君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした

せいめ

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閑話 ロジャース伯爵

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 愛することは難しくても、家族として仲良くしたいとは思っていた。そのことも話そうとしていたのだが、その前にエレノアは涙を流してしまった。
 泣かせるつもりはなかったのだが、はっきり言いすぎてエレノアを傷つけてしまったようだ。
 泣いてしまったエレノアを見て内心慌てていると、

「……痛い。……ううっ」

 エレノアがこめかみのあたりを手で触って痛がっているように見えた。

「おい、エレノア?」

 慌てて声を掛けるが、彼女はそのまま痛がって倒れてしまった。
 すぐに医者を呼んで診てもらうが、原因が分からないと言われてしまう。その日、エレノアは目覚めなかった。
 どうして……? エレノアがこのまま目覚めなかったら私はどうすれば……

「旦那様。奥様には私達が付いておりますから、少し休まれて下さいませ」

 エレノアの専属メイドが私を気遣って声を掛けてくれたが、私は自分で看病していたかった。

「エレノアが目覚めるまで、私は側に付いていたいと思っている」
「奥様が目覚めましたら、すぐに伯爵様にお知らせしますから」

 しかし、自分の側近から執務が滞っていると言われてしまい、エレノアのことはメイド達に頼む事にした。
 その後もなかなかエレノアは目覚めなかった。執務の合間に何度もエレノアの所に行くが、苦しそうな表情で眠ったまま。
 そして倒れて3日経った頃……

「旦那様! 先程、奥様が目覚められたようでして、今から実家に行かれるそうです」

 家令が慌てて執務室に入って来て教えてくれる。
 目覚めたばかりなのに実家に行くだと?
 あんなに苦しそうに寝ていたのに、まだ安静にするべきだろう。私はこんなに心配しているのに。
 気づくと、私はエレノアの馬車まで走っていた。
 するとエレノアはちょうど馬車に乗り込むところだったので、すぐに声を掛ける。
 目覚めてくれたのは嬉しいが、まだ顔色が悪いし、無理をして実家に急いで行く必要はないだろうと思い、そのことをエレノアに話すのだが、反応が冷ややかなのが分かった。
 エレノアの優しかった目は、感情のない冷たい目になっていたのだ。
 そして、初夜の日に言われたことは理解していると言われ、更には私の愛人にきちんと挨拶にくるように伝えて欲しいとまで言われてしまった。
 私には愛人なんていないのに、どうしてそんなことを……?

 私の呼び方も、婚約者だった時はアラン様と呼んでくれていた。
 結婚式当日には、今日からは旦那様と呼びますと恥ずかしそうに話していたのに、どうして伯爵様だなんて他人行儀な呼び方になっているんだ?
 エレノアが変わってしまった……

「旦那様。先程、奥様が愛人に挨拶に来るようにと話していたのが聞こえましたが、どういうことでしょう?
 初夜の日に言われたこととは? 一体何を話されたのでしょうか?」

 エレノアが出発した直後、近くにいた家令のトーマスに彼女との会話について聞かれる。トーマスとは昔からの付き合いで、幼馴染みたいなものだと思う。
 そんなトーマスに、私は初夜の時にエレノアが倒れる前に話をした内容を伝えることにした。

「……何てことを。そのような話をされたら、旦那様には別に愛する人がいて、自分はお金のためだけに結婚をした、ただのお飾りの妻だと思われても仕方がないですよ」

 トーマスの反応は冷ややかなものだった。
 私はそんなつもりで言ったのではないが、エレノアの私への態度や言動を見ると、そのように受け止めているということらしい。

「私はエレノアに、亡くなった母のようになって欲しくなかっただけなんだ」
「先代の奥様とエレノア様は全然違うではないですか。先代の旦那様も奥様も特殊な人達でしたから、旦那様がそういった考えをお持ちになるのは仕方がないのかもしれません。
 しかし、その言葉によってエレノア様は傷ついたでしょうし、旦那様に対して失望したことでしょう。
 奥様にきちんと謝ってください」
「……分かった」

 彼女が涙を流していた時のことを思い出すと、今でも心が痛む。
 エレノアが私に愛人がいると思っているならば、誤解を解くために事情を話して、彼女に謝ろうと思った。

 その後、執務をしながらエレノアの帰りを待つが、その日にエレノアは帰って来なかった。


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