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旦那様との話

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 体調が良くなってきた私は、今後のことについて旦那様と話がしたいと思っていた。
 いつまでも部屋にこもって何もしないわけにはいかないし、お飾りの妻でも公爵夫人としての最低限の仕事をこなしたいと思ったから。
 ただ、旦那様の考えを聞いてみないと分からない。
 旦那様にとっても望まぬ結婚だったから、私とは別々に暮らしたいと思っているかもしれないし、その時は私は迷わずに領地に引っ越すつもりでいる。愛人を持ちたいと言うなら私は反対しない。
 二人で話し合って今後どうすべきか考えよう。

 ただいるだけの、旦那様のお荷物のような私でいたくない……

 仕事で留守が多い旦那様には、今後について二人で話し合いがしたいと家令に伝言を頼むことにした。
 すると早速、旦那様から次の休日に二人でお茶を飲みながら話をしようというお誘いを受ける。


 そして、次の休日……


「アリエル、お茶の誘いを受けてくれて感謝している。
 君と一緒に過ごせることを楽しみにしていたんだ」

 私は旦那様のおかげで救われたから感謝はしている。
 しかし感謝することと信頼することは別だと思っている。
 婚約期間や、初夜の時のあの冷たい旦那様の顔を私は忘れない。
 たとえ、今の旦那様が私に笑顔を向けていても、心の底で何を考えているのかは分からないのだから……
 もう私は騙されない。

「旦那様、今日はお茶に誘って頂きありがとうございます。
 最近、少しずつ体調が良くなってきました。これも旦那様のおかげですわ」

 私は上手く笑えているかしら?
 笑顔は最大の武器だから笑うのよ……
 
「それは良かった。確かに、前よりも顔色が良くなったな。
 でも体調が良くなったからと無理はしないで欲しい。君に何かあったらと考えると、不安になって仕事が手につかなくなってしまうんだ」

 上手いことを言うのね。公爵をしているだけあって、旦那様は処世術に長けているみたい。私も見習わないといけないわ。

「ふふっ……。大袈裟ですわ。
 公爵という立場の方が、妻が少し体調を崩したくらいで仕事が手につかないなんて、あり得ませんわよ」

「私はアリエルが心配なだけなんだ……」

「ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。
 ところで今日は、旦那様と今後の話をしたいと思っていましたの」

 私のその言葉に、穏やかだった旦那様の表情が険しくなる。

「ああ、家令からそのことは聞いている。
 はっきり言わせてもらうが、私は君と離縁はしない」

 私が今後の話と言ったから、旦那様は離縁の話でもすると思っていたようだ。
 いくら私でも、王命の結婚は簡単に離縁が出来ないことくらいは知っているわよ……
 バトラー侯爵家はヴィーのせいで信用が地に落ちてしまったと思うのに、王命で結婚した私が離縁なんて絶対に言い出せないわ。

「旦那様。私はこの結婚が王命であることは理解しておりますから、離縁などという考えは持っていませんわ。
 私が旦那様にお聞きしたかったのは、妻として私はどこまでのことをすればいいのかということです。
 公爵家の管理のことや社交のこと、今後の私の住む場所についてのこともです。旦那様が私と別に暮らすことをお望みでしたら、別邸でも離れの邸でも、領地に引っ越しをしても構いませんわ。
 そういえば、旦那様には愛する人がいると噂でお聞きしたこともあります。もしそのような方がいるのなら、私に遠慮はしないで下さい」

 旦那様の希望に沿いたいと思って言ったつもりだった。
 それなのに旦那様は苦痛そうな顔をしている。

「……あの女に言われたのか?」

 久しぶりに聞いた旦那様の冷たい声に、ビクッとしてしまう。

「え?」

「君の義妹だった女に、何を吹き込まれたんだ?」

「……それは」

「前にも話したが、私にはそんな人はいないし、愛人なんて持つつもりもない。
 私は君と仲の良い夫婦になりたいし、君を守りたい。
 あの女に騙されて、君に酷い態度を取り続けたことを後悔している。これからは君の側にいて償っていきたいんだ」

 ヴィーは私と旦那様を不仲にさせたくてあんなことを言ったのね……
 旦那様だけじゃない。私もあの女に騙されていた。

「旦那様と婚約が決まった時に言われました。
 心に決めた人がいるとか、隠れて愛人を囲っているとか……
 少し前にヴィーがここに来た時には、旦那様は夜会に素敵な方といらしていたとも聞きました。
 その時の私は旦那様に悪いと思いました。別に好きな人がいるのに、王命で私なんかと結婚しなくてはならないなんてと。
 旦那様を疑ったりして、私こそ申し訳ありませんでした」

「君は謝らなくていい。私からあんな態度を取られたら、あの女の言うことが真実に聞こえてしまっても仕方がなかった。
 私は君とやり直したい」

「やり直すもなにも、私達は夫婦ですわ。
 これからもよろしくお願い致します。」
 
 結局、その日のお茶会はそれ以上の話は出来なかった。
 
 
 
 
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