上 下
3 / 125

ちょっと実家まで

しおりを挟む
 私は、無理をさせたくないと言うミサとリリーを何とか説得し、忘れ物をとりに実家に一度帰ることにした。
 ちなみに、ミサとリリーには私の部屋の留守番をしてもらうため、伯爵家に残ってもらうことにした。私の部屋には、金持ちの実家から持ってきた宝石や現金が沢山あるが、伯爵家の人間は信用出来ないので、二人に監視してもらうことにしたのだ。
 外出の準備が出来て馬車に乗り込もうとした時だった……

「エレノア! どこへ行く?」

 この声は……、あの顔だけの詐欺男……
 事後報告で黙って行こうとしたのに、あの男の執務室から私の馬車が見えて、金蔓のお飾り妻に逃げられると思い、慌てて出て来たとか?

 どうせ自分に恋をしている世間知らずの小娘だから、何でも言うことを聞くだろうし、何を言ってもいいと考えて初夜であんな態度を取ったのだろうけど……、そのおかげで見た目小娘、中身はアラフォーのおばちゃんになったから、今まで通りにはならないわよ。
 ふふっ……。どうせなら鬼嫁になってやるわ!

「ちょっと忘れ物を思い出しましたので、実家に行って来ますわ。では……」
「待て! 体は大丈夫なのか? 実家に急いで行く必要はないだろう」

 伯爵様に手首をガシッと掴まれる。

「伯爵様、痛いのですが」

 私の冷たい声と視線に驚いた伯爵様は、パッと手を離す。
 鬼嫁たる者、旦那に何をされようとも、常に冷静にバッサバッサと切り捨てる強さが必要なのだ。

「す、すまない。しかし、無理して今から実家に行くことはしなくても……。まだ顔色が悪いぞ」

 前のエレノアなら、『優しい旦那様が私を心配してくれてるわ。幸せ、大好き!』
 ……なーんて思うだろうけど、今の私は詐欺男がまた何か耳障りな話をしてるくらいにしか感じないのだ。
 初夜にあんなことを言ったばかりだから、今私に実家に帰られるのは、何となく嫌なんでしょ?

「ご心配なく。伯爵様との結婚自体が無理をしていることに気付きましたので、それと比べましたら、病み上がりに実家に行くくらいのことは大したことありませんわ」
「結婚自体が無理をしている……?」

 あらあら、自分に恋をして従順だったはずの小娘が、急に嫌味ったらしいことを口にしたから驚いちゃったかな?

「伯爵様、大丈夫ですわ。初夜の日に言われたことは理解しておりますから。
 ところで、伯爵様の愛する人はいつ紹介してくださるのです?
 形だけの妻でも、この伯爵家に多額の援助をしているのはこの私と私の実家です。
 伯爵様の愛人もうちで養っているようなものになるのですから、正妻である私にきちんと挨拶にくるように伝えて下さいませ」

 この家を牛耳るのは鬼嫁である私になるのだから、愛人がいるなら挨拶くらいはしてもらわないと。何事も初めが肝心だからね。

「何を言っている? 愛人などいない!」

 ふーん。君を愛するつもりはないとか言っていたから、貧乏な下位の貴族令嬢か平民あたりの愛人がいるのかと思ってカマをかけたんだけど。
 まぁ、後で人を使って調べれば分かるからいいか。

「そうでしたか。それは失礼致しました。
 話すこともないので、そろそろ失礼させて頂きますわ」

 何か言いたそうな顔の伯爵様を無視して馬車に乗り込むと、馬車は走り出す。最新の馬車は乗り心地が最高ね。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

【完結】婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける

堀 和三盆
恋愛
「クアリフィカ・アートルム公爵令嬢! 貴様との婚約は破棄する」  王太子との結婚を半年後に控え、卒業パーティーで婚約を破棄されてしまったクアリフィカ。目の前でクアリフィカの婚約者に寄り添い、歪んだ嗤いを浮かべているのは異母妹のルシクラージュだ。  クアリフィカは既に王妃教育を終えているため、このタイミングでの婚約破棄は未来を奪われるも同然。こうなるとクアリフィカにとれる選択肢は多くない。  せめてこれまで努力してきた王妃教育の成果を見てもらいたくて。  キレイな姿を婚約者の記憶にとどめてほしくて。  クアリフィカは荒れ狂う感情をしっかりと覆い隠し、この場で最後の公務に臨む。  卒業パーティー会場に響き渡る悲鳴。  目にした惨状にバタバタと倒れるパーティー参加者達。  淑女の鑑とまで言われたクアリフィカの最期の姿は、良くも悪くも多くの者の記憶に刻まれることになる。  そうして――王太子とルシクラージュの、後悔と懺悔の日々が始まった。

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います

ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」 公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。 本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか? 義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。 不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます! この作品は小説家になろうでも掲載しています

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

処理中です...