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南国へ国外逃亡できたよ

閑話 オスカー 2

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 シナー公爵令嬢の従者は、フォーレス侯爵令嬢がよく王宮の図書館を利用している事を把握していた。許可証がないと入れないので、護衛を付けずに1人で図書館に入って行くことも。

 そこからは簡単だった。王宮で近衛をしていた私は、図書館内部や、警備の見回りの時間などを詳しく知っていたので、その情報を従者に伝えると、手練れの暗殺者だったらしいその従者は、あっさりとフォーレス侯爵令嬢を拐って来たのだった。
 従者は始めに雇っていた破落戸を、シナー公爵令嬢が状況を把握出来ないようにする為に、始末して来たらしい。上手くやってくれた褒美として、口止め料を含め、成功報酬を予定より多く払うと喜んでいた。この従者も外国にツテがあるらしく、すぐに国外に逃亡するようで、彼女の引き渡しが終わると直ぐに去って行ったのだった。
 そして、私も急いで王都を出発する。図書館にいないとなると、すぐに王都中を捜索するだろうから、その前に王都を出て行きたかったのだ。
 馬車は順調に進み、王都を出て港を目指して走る。途中で馬を変え、ほとんど止まらずに走り続けた。予定よりも早く港には着きそうであったが、肝心の彼女が目覚めない。体調が悪そうであった彼女には、眠らせる薬が強過ぎたらしい。彼女が目覚めるのを待ち続けて2日後、彼女は眠りから目覚めるのであった。

 目覚めた彼女は、不安そうな瞳で私をじっと見る。彼女にじっと見つめられるのは初めてで、ドキドキしてしまう。不安そうな彼女も、涙を流す彼女も、全てが愛しい。無意識に彼女を抱きしめてキスをしていた。
 ああ、やっと手に入れた…。

 彼女は何かを悟ったのか、私の話を黙って聞き、泣き叫んだり取り乱したりはしなかった。育ちの良さもあるのかもしれない。だた、悲しそうに涙を流す。酷いことをしたのは私自身なのに、そんな姿を見ると庇護欲が掻き立てられる。
 シナー公爵令嬢の話をすると、彼女は相当なショックを受けてしまったようで、気を失ってしまった。
 可哀想だが、仕方がないのだ。あの悪女から彼女を守りつつ私の物にするには、この方法しかないのだから。
 貿易で使っている商船で、出港した後に目覚めた彼女は、全てを諦めたのか、逃げるような様子は全く見られなかった。しかし、彼女の言葉に胸がズキンと痛む。

『南国で生活していて、別に好きな方ができましたら、私は黙って身を引くので、その時は正直に話して欲しいのです。それと、監禁や暴力をしないことと、私を殺さないことを約束をしてくれますか?』

 いくら私がこんなに彼女を好きでも、彼女から見た私はただの人攫いなのだ。彼女は当然だが、私を信用していないし、好いてもいてくれない。分かってはいたのだが、こんなにつらいなんて…。

 彼女から信頼して欲しい私は、彼女の望みを契約魔法を使って約束しようと話すと、彼女は拐って来てから初めて、私に微笑んでくれたのだった。

 そんな表情を見せられた私は、我慢が出来なくなり、彼女を押し倒していた。しかし、婚約前の彼女を大切にしたい気持ちは持っている。だから、婚約前は彼女の体に触れ、キスをすることだけで我慢することにした。そして、彼女を沢山甘やかして、可愛がって、私なしでは生きていけないくらいにしよう…。
 私が、大切な彼女の為に決めた事であった。
 

 美しくて聡明な彼女を、侯爵家の伯母はすぐに気に入って、とても可愛がる。そんな伯母に私は念を押して伝えた。

「リアは、実家の男爵家からかなり冷遇されて、望まない結婚をさせられそうだったところを、私が連れて来たのです。この侯爵家にいるのがバレたら、あの酷い男爵達は連れ戻しに来たり、金の無心に来るかもしれません。リアがここにいることを、祖国にいる私の両親や親族には絶対にバレないように、伯母様にも協力していただきたいのです。どこから漏れるか分かりませんから。」

「まあ、マリアはなんて可哀想なの。オスカーも、愛するマリアの為に凄いわ!分かったわ。私にとっても大切な娘なのだから、協力するわよ。」

 恋愛結婚の伯母は、すんなりと協力してくれることになった。これで伯母は友人や親族に、変なことを話したりはしないだろう。
 
 しかし想定外だったのが、リアが養女になった伯爵家であった。
 伯爵家だから、大したことはないと思っていたが、侯爵家かそれ以上に金持ちで、王家からの信頼も厚く、そこの子息が王太子殿下と幼馴染で側近だというのだ。義理の兄になるとはいえ、あまりリアを近づけたくなかった。しかし、伯母は

「ふふっ、オスカーは可愛いマリアが取られないか心配なのね。心配いらないわよ。エルは、かなりの女嫌いだから。美男子で、剣の腕がよくて、名門伯爵家の嫡男だからモテすぎて、女嫌いになってしまったようなの。令嬢には冷たいし、全く喋ろうともしないし、笑いもしないわ。だから大丈夫よ。…それよりも、マリアがエルに冷たくされて、つらい思いをしないかという方が心配ね。」

 彼女は、そこら辺の令嬢とはかなり違うから、女嫌いと聞いても、あまり安心は出来なかった。そして後日、その不安は的中する。
 
 成績優秀な彼女は、編入してすぐに学年の首席になる。しかも伯母が言うには、優秀な宰相子息に勝って首席を取るなんて、かなり凄いことらしい。そして、実技試験もトップで、魔力の高さがみんなの前で証明されてしまった。リアは自分自身の力で、自分の価値を周りに知らしめたのだ。

 その頃から、子息のいる家門から沢山の茶会の招待が来るようになり、リアの義母の伯爵夫人が断るのが大変になっていると聞いた。断ってもらってはいるが、そんな話を聞いて気分の良いものではない。早く婚約したい。早く結婚して、自分だけの物にしたいと何度思ったか。

 そんなリアに、王太子殿下が興味を持つのは、当然のことで、学園のパーティーでは、殿下に誘われてダンスをしたようだ。
 そして女嫌いと有名だった、リアの義兄のコリンズ卿が変わったと耳にする。リアの送り迎えをしたり、お茶やお菓子をリアの部屋に運んだりと、甲斐甲斐しく面倒を見ていると言うのだ。コリンズ卿の両親がかなり驚いて、伯母に話してきたらしい。義理とはいえ、可愛い妹が出来て、少しは変わってくれて嬉しいと伯爵夫妻が話していたという。

 コリンズ卿が、リアを妹と思ってくれているのかは疑問だ。なぜなら、リアは会えば離れたくなくなるし、会えないと不安でおかしくなるくらい、可愛くて仕方がないのだから。
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