元アラサー転生令嬢と拗らせた貴公子たち

せいめ

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南国へ国外逃亡できたよ

その頃王都では シールド公爵 3

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 シナー公爵令嬢のメイドも、スペンサー卿が好きだったとは。

 このメイド、ゾッとする目をしている。

「シナー公爵、どうする?」

 無表情が恐ろしい殿下がシナー公爵に尋ねる。

「妹とメイドや関係している従者達は処刑して下さい。そして、私は爵位を返上します。」

「くっくっ。シナー公爵。そんな事をしたらマリーベルが、シナー公爵令嬢の手によって拐われたって他の貴族にバレるよね。マリーベルは社交界に戻って来れなくなるよ。知ってて言ってるの?」

「しかし、他に償う方法が分かりません。」

「シナー公爵は、父である前公爵と違って、優秀で王家への忠誠心が強いことを私は知っているよ。しかも、もうすぐ夫人は出産だよね?あのバカな妹のせいで、結婚が延期になったりして、苦労してやっと結婚出来たのに。爵位を返上したら離縁されちゃうよ。…私はね、そう言うことは望んでないんだよ。」

 殿下が真面目に話すと、とにかく恐ろしいのだ。

「公爵はこのまま、公爵でいてくれ。そのかわり領地にいる前公爵は、娘をきちんと育てられなかった責任で領地に幽閉して、絶対に表に出さないようにしろ。それとマリーベルが戻って来た時、この先、彼女がどんな生活を送れるのかが全く分からない。誰かと結婚するのか、それとも別の生き方になるのか?その時に困らないように、慰謝料だけはしっかり払ってくれ。フォーレス侯爵家は財産は沢山あるが、マリーベル個人名義の財産も沢山あった方がいいだろう。シナー公爵、どうだ?」

「殿下のご厚意に感謝いたします。これからも、王家に忠誠を誓い、王家と国の繁栄の為に、精一杯勤めさせて頂きます。」

 涙目のシナー公爵。彼は優秀で人格者な事は誰もが認めている。彼を失うのは大きな損失なのだ。

「叔父上、シナー公爵は無関係ですし、今までもこのバカな妹と父親に苦労させられてきたのは知ってますよね?叔父上としては、納得出来ない部分はあると思いますが、私はマリーベルが戻って来た時に、彼女が何も問題なく過ごせることを優先したいと思っています。だから、シナー公爵家の処分はこれでお許しくださいませんか?マリーベルの捜索は引き続き、行っていきますから。」

「…ああ。シナー公爵は悪くないし、優秀で人柄がいい公爵を失うのは望んでいない。マリーベルの変な噂が立つのも困る。これが今の最善の処分だろう。マリーベルは、体調が悪くてずっと臥せっているということにしておこう。実際、最近は具合が悪そうな姿を沢山の人に見られているから、何とか誤魔化せるとは思う。捜索をよろしく頼む。」

「ご理解、ありがとうございます。それとシナー公爵、公爵の妹と関係するメイドと従者は、王家で預かってもいいかな?もう会えなくなるかもしれないけど。」

「勿論でございます。寧ろ、ゴミを預かって下さることに感謝いたします。妹は精神を病んで、領地で療養しているということにしてもよろしいでしょうか?メイドと従者はそんな妹の世話をする為に、一緒に領地に旅立ったと言うことにして。」

「さすがシナー公爵だ。ありがとう。これからもよろしく頼むよ。」

 結局、フォーレス侯爵令嬢の行方は分からなかった。彼女はどこに行ってしまったのか?そこにいる誰もが、憔悴するのであった。


 そして数日経ったある日、スペンサー卿が一足早く、騎士団の遠征から戻って来た。王太子殿下から早急に戻るようにとの命令だけを受け、なぜ戻されたのか理由は知らされていない。

 王太子殿下はスペンサー卿が戻ると、気をしっかり持てと言い、地下牢に連れて行くのであった。私も同伴するように言われ、2人について行く。
 地下牢に、シナー公爵令嬢やメイド、従者がそれぞれ別に入れられているのを見たスペンサー卿は、何かを悟ったようであった。

「…マリーは生きているのですか?」

 弱々しい声で殿下に尋ねるスペンサー卿。

「行方不明だ。始めは夜会で媚薬でも盛って、適当な令息に襲わせ、それをフィリップに見せようとしたらしい。でも、マリーベルには常にフィリップやアルベルトが付いていたり、アランやシリル、シールド公爵の目があったりして、他の令息にそれは出来ないと断られたようだ。それで、そこのメイドと従者達が破落戸を雇って襲わせる計画を立てたようだが、雇った破落戸は誰かに殺されて、破落戸を監視していた従者とマリーベルは行方不明になっている。従者がマリーベルを連れて逃げたのか、別の誰かに何かをされたのか分からない。自白剤で喋らせたから、嘘は言ってないはずだ。」

「何てことを…。」

 声が震えているスペンサー卿。

「騎士団に協力してもらい、捜索はしているのだが、何の情報もないんだ。この悪女達を捕まえることが出来たのは、フィリップが騎士団の遠征に出発したすぐ後に、この女がマリーベルに絡んでいたのをシールド公爵がたまたま目にして、会話を聞いていたからだ。その時の会話の中で、マリーベルがこの女に対して、凄いことを尋ねたらしいのだ。」

「マリーがですか?この女に何を尋ねていたのです?」

 私を見て聞いてくるスペンサー卿に、私は答えるのであった。

「ああ。『私は殺されるのでしょうか?』と聞いていた。すごいことを聞くものだなと思ったから、しっかり覚えていた。一緒にいた王都騎士団長も聞いている。」

「何でそんなことを?私が出発してすぐですか…。ははっ!私が遠征でいない時を狙ったのですね。まさか、王族のマリーにまで手を出すとは!最近、マリーが何かに悩んでいることは分かっていましたが。マリーはこの悪魔に狙われていることに、何となく気が付いていたのかもしれませんね。この悪魔が私に執着していることは、マリーも知っていましたから。だから、私に対してもあんな風に怯えていたのかもしれません。」
「…ああ、そうなのか。遠征の出発の時に、別れの言葉のようなことを言っていたのは、こんなことになるのを、マリーは予想していた?ははっ!こんな事になるなら、さっさとこの女を暗殺でもして、消しておけば良かったですよ。どうせこの女が死んでも、シナー公爵は、深くは調べないでしょうから。」

 スペンサー卿の話しを聞いて顔色を悪くするシナー公爵令嬢。ちなみに、魔法で今は喋れないようになっている。牢屋を別にしているのに、大声でメイドと罵り合いをして煩いとなったからだ。

「マリーベルが別れの言葉を口にしていただって?」

「はい。今までありがとうだとか、兄様のことは忘れないとか言って、涙を流していました。くっ、、何でマリーの苦しみにあの時に気付かなかったのか。」

「フィリップ、これだけはしょうがない。とりあえず、捜索の範囲を広げてみよう。」

「殿下、ありがとうございます。シールド公爵閣下、貴重な情報に感謝いたします。…それで、悪魔達には自白剤だけですか?」

「今のところは、それだけだよ。シナー公爵はゴミを預かってくれたことに感謝していた。」

「自白剤も完璧かは分かりません。私も少しは喋らせたいのですが、鞭を使ってもよろしいですか?」

「フィリップ、殺さない程度なら許そう。」

「ありがとうございます。死んだ方がマシだと思える程度にしておきます。」

 スペンサー卿がこの女を嫌っていたのは、誰もが知っている。昔から執着されて、大嫌いだった女に最愛の人を奪われたのだから、理性を保つのは難しいだろう。
 その後、表情を無くしたスペンサー卿が拷問を加える様子を、黙って見つめる殿下と私であった。
 

 
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