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私の幸せ?
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王命で嫁いだ私に、実家に帰って来てもいいと話す父の神経が信じられなかった。
「侯爵様。貴方は、王命での縁談だから断れないと私に言ったことをお忘れですか?
それに、バトラー侯爵家よりもシールズ公爵家にいる方がまだマシです。私は帰りません」
「……」
「……」
帰らないと言った私を見て、父も母も絶句している。
「アリー。王命とはいえ、記憶喪失のお前をオーウェンに押し付けるように嫁がせてしまったことを私達は後悔しているんだ。
もし今の生活が嫌なら、国王陛下やオーウェンには私達から離縁を頼むようにしたい」
絶句している両親に代わって話をする兄。
離縁の話をするために、旦那様を同席させたくなかったということなのね……
そんな兄に対して嫌悪感が込み上げてくる。
「そんなことは望んでおりません。旦那様とは愛はなくてもそれなりに仲良くやっております。
しかし、なぜそこまで私に離縁を勧めるのでしょう?
あなた方は私を離縁させてどうしたいのです?
侯爵家で幽閉でもするつもりですか?
あの時のように、部屋から出ることも許されず、いないものとして扱い、家畜のように飼い殺しにでもするつもりですか?」
私が冷ややかに話すと、両親と兄の顔色が悪くなる。
「違う! 私は父として娘の幸せを考えたいと思っただけだ」
「アリー、私達を信じて。前のように仲の良い家族に戻りたいの」
この人達は本当に自分のことしか考えていないようだ。
「私にとって、あなた方は自分を冷遇した家族としての記憶しかないのです。
それなのに、どうやって仲のよい家族に戻れるというのですか?
私の幸せを願うなら、もう関わらないで下さいませ」
「……」
「……っ!」
「アリー、私達が悪いのは分かっている。
だが冷静に聞いてくれ。オーウェンとは愛のない結婚なんだろう?
今さらだが私も父上も母上も、お前には愛のある結婚をしてほしいと思っている。
あんなに辛い思いをしたアリーには、残りの人生は愛されて幸せになって欲しいんだ」
この兄は、また都合のいい話をしている……
「余計なお世話だと言っているのです!
もう私のことに口を出さないでくださいませ。」
「アリー! ちゃんと聞いてくれ。
今、王太子殿下に縁談の話がきている。他国の王女で、その国では王女を厄介払いしたいようだ。
王女を引き取ってくれるなら、結婚後は離宮に閉じ込めてもいいと相手の国が言うほどの人物だ。そのかわり同盟と貿易での関係を強化したいと申し出があって、我が国としては利益しかない縁談だ」
王太子殿下の話を始めた兄を見て、何だか嫌な予感がしてきた。
「王太子殿下はその王女を正室に迎えて、一年後にアリーを側妃に迎えたいと言ってくださっている。王妃殿下もその話に賛成してくれているんだ。
王太子殿下はアリーを今でも愛していると言っていた。
殿下は正妃とは白い結婚にして、アリーだけを愛したいと言ってくれているんだ。きっと大切にしてくれる。
だから離縁を考えてくれないか?
オーウェンとの子供もいないのだし、離縁するなら早い方がいいと思う。オーウェンだって、王命だから割り切って結婚しただけだ。事情を話せば、すぐに離縁してくれるだろう。
陛下には、私達と殿下と王妃殿下で説得するから大丈夫だ」
旦那様が王命での結婚だと割り切っているのは分かっていた。そのことは初夜の時にも言われたのだから。
でも、私と旦那様の関係が簡単に離縁に応じるような、そこまで結びつきの弱い夫婦に見えていたのはショックだった。
愛はなくても、仲良くできていると思っていたのは私だけなのね……
それにしても、この人たちは私の気持ちは全く考えていないようだ。この話が本当なら、王太子殿下も私の気持ちを無視している。
「私は殿下の側妃になることは望んでおりません。
この話は二度と私にはしないで下さい」
「アリー、記憶が戻ったらどうするんだ?
お前は殿下のために厳しい王太子妃教育を頑張っていたんだぞ。
それにお前の友人の令嬢たちやヴィオラは、アリーは殿下を愛していたと言っていた。
いつか記憶が戻った時に後悔しないか?
側妃になった方が絶対に幸せになれる」
兄は私の話を無視して側妃の話を続けている。
こんな人が私の兄だったなんて……
「私の記憶が戻ったら絶望するでしょうね。
愛した人や大切だと思っていた家族が、誰一人として私を信じてくれなかったのですから。
側妃になって記憶が戻ったりしたら、私は殿下の愛を疑ってしまうので幸せになれないでしょう。
もうこの話はやめましょうか。私はこれで失礼します」
「アリー、待ってくれ……」
呼び止める兄の声を無視して、私は部屋から退室した。
「侯爵様。貴方は、王命での縁談だから断れないと私に言ったことをお忘れですか?
それに、バトラー侯爵家よりもシールズ公爵家にいる方がまだマシです。私は帰りません」
「……」
「……」
帰らないと言った私を見て、父も母も絶句している。
「アリー。王命とはいえ、記憶喪失のお前をオーウェンに押し付けるように嫁がせてしまったことを私達は後悔しているんだ。
もし今の生活が嫌なら、国王陛下やオーウェンには私達から離縁を頼むようにしたい」
絶句している両親に代わって話をする兄。
離縁の話をするために、旦那様を同席させたくなかったということなのね……
そんな兄に対して嫌悪感が込み上げてくる。
「そんなことは望んでおりません。旦那様とは愛はなくてもそれなりに仲良くやっております。
しかし、なぜそこまで私に離縁を勧めるのでしょう?
あなた方は私を離縁させてどうしたいのです?
侯爵家で幽閉でもするつもりですか?
あの時のように、部屋から出ることも許されず、いないものとして扱い、家畜のように飼い殺しにでもするつもりですか?」
私が冷ややかに話すと、両親と兄の顔色が悪くなる。
「違う! 私は父として娘の幸せを考えたいと思っただけだ」
「アリー、私達を信じて。前のように仲の良い家族に戻りたいの」
この人達は本当に自分のことしか考えていないようだ。
「私にとって、あなた方は自分を冷遇した家族としての記憶しかないのです。
それなのに、どうやって仲のよい家族に戻れるというのですか?
私の幸せを願うなら、もう関わらないで下さいませ」
「……」
「……っ!」
「アリー、私達が悪いのは分かっている。
だが冷静に聞いてくれ。オーウェンとは愛のない結婚なんだろう?
今さらだが私も父上も母上も、お前には愛のある結婚をしてほしいと思っている。
あんなに辛い思いをしたアリーには、残りの人生は愛されて幸せになって欲しいんだ」
この兄は、また都合のいい話をしている……
「余計なお世話だと言っているのです!
もう私のことに口を出さないでくださいませ。」
「アリー! ちゃんと聞いてくれ。
今、王太子殿下に縁談の話がきている。他国の王女で、その国では王女を厄介払いしたいようだ。
王女を引き取ってくれるなら、結婚後は離宮に閉じ込めてもいいと相手の国が言うほどの人物だ。そのかわり同盟と貿易での関係を強化したいと申し出があって、我が国としては利益しかない縁談だ」
王太子殿下の話を始めた兄を見て、何だか嫌な予感がしてきた。
「王太子殿下はその王女を正室に迎えて、一年後にアリーを側妃に迎えたいと言ってくださっている。王妃殿下もその話に賛成してくれているんだ。
王太子殿下はアリーを今でも愛していると言っていた。
殿下は正妃とは白い結婚にして、アリーだけを愛したいと言ってくれているんだ。きっと大切にしてくれる。
だから離縁を考えてくれないか?
オーウェンとの子供もいないのだし、離縁するなら早い方がいいと思う。オーウェンだって、王命だから割り切って結婚しただけだ。事情を話せば、すぐに離縁してくれるだろう。
陛下には、私達と殿下と王妃殿下で説得するから大丈夫だ」
旦那様が王命での結婚だと割り切っているのは分かっていた。そのことは初夜の時にも言われたのだから。
でも、私と旦那様の関係が簡単に離縁に応じるような、そこまで結びつきの弱い夫婦に見えていたのはショックだった。
愛はなくても、仲良くできていると思っていたのは私だけなのね……
それにしても、この人たちは私の気持ちは全く考えていないようだ。この話が本当なら、王太子殿下も私の気持ちを無視している。
「私は殿下の側妃になることは望んでおりません。
この話は二度と私にはしないで下さい」
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それにお前の友人の令嬢たちやヴィオラは、アリーは殿下を愛していたと言っていた。
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愛した人や大切だと思っていた家族が、誰一人として私を信じてくれなかったのですから。
側妃になって記憶が戻ったりしたら、私は殿下の愛を疑ってしまうので幸せになれないでしょう。
もうこの話はやめましょうか。私はこれで失礼します」
「アリー、待ってくれ……」
呼び止める兄の声を無視して、私は部屋から退室した。
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