君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした

せいめ

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閑話 ロジャース伯爵

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 実家に忘れ物を取りに行くと言って出掛けたエレノアを待つが、ずっと帰って来なかった。そして暗くなる頃にエレノアの実家から使いがやってくる。

「旦那様。先程、奥様の実家から使者が来まして、奥様はしばらくは実家で療養するそうです」
「療養……? いつ帰って来るんだ?」

 やはりまだ体調が悪かったんだな。あの時、実家に帰ることをやめさせればよかった……

「しばらくとしか言われておりません。もしかしたら、ずっと帰って来ないかもしれないですね」
「トーマス! 何てことを言うんだ」
「少し待ってみて戻られないようでしたら、旦那様が直接見舞いに行くとか、迎えに行くとかを考えた方がいいかもしれませんね」
「……そうだな。その時は考えてみる」

 そこから更に数日が経つが、いつまで待ってもエレノアは帰って来ない。実家に迎えに行くか? 何と言葉を掛ければいいだろうか……? 一人で悶々と悩む日々が続く。

「旦那様! 奥様からの文を届けに騎士が来ています。」

 それを聞いてすぐに出て行くと、ベネット伯爵家の騎士から手紙を渡される。
 手紙には、エレノアが個人で事業をしたいので屋敷の部屋を使わせて欲しいことや、使用人を個人で雇いたいので、使用人達の部屋も使わせて欲しいと書いてある。
 部屋はいくらでも空いているからそれは構わないのだが、手紙に書いてあったのはただそれだけ。要件だけの事務的な内容の手紙だった。
 以前、婚約中にエレノアから貰った手紙には、彼女の近況報告や、私の体を気遣うようなこと、早く会いたいとか、読んでいて心が温まるような内容の手紙をくれていたことを思い出す。
 手紙に違和感を感じた。この感じは何なのだろう……
 その日から数日後、エレノアは使用人達を引き連れて邸に帰って来たのであった。

「伯爵様、ただいま帰りました。
 実家に忘れ物を取りに行った後、気分が優れませんでしたので、あちらでしばらく療養させて頂きましたわ。帰るのが遅くなりまして、大変申し訳ありませんでした」

 帰って来たことを知り、慌てて玄関に向かった私を見て、隙のない笑みを浮かべ挨拶をしてくるエレノア。目が笑ってないのが分かった。

 エレノアにあの日に言ったことを謝らなければならないのに……。早く誤解を解かなければならないのに。それなのに言葉が出てこない……
 結局、謝ることも出来ずにどうでもいい内容の話しか出来なかった。
 エレノアは邸の使用人を紹介して欲しいと言い、メイド長が対応してくれることになったのだが、

「旦那様、奥様に使用人を紹介するのは旦那様がされた方が良かったと思います。
 旦那様と奥様の関係が良くないことは、二人の雰囲気で使用人達も分かっておりますし、初夜もきちんと済ませていないとなると、お若い奥様を見下す者が出てきてもおかしくありません。
 旦那様が使用人達の前で、大切な妻だから誠心誠意仕えるようにと強く言うくらいのことをしても良かったのかと思います」

 トーマスに言われてハッとする。やってしまった……
 エレノアが家令かメイド長にお願いしたいと言っていたのもあるが、エレノアに謝ることが出来なかった私は、彼女に対して気まずくなってしまい、そこまで頭が回らなかったのだ。

「まだあの日のことを謝ることも出来ていないのですよね? 謝るのは早くされた方がいいかと思います」
「分かっている!」

 しかし、同じ邸で生活しているエレノアと顔を合わせることはほとんどなかった。
 食事は忙しいことや疲れていることを理由に、自室や執務室で食べているようだし、寝る時に夫婦の寝室に来ることもない。
 エレノアの部屋に訪ねて行こうかと考えたこともあったが、護衛騎士がドアの所に立っており、気楽に訪ねられる雰囲気ではなかった。
 用があるときも直接話をしに来ることもなく、要件を書いた手紙が届けられる。
 鈍い私でも気づいた。エレノアは私を避けて生活をしているということに。

 エレノアが愛に狂って、私に執着するようになったらどうしようかなどと考えていた私は、何て愚かだったのだろう……
 エレノアは私に執着するどころではなく、自身の目から私を消して生活しているではないか。

 そんな私は、すぐにエレノアに謝らなかったことを後悔することになる。

 
 
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