君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした

せいめ

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閑話 ロジャース伯爵

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 私の両親はどうしようもない人間だった。

 見目麗しいと令嬢達に人気のあった父と、そんな父を重い程に愛していた母。
 父の方は母を政略で結婚しただけの妻としか思っておらず、母が私を妊娠してからは、愛人の所に入り浸り、邸に帰って来なくなったらしい。
 そんな母の口癖は『愛しているって言っていたのに……』だった。
 虚な目でその言葉を口にする母は、まだ幼かった私には恐怖でしかなかった。
 子供ながらにもっと私を見てほしいと思っても、母が見ているのは父の肖像画だけ。
 私が成長するにつれて父に似てくると、母は複雑そうな目で私を見てくるようになる。

 いい加減に目を覚ませばいいのに……
 あの父は母のことなど全く愛してないし、息子の私にも興味はない。愛なんて求めるから苦しくなるのだ。愛人しか見てない父なんて、さっさと忘れてしまえば楽になれるのに。

 気付くと母は散財して過ごすようになる。宝石やドレスの他に、胡散臭い占い師に大金を払ったり、賭け事に使ったりしていたようだ。散財することで寂しさを紛らわしていたのかもしれない。
 父の方は、そんな母を放置して愛人にお金をつぎ込んでいたようだった。

 父が流行病で愛人の家で亡くなると、母も体調を崩して後を追うように亡くなる。
 そんな両親が私に残したのは多額の借金だけだった……
 本当に自分勝手な両親だと思う。

 借金まみれであっても、伯爵として最低限の社交はしなければならない。父親譲りの見た目で、令嬢達から声をかけられることは沢山あったが、家名を名乗るとみんな引いて行く。令嬢達から見たら、借金で没落しそうな家門の私とは関わりたくないようであった。

 私からすれば、あの愛に狂った母親を見て育ってきたこともあって女性は苦手だったし、結婚に何の希望も持てなかったので、令嬢に相手にされなくても全く気にならなかった。
 しかし貧乏貴族とはいえ、貴族は貴族。婚約者を決めずにいる私に、親族や友人、側近など周りが煩くて困っていた。

 そんな時、夜会で私はある令嬢と出会う。
 エレノア・ベネット伯爵令嬢。富豪のベネット伯爵家の御令嬢だ。
 ベネット伯爵家は領地経営だけでなく、国内で売れている物や流通しているものは、全てベネット伯爵家が手掛けていると言われるほど、商売で大成功している家門である。同じ伯爵家でも、細々と領地経営だけをしている私の家とは次元の違う金持ちの伯爵家だった。
 
 ベネット伯爵令嬢は、そんな金持ちの伯爵家の一人娘として、社交界では有名だ。
 ホワイトブロンドの美しい髪に、大きなブルーの瞳。透き通るような白い肌に、整った顔立ちの美少女。女性が苦手であった私ですら、見惚れるくらいの美貌を持つ少女だった。

 富豪の一人娘である美しい御令嬢は、とても人気があるらしく、社交の場で令息達に囲まれて困っている姿をよく見る。まだ10代の彼女は、年上の令息を上手くあしらうことに慣れていないように見えた。

 そんな彼女が、押しの強い令息に強引に誘われて困っている時に、偶然に鉢合わせしたのが私であった。

 

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