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夫と夜会 1
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見た目小娘、中身はアラフォーおばちゃんのエレノア、一応既婚者の十九歳。
今日は愛もお金もない旦那様と夜会に向かっている途中だ。
本当は二人で行きたくないのだけど、今日の夜会は王妃殿下の誕生日を祝う夜会だから、強制参加なのだ。
現地集合・現地解散にしたいくらいだけど、夫婦でそれは目立つからさすがに無理で、結婚してから初めて二人きりで馬車に乗っている。
この馬車の最悪な雰囲気にやられて、馬車酔いしそうだ。
記憶が戻る前のエレノアなら、大好きな旦那様のために綺麗になりたいの! とか言って張り切って夜会の準備をしていただろうけど、今の私は無駄な努力をする気力が湧かないので、ドレスはデザイナーにお任せして、あとは全部メイド達の好きにさせることにした。
既婚者だから、無駄に派手にしなくていいよと言っておいたくらい。水色のお上品なドレスを着て、人妻らしく髪はアップにしてくれた。記憶が戻ってからは強い匂いが苦手になったので、香水は控えている。
馬車は伯爵家のボロ馬車ではなく、私の馬車にしてもらった。伯爵家の馬車は古い年式なので狭くて小さい。狭い馬車に伯爵様と二人きりで乗るのは耐えられないと判断したのだ。
で……、さっきから私の斜め向かいに座っている伯爵様が、何となくこっちをチラチラと見ている気がする。
「伯爵様、何か?」
「エレノア……、もしかしたら今日の夜会で、叔父上のことで何か嫌なことを言われるかもしれない。その時は申し訳ない」
今夜はバード男爵が逮捕されてから初めての夜会だ。貴族はそういう噂話とか大好きだから、親戚の私達は何かしら言われるだろう。
伯爵様とは仲良くするつもりはないが、今日は二人で乗り越えるしかなさそうだ。こんな時に私達が不仲なのがバレたら、余計に面倒なことになりそうだから、今日は一時休戦することにした。
「適当にあしらいますから大丈夫です。伯爵様こそ、親しくされていた男爵様と御令嬢があんなことになってしまって心苦しいかと思いますが、今日は何とかやり過ごしましょう」
「そう言ってくれると助かる……。ありがとう」
今からそんな安心したような表情しなくても。こっちは、こんなに憂鬱なのに。
王宮に着くと伯爵様がエスコートしてくれる。手すら触れたくはないがしょうがない。
広間に入ると、爵位の低い順から王族に挨拶をしている。すでに男爵家は終えているらしく、今は子爵家が挨拶をしているようだ。伯爵家のうちは、あと少しで呼ばれそうだ。
壁側で立っているとロジャース伯爵家が呼ばれる。どれ、挨拶に行こうか。
「エレノア、久しぶりね。元気だった?」
「王妃殿下、ご無沙汰しております。私は元気にしておりましたわ」
「エレノア! お前、結婚して少し老けたな。苦労してるのか?」
「王子殿下。毎日とっても幸せに過ごしてますのでご心配なく」
「ほう! じゃあ、そのうち投資の相談でもしに、ロジャース伯爵家に行かせてもらうからな」
「私のような若輩者が、尊い王子殿下から投資の相談を受けるような立場にありませんわ。王子殿下の周りには素晴らしい人材が揃っていらっしゃるのですから」
「マテオ、やめなさい!エレノア、今度私のお茶会に来てちょうだいね。そのうち招待状を出すわ。」
「はい。楽しみにしております」
王子殿下は貴族学園時代、三年間ずっと同じクラスで、同じ生徒会のメンバーとして過ごしてきた。
あの馴れ馴れしい会話はその名残だ。在学中に何度も家名で呼んで欲しいと言っても、呼び方を変えてくれることなく卒業してしまった。
王妃殿下の方は、同級生のママとして割と気さくに話しかけてくれる。
でも私は今、一応は人妻だ。王妃殿下が私の名前を呼び捨てにするのはいいけど、王子殿下があんな場で私を呼び捨てにするのはやめて欲しい。あれがなければ、顔はイケメンだし優秀な人なのに。
次男で割と自由に育ったのかもしれないけど、ああいう非常識で子供っぽいところが何となく嫌で、付き合うなら絶対に年上の大人な人だわーなんて考えていたら、この顔だけの伯爵様に落ちちゃったんだよねー。ああ、失敗した。
「エレノアは王子殿下とは仲が良いのだな……」
「まさか! 学園時代にずっと同じクラスで、一緒に生徒会をやって、こき使われただけの関係ですわ!」
おっと、伯爵様に王子殿下と仲が良いのを全否定しようとしたら、つい鬼嫁らしく強い口調になってしまった。
ダメダメ、ここは夜会で誰に見られているのか分からないんだからね。
夜会の本番はこれからだ。
今日は愛もお金もない旦那様と夜会に向かっている途中だ。
本当は二人で行きたくないのだけど、今日の夜会は王妃殿下の誕生日を祝う夜会だから、強制参加なのだ。
現地集合・現地解散にしたいくらいだけど、夫婦でそれは目立つからさすがに無理で、結婚してから初めて二人きりで馬車に乗っている。
この馬車の最悪な雰囲気にやられて、馬車酔いしそうだ。
記憶が戻る前のエレノアなら、大好きな旦那様のために綺麗になりたいの! とか言って張り切って夜会の準備をしていただろうけど、今の私は無駄な努力をする気力が湧かないので、ドレスはデザイナーにお任せして、あとは全部メイド達の好きにさせることにした。
既婚者だから、無駄に派手にしなくていいよと言っておいたくらい。水色のお上品なドレスを着て、人妻らしく髪はアップにしてくれた。記憶が戻ってからは強い匂いが苦手になったので、香水は控えている。
馬車は伯爵家のボロ馬車ではなく、私の馬車にしてもらった。伯爵家の馬車は古い年式なので狭くて小さい。狭い馬車に伯爵様と二人きりで乗るのは耐えられないと判断したのだ。
で……、さっきから私の斜め向かいに座っている伯爵様が、何となくこっちをチラチラと見ている気がする。
「伯爵様、何か?」
「エレノア……、もしかしたら今日の夜会で、叔父上のことで何か嫌なことを言われるかもしれない。その時は申し訳ない」
今夜はバード男爵が逮捕されてから初めての夜会だ。貴族はそういう噂話とか大好きだから、親戚の私達は何かしら言われるだろう。
伯爵様とは仲良くするつもりはないが、今日は二人で乗り越えるしかなさそうだ。こんな時に私達が不仲なのがバレたら、余計に面倒なことになりそうだから、今日は一時休戦することにした。
「適当にあしらいますから大丈夫です。伯爵様こそ、親しくされていた男爵様と御令嬢があんなことになってしまって心苦しいかと思いますが、今日は何とかやり過ごしましょう」
「そう言ってくれると助かる……。ありがとう」
今からそんな安心したような表情しなくても。こっちは、こんなに憂鬱なのに。
王宮に着くと伯爵様がエスコートしてくれる。手すら触れたくはないがしょうがない。
広間に入ると、爵位の低い順から王族に挨拶をしている。すでに男爵家は終えているらしく、今は子爵家が挨拶をしているようだ。伯爵家のうちは、あと少しで呼ばれそうだ。
壁側で立っているとロジャース伯爵家が呼ばれる。どれ、挨拶に行こうか。
「エレノア、久しぶりね。元気だった?」
「王妃殿下、ご無沙汰しております。私は元気にしておりましたわ」
「エレノア! お前、結婚して少し老けたな。苦労してるのか?」
「王子殿下。毎日とっても幸せに過ごしてますのでご心配なく」
「ほう! じゃあ、そのうち投資の相談でもしに、ロジャース伯爵家に行かせてもらうからな」
「私のような若輩者が、尊い王子殿下から投資の相談を受けるような立場にありませんわ。王子殿下の周りには素晴らしい人材が揃っていらっしゃるのですから」
「マテオ、やめなさい!エレノア、今度私のお茶会に来てちょうだいね。そのうち招待状を出すわ。」
「はい。楽しみにしております」
王子殿下は貴族学園時代、三年間ずっと同じクラスで、同じ生徒会のメンバーとして過ごしてきた。
あの馴れ馴れしい会話はその名残だ。在学中に何度も家名で呼んで欲しいと言っても、呼び方を変えてくれることなく卒業してしまった。
王妃殿下の方は、同級生のママとして割と気さくに話しかけてくれる。
でも私は今、一応は人妻だ。王妃殿下が私の名前を呼び捨てにするのはいいけど、王子殿下があんな場で私を呼び捨てにするのはやめて欲しい。あれがなければ、顔はイケメンだし優秀な人なのに。
次男で割と自由に育ったのかもしれないけど、ああいう非常識で子供っぽいところが何となく嫌で、付き合うなら絶対に年上の大人な人だわーなんて考えていたら、この顔だけの伯爵様に落ちちゃったんだよねー。ああ、失敗した。
「エレノアは王子殿下とは仲が良いのだな……」
「まさか! 学園時代にずっと同じクラスで、一緒に生徒会をやって、こき使われただけの関係ですわ!」
おっと、伯爵様に王子殿下と仲が良いのを全否定しようとしたら、つい鬼嫁らしく強い口調になってしまった。
ダメダメ、ここは夜会で誰に見られているのか分からないんだからね。
夜会の本番はこれからだ。
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