君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした

せいめ

文字の大きさ
上 下
16 / 125

身を引きますわ

しおりを挟む
 応接室にて、伯爵様とバード男爵・令嬢、私で話を続ける。

「男爵様は伯爵様の叔父として心配して下さっているのです。忙しい私の為に、お嬢様を第二夫人として迎えてはと提案までして頂きましたのよ。お嬢様と伯爵様は仲が良いから何の問題もないことも教えて頂きましたわ」
「叔父上。私とシンディーは兄妹みたいな関係だと知りながら、エレノアにそんな話をしに来たのですか?」

 だから、たかりに来たんだって!
 しかし伯爵様は、シンディーお嬢様を第二夫人に迎えたいとは思っていないような感じがする。本当に妹としか見てないってこと? 微妙な反応をしていた。
 でもこの国での第二夫人って、貴族の中でも本当に裕福な人か高位の貴族くらいしか迎えないよね。こんな貧乏伯爵家には不釣り合いだよ。持てるとしたら愛人くらい……
 この男爵親子は本気で私にたかる気でいるわ。

「いや、シンディーなら二人を支えることが出来るだろうと思ってな。いい話だと思うのだが……
 夫人も前向きに考えているようだし」
「うちみたいな伯爵家が第二夫人を迎えるなんてあり得ませんよ。それにシンディーは妹です」

 あらら……、シンディーお嬢様が泣きそうになっているわ。
 せっかく兄様が好きって言ってくれたのに。もしその気持ちを受け止めるようなら、私はすぐに身を引こうかと思っていたのに。

「失礼ですが、お嬢様はおいくつになりますの?」

 この会話に年齢は関係ないが、何となく気になって聞いてみた。

「……二十三歳になりますわ」

 私より四つも歳上? ……で、そんな可愛らしいドレス?
 だから貴族学園で見たことがなかったのね。二歳差までじゃないと同じ時期に在学出来ないもん。
 二十三歳ならそろそろ本気で相手を見つけないと。ふふっ、譲ってあげようか。

「伯爵様、二十三歳にもなる可愛いお嬢様が〝兄様が好き〟とまで言って下さっているのですよ」
「エレノア、私は第二夫人は要らない」

 そんな必死な顔しなくても分かるよ……。だって貧乏なんだもん。顔だけの伯爵様なりに、節約して生活しているのは知ってるし。

「第二夫人が要らないのでしたら、私が身を引きましょう。すぐに離縁いたしますので、お嬢様を正妻として迎えてあげて下さいませ」
「エレノア……、何を言って?」
「伯爵様が初夜の日に、私にあのような話をされた理由がやっと分かりましたわ。仲の良い二人を引き裂くようなことをして申し訳ありませんでした。
 仕事を優先する至らない妻よりも、伯爵様をお慕いしているお嬢様が妻でいて下さった方が幸せでしょう」

 顔だけの伯爵様に嫌味を言って、ストレス解消する鬼嫁。
 それくらいはいいでしょ? こっちは結婚詐欺に合ったようなものなんだから。

「あれは違う! シンディーは本当に妹としか思っていないんだ」

 アラフォーおばちゃんの記憶が戻る前のエレノアだったら、バード男爵に言われたことに傷付いたり、シンディーお嬢様の存在を気にしたりしたかもしれないけど、今の私はそんなのどうだっていいの。

 私はただ、伯爵様も男爵親子も腹が立ったから、少しは困ればいいと思ってこの話をしているだけなんだよー!
 白い結婚が認められる時期まで我慢しようかと思っていたけど、思った以上に金儲けが上手くいっているから、今すぐに離縁してもいいや。

「夫人! 私達親子は君たちの離縁は望んでいない。シンディーを第二夫人にしてくれるだけでいいんだ。三人で仲良くしてくれたらいいじゃないか」

 仲良く出来るわけないし!
 しかも、金蔓にいなくなられるのは困るって反応してる。うちはサイフは別だって話をした方がいいかな?  いや、また何か口を出してきそうだから今は言わない方がいいよね。

「いえ。お嬢様が可哀想ですし、至らない妻は必要ありませんので、私は身を引きますわ。お嬢様の愛を応援したいと思います。
 離縁するにあたって、まだ結婚して日が浅いので、持参金二億は返金されますよね? それは私の両親に返して下さると助かりますわ。
 邪魔者の私はこれで退席しますので、後は三人で話し合って下さいませ。失礼致します」

 困る伯爵様と男爵親子を見てスッキリした鬼嫁は、笑顔で退室するのであった。
 その後、バード男爵と令嬢が私を訪ねてくることはなくなった……
 


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。 ※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31

【完結】婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける

堀 和三盆
恋愛
「クアリフィカ・アートルム公爵令嬢! 貴様との婚約は破棄する」  王太子との結婚を半年後に控え、卒業パーティーで婚約を破棄されてしまったクアリフィカ。目の前でクアリフィカの婚約者に寄り添い、歪んだ嗤いを浮かべているのは異母妹のルシクラージュだ。  クアリフィカは既に王妃教育を終えているため、このタイミングでの婚約破棄は未来を奪われるも同然。こうなるとクアリフィカにとれる選択肢は多くない。  せめてこれまで努力してきた王妃教育の成果を見てもらいたくて。  キレイな姿を婚約者の記憶にとどめてほしくて。  クアリフィカは荒れ狂う感情をしっかりと覆い隠し、この場で最後の公務に臨む。  卒業パーティー会場に響き渡る悲鳴。  目にした惨状にバタバタと倒れるパーティー参加者達。  淑女の鑑とまで言われたクアリフィカの最期の姿は、良くも悪くも多くの者の記憶に刻まれることになる。  そうして――王太子とルシクラージュの、後悔と懺悔の日々が始まった。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】 男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。 少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。 けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。 少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。 それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。 その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。 そこには残酷な現実が待っていた―― *他サイトでも投稿中

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

「あなたは公爵夫人にふさわしくない」と言われましたが、こちらから願い下げです

ネコ
恋愛
公爵家の跡取りレオナルドとの縁談を結ばれたリリーは、必要な教育を受け、完璧に淑女を演じてきた。それなのに彼は「才気走っていて可愛くない」と理不尽な理由で婚約を投げ捨てる。ならばどうぞ、新しいお人形をお探しください。私にはもっと生きがいのある場所があるのです。

処理中です...