君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした

せいめ

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爺さんと孫

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 伯爵家の女主人として、また鬼嫁として、私は伯爵家の内政管理をやらせてもらうことになった。これである程度の伯爵家のお金の動きは分かるはず。
 今までは家令のトーマスがやっていたようで、帳簿を見せられながらやり方を習いつつ、引き継ぎを受ける。
 貧乏貴族だから収入も支出も少なくて、節約しているのかお金の動きは少ない。これくらいの内容ならそこまで難しくはなさそうだから、何とかなりそうだ。

 家令のトーマスは伯爵様より少し歳上くらいに見える。普通に礼儀正しくて親切そうで良かった。
 しかし、家令は伯爵様と仲が良さそうだし、職業柄ポーカーフェイスっぽいから少し警戒してしまう。
 鬼嫁として毅然とした態度で臨みつつ、余計な会話はしないようにしよう。あの伯爵様に何を報告されるか分からないから気を付けなければならない。

 内政管理をさっさと終わらせた後、少し時間があったので、お母様から貰ってきた金貨を握りしめ、私は馬小屋の方に向かうことにした。
 あの御者をやっていた爺さんを探してキョロキョロして歩いていると、馬車の整備をしている爺さんを見つける。伯爵家の馬車は古いから、整備は欠かせないのだろう。
 爺さんが整備している姿をじっと見ていると、私がいることに気付いた爺さんは、立ち上がって頭を下げてくれた。

「お爺さん、忙しいところ失礼するわね。こちらに嫁いでからまだお爺さんに挨拶をしてなかったので、ちょっと来てみました。
 エレノアです。どうぞよろしくお願いします」
「ジャックです。よろしく頼みます。
 奥様、こんな薄汚れた場所にまで挨拶に来なくていいのですぞ」

 突然来たから迷惑だったかもしれない。邪魔をしては悪いから、金貨だけ渡して早く戻ろう。

「お爺さん。これ、何かに使って下さい」

 金貨を爺さんに渡すと、爺さんがかなり驚いたようで、ギョっとしたのが分かった。

「……クビになるのかい?」

 爺さんは焦ったような反応をしている。

「奥様、ワシは死んだ息子夫婦の子供を育てているから、仕事がなくなると困る。クビにしないで欲しい。お願いします!」

 必死に頭を下げる爺さん。金貨が退職金だと思われたようだ。
 悪かったかな……

「お爺さんをクビにしませんよ。金貨は他の使用人達にも渡しました。
 これからもよろしくお願いしますね」
「あっ、そうだったのかい。すまないね……
 老いぼれだから、明日から来なくてもいいと言われるのかと思ってしまったよ」

 私の話を聞いた爺さんがホッとしているのが分かった。

「いえ、ビックリさせてごめんなさいね。ところで、お爺さんがお孫さん達を育てているの?」
「ああ。数年前の流行病で息子夫婦が亡くなったから、引き取ってやったんだ」

 アラフォーくらいになると、そういう話には弱いんだよねぇ。
 特に頑張るお年寄りとか、親を亡くした子供の話なんて、それだけで涙が流れてしまいそうになるんだよ。

「お爺さんが一人で育てているの?」
「婆さんも亡くなっているから、ワシが孫二人を養っているよ」
「お孫さんはいくつ? 昼間は何をしているの?」

 見た目小娘でも、中身はおばちゃんだから遠慮なく根掘り葉掘り聞いちゃう私。

「上が11歳で下が9歳だったかな。昼間は自由にしてるよ」

 この世界の平民の子供なら、放置子に近い状態でいるのだろうね。
 でも、この爺さんに何かあったら二人はどうなるの?

「お爺さんが帰るまで、二人で家で待っているのね?」
「夜会がある時は帰りが遅くなるから、待たずに先に寝てるな」

 夜会の時も爺さんが御者やってたの?
 あんな真っ暗で遅い時間になるのに?
 婚約者だった時は貧乏な伯爵様に悪いと思って、夜会は現地集合・現地解散でやっていたから全く知らなかった。
 これは……、色々とツッコミどころがあるわ。

 その後、家令のトーマスを呼んで伯爵家から私への予算やお小遣いは要らないから、そのお金で新しい御者を雇い入れて欲しいことをお願いした。
 ついでに、爺さんは年齢的に御者は大変だから馬車をしまっておく倉庫や馬小屋の管理者にして欲しいことを頼んでみると、トーマスはすぐに伯爵様から許可を取ってきてくれた。

 爺さんには、孫たちが働く意思があるなら、今はまだ見習いで小遣い程度しか給金は支払えないけど、やる気があるなら連れて来てもいいよと言ってみた。
 すると爺さんは、早速次の日に二人を連れてきた。孫はお兄ちゃんと妹だった。

 孫の兄の方は私の御者の手伝いをさせて、時間がある時は私の護衛騎士に剣術を教えさせた。
 妹の方は私のメイド達に面倒を見てもらうことにして、お作法や針仕事とか覚えてもらうことにした。
 こんなことをしても些細なことだとは思っている。
 しかし爺さんに何かあった時、自分達で何とか生きていけるように育って欲しいと鬼嫁は願うのであった。


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