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友人

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 パーティー会場を後にして馬車に乗り込んだ私は、ぐったりしてしまった。
 ハッキリと断っても私の気持ちを理解してくれない殿下にはほとほと疲れた。
 あの人はなぜこんなに執着してくるのか……?

「アリエル、気分が悪そうだ。
 殿下にまた何か言われたのか?」

「……はい。もう疲れてしまいました」

「私があの場を離れたから良くなかったな。
 すまない……」

 シュンとして謝る旦那様を見たら、心がズキンと痛んできた。
 私がもっと上手く立ち回ることが出来れば良かったのに。
 殿下に対してもっといい断り方があったのかもしれない。でも私は動揺して殿下のペースに引き込まれてしまった。
 今の私に心理戦は向いていないようだ。

「いえ。沢山の貴族が見ている前でダンスを断ることは出来ませんわ。王女殿下を傷付けてしまいます。
 あれは仕方がありませんでした。
 ところで旦那様……、教えて欲しいことがあります」

「私が知っていることなら」

「旦那様から見て、かつての私は殿下を愛していたのでしょうか? 私と殿下は本当に仲が良かったのですか?」

 こんなことを旦那様に聞くのは良くないことだと思う。
 しかし、今の私に過去を聞けるような人は旦那様しかいない。

「私はあの頃のアリエルから直接、殿下を慕っていたとか愛していたとか聞いたわけではないが、君と殿下は仲の良い婚約者同士に見えた。
 君は大変な王太子妃教育を頑張っていたし、そんな君を殿下はよく支えていたと思う。殿下がアリエルを大切にしていたのは誰が見ても分かることだった」

「そうですか……
 旦那様から見て、私と殿下は仲が良かったのですか。旦那様を疑う訳ではありませんが、信じられないですね。ふふっ……」

 記憶喪失になってから、初めて教会で殿下にお会いした時に胸の苦しさは感じたけど、それはその時だけで未だに殿下との記憶は全く思い出せないし、今では本当にあの方と仲が良かったのかも疑問だった。
 でも旦那様からは、私達が上手くいっているように見えていたのね。
 
「アリエル。私に聞くよりも君が記憶喪失になる前に仲良くしていた君の友人や、専属のメイド達に話を聞いた方が何か分かるかもしれない。
 君が望むなら、君の友人をここに招待して話を聞く場を設けるし、君の専属メイド達もここに呼ぼう」

「そこまでして頂いていいのですか?
 いくら記憶喪失とはいえ、かつての婚約者との関係を聞くために人を呼ぶなんて、旦那様に対して申し訳なく思ってしまいます」

「過去を見つめることで君が前に進めるのなら、私はそれでいいと思っている」

「……ありがとうございます」

 旦那様はすぐに私が仲の良かったという夫人方に手紙を書いてくれた。
 私としては、旦那様が私の仲の良かった友人を知っていたことに驚いたが、幼馴染の妹でずっと好きだった人なのだから、それくらいは知っていて当然だと言われてしまった。
 そのお陰ですぐに彼女たちと会うことが叶う。

「アリエル、こちらがスカーレット・グレン侯爵夫人だ。
 そしてこちらはライリー・ウィルクス伯爵夫人で、そちらはクレア・オールストン伯爵夫人だ。
 三人はアリエルが話を聞きたがっていることを手紙で伝えたら、すぐに返事をくれてこうやって来てくれたんだ」

「今日はお忙しい中、来て下さってありがとうございます。
 すでにお聞きになっているかと思いますが、私は記憶を失っていて、親しくしていた貴女方のことも覚えていないのです。
 今日は記憶喪失になる前の私のことを教えて下さったら有り難く思います」

 私の友人だという夫人方は、私をじっと見つめている。目は潤んでいるように見えた。

「シールズ公爵夫人。本日はお招きありがとうございます。
 私はスカーレット・グレンでございます。公爵夫人の学生時代にずっと同じクラスで仲良くさせて頂いておりました。
 そちらの二人もクラスメイトで、よく四人で楽しく過ごしていましたのよ。
 私たちは、久しぶりに公爵夫人と話が出来ることをとても楽しみにしておりましたわ。
 ……ずっと、……ずっと心配しておりました。
 夫人に何が起こったのか分からないまま……」

 グレン侯爵夫人は、話をしている途中で言葉を詰まらせて涙を流していた。
 私の知らないところで、ずっと心配してくれていたようだ。

「アリエル。彼女たちはずっと君を心配してくれていたんだ。
 今だから言えるが、夜会の時に記憶喪失の君に突然話しかけたら驚かせてしまうからと、離れた所からずっと見守ってくれていたらしい。
 私がいては話をしにくいだろうから、あとは女性だけでゆっくり話をしてくれ」

 旦那様はそう言って退室してくれたのだった。
 
 

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