で疲れているのに、この女は……

「まあ、心配してくださったのですね。ありがとうございます。
 いつも親切にして下さっていたお方でしたので、どうしてこんなことになったのか……
 私も夫も、2人で悲しむ日々を送っておりましたが、夫と痛みを分け合うことで何とか立ち直ってきたところなのですわ。
 夫婦って、お互いを支え合えることが出来て素晴らしいですわね。
 ところで、エイベル伯爵令嬢は何か素敵な報告はありませんの? ぜひ聞かせて頂きたいわ」

 嘘八百を並べていて自分でも呆れそうになるが、別にいいや。
 実はエイベル伯爵令嬢は、王子殿下が好きらしいのだが、相手にされないまま数年が経過しているのだ。
 分かりやすい態度なんだよね。それを知りながら、おばちゃんはあえて聞いてみる。

「ま、まあ! 幸せな結婚生活を送っているようで何よりですわ。
 私はまだまだ未熟ですから、結婚は早いかしら。でも、素敵なお方がいればとは思っていますのよ」
「それは王子殿下のようなお方でしょうか?」

 少しだけ小さな声で言ってみた。

「なっ、何を?」

 ふふっ! 動揺し過ぎ。分かりやすいわ。

「エイベル伯爵令嬢の幸せを陰ながら応援しておりますわ。
 アナタ、そろそろ行きましょうか」
「ああ……。エイベル伯爵令嬢、失礼する」

 アナタなんて普段は絶対に言わないけど、今日だけは仲良く見せないといけないからね。

 その後は、伯爵様の友人達に話しかけられて大変だった。
 仲の良い友人らしくて、酷いことは言われることはないのだが、跡継ぎが楽しみだとか、ロジャース伯爵家に遊びに行きたいだとか、伯爵様の親しい友人達だからこそ、すごく面倒だった。
 親しい友人達を騙すのって大変だからね。彼らの前で、以前のように仲の良い二人を演じるのは辛い。

 ……疲れたな。

 仲良しカップルを演じることが、こんなに苦痛で疲れるだなんて知らなかった。


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