23 / 125
夫と夜会 2
しおりを挟む
夜会が始まり、ダンスの曲が流れてくる。
「エレノア、せっかくだから踊らないか?」
夫婦で来ているのに、ダンスをしないのは不自然だ。しょうがない。
「……分かりました」
「ありがとう」
伯爵様とのダンスは、可もなく不可もなしって感じだった。本当に仲の良い夫婦なら、見つめ合って、微笑むくらいするのだろうけど、そこまでする必要はないと思っている。
一曲終わった後、もうダンスは終了だと思っていたら……
「エレノア。私達は夫婦なのだから、ダンスは一曲だけで終われないだろう?」
何が夫婦だ!
鬼嫁が降臨しそうになるところだけど、ぐっと堪えるおばちゃん。
確かに夫婦なら連続で踊る人が多い。しょうがない。今日は我慢するか。
「……そうですね。分かりました」
「ありがとう」
結局、三曲踊らされた。無言で踊り続けるのはここまで辛いのか……。次からは一曲だけって始めに言っておこう。
喉が渇いて2人でジュースを飲んでいる時だった。
「ロジャース伯爵夫人。ご機嫌よう」
この声は、あの女か。相変わらず、しつこい女だな。
「まあ! エイベル伯爵令嬢、ご機嫌よう」
この女は貴族学園時代からなぜか私をライバル視してこうやって絡んでくる、いけ好かない女なのだ。
「聞きましたわよ。ロジャース伯爵様の叔父のバード男爵様のお話。本当に大変でしたわねぇ。あっ、もう男爵家は取り潰しになったのでしたわね。失礼しました」
拷問のようなダンスをした後で疲れているのに、この女は……
「まあ、心配してくださったのですね。ありがとうございます。
いつも親切にして下さっていたお方でしたので、どうしてこんなことになったのか……
私も夫も、2人で悲しむ日々を送っておりましたが、夫と痛みを分け合うことで何とか立ち直ってきたところなのですわ。
夫婦って、お互いを支え合えることが出来て素晴らしいですわね。
ところで、エイベル伯爵令嬢は何か素敵な報告はありませんの? ぜひ聞かせて頂きたいわ」
嘘八百を並べていて自分でも呆れそうになるが、別にいいや。
実はエイベル伯爵令嬢は、王子殿下が好きらしいのだが、相手にされないまま数年が経過しているのだ。
分かりやすい態度なんだよね。それを知りながら、おばちゃんはあえて聞いてみる。
「ま、まあ! 幸せな結婚生活を送っているようで何よりですわ。
私はまだまだ未熟ですから、結婚は早いかしら。でも、素敵なお方がいればとは思っていますのよ」
「それは王子殿下のようなお方でしょうか?」
少しだけ小さな声で言ってみた。
「なっ、何を?」
ふふっ! 動揺し過ぎ。分かりやすいわ。
「エイベル伯爵令嬢の幸せを陰ながら応援しておりますわ。
アナタ、そろそろ行きましょうか」
「ああ……。エイベル伯爵令嬢、失礼する」
アナタなんて普段は絶対に言わないけど、今日だけは仲良く見せないといけないからね。
その後は、伯爵様の友人達に話しかけられて大変だった。
仲の良い友人らしくて、酷いことは言われることはないのだが、跡継ぎが楽しみだとか、ロジャース伯爵家に遊びに行きたいだとか、伯爵様の親しい友人達だからこそ、すごく面倒だった。
親しい友人達を騙すのって大変だからね。彼らの前で、以前のように仲の良い二人を演じるのは辛い。
……疲れたな。
仲良しカップルを演じることが、こんなに苦痛で疲れるだなんて知らなかった。
「エレノア、せっかくだから踊らないか?」
夫婦で来ているのに、ダンスをしないのは不自然だ。しょうがない。
「……分かりました」
「ありがとう」
伯爵様とのダンスは、可もなく不可もなしって感じだった。本当に仲の良い夫婦なら、見つめ合って、微笑むくらいするのだろうけど、そこまでする必要はないと思っている。
一曲終わった後、もうダンスは終了だと思っていたら……
「エレノア。私達は夫婦なのだから、ダンスは一曲だけで終われないだろう?」
何が夫婦だ!
鬼嫁が降臨しそうになるところだけど、ぐっと堪えるおばちゃん。
確かに夫婦なら連続で踊る人が多い。しょうがない。今日は我慢するか。
「……そうですね。分かりました」
「ありがとう」
結局、三曲踊らされた。無言で踊り続けるのはここまで辛いのか……。次からは一曲だけって始めに言っておこう。
喉が渇いて2人でジュースを飲んでいる時だった。
「ロジャース伯爵夫人。ご機嫌よう」
この声は、あの女か。相変わらず、しつこい女だな。
「まあ! エイベル伯爵令嬢、ご機嫌よう」
この女は貴族学園時代からなぜか私をライバル視してこうやって絡んでくる、いけ好かない女なのだ。
「聞きましたわよ。ロジャース伯爵様の叔父のバード男爵様のお話。本当に大変でしたわねぇ。あっ、もう男爵家は取り潰しになったのでしたわね。失礼しました」
拷問のようなダンスをした後で疲れているのに、この女は……
「まあ、心配してくださったのですね。ありがとうございます。
いつも親切にして下さっていたお方でしたので、どうしてこんなことになったのか……
私も夫も、2人で悲しむ日々を送っておりましたが、夫と痛みを分け合うことで何とか立ち直ってきたところなのですわ。
夫婦って、お互いを支え合えることが出来て素晴らしいですわね。
ところで、エイベル伯爵令嬢は何か素敵な報告はありませんの? ぜひ聞かせて頂きたいわ」
嘘八百を並べていて自分でも呆れそうになるが、別にいいや。
実はエイベル伯爵令嬢は、王子殿下が好きらしいのだが、相手にされないまま数年が経過しているのだ。
分かりやすい態度なんだよね。それを知りながら、おばちゃんはあえて聞いてみる。
「ま、まあ! 幸せな結婚生活を送っているようで何よりですわ。
私はまだまだ未熟ですから、結婚は早いかしら。でも、素敵なお方がいればとは思っていますのよ」
「それは王子殿下のようなお方でしょうか?」
少しだけ小さな声で言ってみた。
「なっ、何を?」
ふふっ! 動揺し過ぎ。分かりやすいわ。
「エイベル伯爵令嬢の幸せを陰ながら応援しておりますわ。
アナタ、そろそろ行きましょうか」
「ああ……。エイベル伯爵令嬢、失礼する」
アナタなんて普段は絶対に言わないけど、今日だけは仲良く見せないといけないからね。
その後は、伯爵様の友人達に話しかけられて大変だった。
仲の良い友人らしくて、酷いことは言われることはないのだが、跡継ぎが楽しみだとか、ロジャース伯爵家に遊びに行きたいだとか、伯爵様の親しい友人達だからこそ、すごく面倒だった。
親しい友人達を騙すのって大変だからね。彼らの前で、以前のように仲の良い二人を演じるのは辛い。
……疲れたな。
仲良しカップルを演じることが、こんなに苦痛で疲れるだなんて知らなかった。
107
お気に入りに追加
6,596
あなたにおすすめの小説
王子妃だった記憶はもう消えました。
cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。
元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。
実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。
記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。
記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。
記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。
★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日)
●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので)
●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。
敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。
●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
別れてくれない夫は、私を愛していない
abang
恋愛
「私と別れて下さい」
「嫌だ、君と別れる気はない」
誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで……
彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。
「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」
「セレンが熱が出たと……」
そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは?
ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。
その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。
「あなた、お願いだから別れて頂戴」
「絶対に、別れない」
どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません
しげむろ ゆうき
恋愛
ある日、婚約者アルバン様が私の事を悪く言ってる場面に遭遇してしまい、ショックで落ち込んでしまう。
しかもアルバン様が悪口を言っている時に側にいたのは、美しき銀狼、又は冷酷な牙とあだ名が付けられ恐れられている、この国の第三王子ランドール・ウルフイット様だったのだ。
だから、問い詰めようにもきっと関わってくるであろう第三王子が怖くて、私は誰にも相談できずにいたのだがなぜか第三王子が……。
○○sideあり
全20話
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる