君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした

せいめ

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閑話 ロジャース伯爵

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 エレノアが笑顔で応接室を出てった後、私は叔父上に怒りをぶつけていた。

「叔父上とシンディーは、私達の結婚が相当嫌だったようですね?
 ベネット家から縁談が来た時、あんなに喜んでくれていたのに、非常に残念です」
「アラン、誤解だ! 私は夫人の仕事が忙しくて、二人が夫婦として上手くいってないと聞いたから、アランと仲の良いシンディーが役に立てると思っただけだ。
 夫人はアランを気に入って結婚したらしいから、私やアランが話せば理解するだろうと思ったのだが、あの若さであそこまで勝ち気で饒舌な夫人だったとは思わなかった。
 まさか離縁の話までするとは……」

 叔父上はエレノアを生意気とでも言いたいのだろう。
 まだ若いエレノアを上手く言いくるめるつもりで来たが、上手くいかなかった上にエレノアに言い負かされてしまって面白くないといったところか。
 私はこんな叔父の本性にずっと気付かずにいたのだな……

「叔父上。私は離縁はしませんし、第二夫人も要りません。エレノアをこれ以上怒らせたくないなら、早くお帰りください。叔父上もベネット家を怒らせたくはないでしょう?」
「兄様、私は兄様と結婚したかったの!」
「シンディーは妹としか思えないと言っている!エレノアに勘違いされたくないから、早く帰ってくれ」

 そこまで言うと二人は帰って行った。

「旦那様、使用人のマリラを奥様がクビにしたようです」

 執務室に戻ると家令のトーマスから報告を受ける。

「クビ? うちでずっと働いてくれていた使用人だよな?」
「はい。メイド長が色々と知っているようなので、呼んで話を聞きましょうか?」
「頼む」

 トーマスに呼ばれて来たメイド長から詳しい事情を聞いた私は、ため息しか出てこなかった。
 メイド長は、エレノアと叔父たちのやり取りを全て聞いていたようだ。
 エレノアを侮辱した噂話があると叔父上から言われ、彼女は噂話の犯人探しをすると言って使用人を集めたらしい。そこで使用人のマリラと叔父上が一緒にいる所を目撃されていたのが分かったようだ。
 マリラが叔父上の紹介でうちに来たなんて知らなかった。あの女は裏でエレノアの陰口を言ったりして、エレノアへの態度が良くなかったらしい。
 エレノアと私が上手くいってないことを叔父上にバラしたのもマリラなのだろう。そんな使用人はクビにして当然だ。

「お分かりだと思いますが、バード男爵様とマリラが奥様に無礼を働いた原因は旦那様にありますよ」
「……分かっている」

 初夜の日のことをまだ謝れていないのに、更に私の親族のことで彼女を傷つけてしまった。
 初夜であんなことを言われた後に、シンディーを第二夫人にだなんて言われたら、誰でも私とシンディーの関係を疑うだろう。
 私に離縁の話をするエレノアは、何の迷いも感じられなかったように思う。
 私はこんなにやりきれない思いでいるのに、エレノアの中で、私はどうでもいい存在になっているのだろうか……?

 このままではいけないと思った私は、エレノアの執務室に向かっていた。
 だが、執務室で私を迎えてくれたエレノアは、相変わらず感情を失ったような目で私を見ていた。
 二人で話がしたいと思い人払いを頼んだのだが、彼女から返ってきた言葉は『ドアは開けたままに致します』だった。
 その言葉が意味するものは、私を信頼していないという拒絶だろう。

 叔父上やシンディー、私の親族達とのこと、そして初夜で私が話したことについての謝罪をし、離縁はしないこと、夫婦として仲良くやっていきたいとは思っていることを伝えるのだが、エレノアから言われたのは、お飾りの妻として表面的には仲良くしますということだった。
 私が初夜の日に言ったことはそういうことなのだと。言ったことは取り消せないのだと彼女は冷ややかに言う。

 私はこの時になって、初めて本当の絶望を知った気がした。


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