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南国へ国外逃亡できたよ

仕事と人間関係

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 約1ヶ月の研修期間を終えて、正式な配属先が決まった。今までは、同期の宰相子息のカーティス様と一緒だったが、これからは別々の部署になる。

 彼にはかなりお世話になった。とにかく、宰相子息で公爵家の嫡男という肩書きと、切れる頭をお持ちの方だから、変な人がよってこないのだ。それが、これから私1人となると、新人の下っ端女子だから、嫌味を言われたり、異世界版セクハラを受けるかもしれない。まあ、中身は前世と今世を合わせると、アラサー過ぎのおばちゃんだから、上手くやるようにしたいけどね。

「マリア嬢、何かあれば私に話してくれ。悪意を持って近付く貴族は多いし、よろしくない家門の派閥も気をつけるんだ。時間が合う時はランチは一緒に行こう。お互い、頑張ろうな!」

 第一印象が最悪だったカーティス様は、すっかり面倒見の良い、素敵な令息になってしまったようだ。

「カーティス様、研修期間はお世話になりました。一緒で心強かったですわ。これからも、よろしくお願い致します。ランチもぜひ、ご一緒しましょうね。」

 そしてカーティス様は、予想はしていたが、王太子殿下の部署で側近として働くようだ。私の方はなぜか宰相閣下の部署になった。
 お兄様が言うには、宰相閣下の部署は、関係のない部署の人は全く来ないし、宰相の部下には迂闊に手を出せないだろうから、殿下と宰相閣下が配慮して配属してくれたのだろうとのこと。
 コネと言われないように、しっかりやらないとね。

 宰相閣下の部署と言っても、私は直接は関わらず、宰相閣下の側近を補佐したりする仕事らしい。秘書みたいな感じかな。上司になる人は、侯爵家の次男の令息だった。お兄様より、少し上くらいかな?いきなり年齢を聞くのは悪いから年齢は分からないけどね。余計なことは詮索せずに、関わっていこう。宰相閣下の側近でいるくらいだから、貴族の派閥的にも問題はない家門の方だろうね。イケメン眼鏡男子って感じで、真面目そうな方だ。足を引っ張らないように、頑張ろうっと。

「コリンズ嬢、この書類をミスがないかチェックして、仕分けもしてくれるか?」

 無駄に笑わないが、仕事は出来るであろう私の上司のエドワーズ卿だ。

「かしこまりました。」

 前世のアラサー時代は企業でバリキャリだったから、こういう新人らしい仕事が何となく懐かしいし、結構好きなのだ。しかも、エドワーズ卿は余計な会話もないから、無理に話す必要がなくてラク。変に愛嬌が良くて、軽そうで、根掘り葉掘り聞いてくるようなタイプの方が苦手なんだよね。

「コリンズ嬢、資料室に行って10年分の王国の支出記録を持って来て欲しい。」

「はい。今行ってきます。」

 資料室に行くのも気分転換だから、好きなんだよね。
 資料室で支出記録を探す私。あっ!見つけた。少し高い場所だ。背伸びして、手を伸ばす。すると、漫画やドラマのシーンのように、誰かがスッと資料をとってくれた。これは、新しい出会いかぁ?

「ありがとうございます。」

 出会いに期待して、笑顔で資料を取ってくれた人物を見ると、……うっ。会いたくなかった人物だった。

「…リア。文官になったって本当だったんだね。」

「マーフィー卿、ありがとうございました。急いでますので、失礼致します。」

 しかし、腕を掴まれる。しつこいわ!

「…痛いので、離して頂いても?こんな現場を見られて、変な噂が立つのも困りますので。」

「あっ…。ごめん。君が資料室に時々来ていると聞いて、会いたくて…。」

 誰が教えたんだよ!

「もう、会わない方がよろしいかと。では失礼します。」

「謝ることも、許されないのか?」

「もう終わったことですわ。お気になさらず。どうかお幸せに。」

 上司が待ってるから、早歩きでその場を去る私。しかしマーフィー卿とは、資料室で時々、顔を合わせることになるのであった。


「マリア!王宮でマーフィー卿に、絡まれてるんだって?」

 なんで、この煩いお兄様にバレているんだろう。厄介だわ。

「たまたま顔を合わせてしまっただけですわ。」

「偶然会うはずがないだろう!あの男には気をつけろ!」

「気を付けていますが、それでも会ってしまうこともあるのです。」

「お前は甘いんだ。」

「お兄様。私だって正直な気持ちをお話すると、あの方とは会いたくはないですし、話したくもありませんわ。誰に何を見られて、噂されるのか分かりませんからね。しかし、向こうから勝手に来るんです。私は冷たく対応しているのに!こんな時はどうすれば良いのですか?それなのに、ただ甘いとか、気を付けろとか言われるのも辛いのです。」

「……。」

 珍しく私が反抗したから、お兄様は驚いたようだ。

「お兄様、申し訳ありませんでした。ただ、いくら避けても、どうしようもないこともあるということは、理解して下さい。」

「…だから反対だったんだ。」

「はい?」

「こんなことがあるから、文官で働くことには反対だったんだ!辞めてしまえ。」

 何なのこの人。私がここまで来るのに、どれだけ苦労したと思っているの?

「お兄様には私がどんな思いで文官になったのかは、分からないでしょうね。」

「そんなの、私が分かるわけないだろう!」

 もう何も話したくなかった。この人と長い時間いると、とにかく窮屈だと言うことに気付いたから。

「そうですね…。」



 その後からはお兄様とは最低限の関わりだけにすることにした。余計な話はせずに、挨拶くらいにした。話しかけるなというオーラを出しまくった。
 お兄様は何か言いたそうだったが、この人と距離を詰めすぎると、イライラすることを言われるから、気づかないフリをした。

 そんな時だった。

「マリア。明日からしばらく、殿下達と隣国に行って来る。私がいない間も気を付けろよ。」

 あー、隣国で新しい国王陛下の即位式があると言ってだわね。王太子殿下が行くから、護衛で付いて行くのか。ラッキーね。ゆっくり行って来て下さいと言いたいくらいだわ。

「…マリア?」

「…申し訳ありません。気を付けて行って来て下さい。あっ、これをお持ちください。治癒魔法と保護魔法の力を込めてありますので。」

 煩いお兄様だけど、伯爵家の大切な跡取りだからね。いざという時に守ってくれるように、魔石のブレスレットを渡す。

「これは…、魔石か?こんな貴重なものを貰っていいのか?」

「前に魔物討伐した時に、手に入れた魔石で作ったものなのです。元はタダですから、気になさらず。お兄様を守ってくれると思いますわ。」

「……大切にする。ありがとな。」

 ふーん。あのお兄様が、珍しく顔を赤くして嬉しそうにしているわ。口煩いお兄様でも、かわいいところはあるのね。
 そんなことより、煩いお兄様がしばらく留守にすることが嬉しい。



 次の日の早朝、煩いお兄様と王太子殿下、カーティス様達は隣国へと旅立って行った。


 
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