元アラサー転生令嬢と拗らせた貴公子たち

せいめ

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ヒロインがやって来た

その頃王都では シールド公爵 1

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 夜間にも関わらず、珍しく王太子殿下から呼び出しがかかる。王宮に着くと、偶然なのか王都騎士団長のエリックの姿まである。

「お前も殿下に呼ばれたのか?」

「ああ。こんな時間に呼び出されるなんて、何か大きな事件でもあったか?」

 2人で殿下の執務室へ向かう。ドアの前に行くと、近衛騎士が私達の到着を中に伝えて、ドアを開けてくれた。

 中にいたのは、王太子殿下・マディソン・近衛騎士団長・フォーレス侯爵であった。珍しい組み合わせだ。みんな険しい顔をしている。

「シールド公爵に王都騎士団長、夜分に呼び出して悪かったね。」

「いえ。何かあったのでしょうか?」

「…マリーベルがいなくなった。最後に確認されたのは王宮の図書館で、図書館が閉まる時間になっても、外に出て来ないことを不思議に思った付き添いのメイドが、図書館の司書に尋ねたことで、居なくなっていることに気付いたらしい。」

 目の前が真っ暗になった。彼女がいなくなった?なぜ?

「叔父上。もう一度、詳しく話してもらえますか?」

 殿下に促されるフォーレス侯爵。

「マリーベルの専属のメイドが、司書に図書館から戻って来ていない事を伝えて、司書と一緒に図書館の中を探したらしい。すると、マリーベルが読んでいたと見られる本が数冊、床に落ちていたようだ。今日は、図書館を利用していた人が少なく、閉館前の時間には利用者はマリーベルくらいしかいなかったらしい。閉館時間にマリーベルの姿が見えないから、司書はすでに帰ったのかと思ったと話していた。最近ずっと体調が悪かったマリーベルが、家出するなんてあり得ない。恐らく、図書館で何者かに拐われたのだと思う。許可証がないと入れないはずの、安全な図書館に入り込むなんて、相当な手練れか、王宮や図書館内部にかなり詳しい者の犯行だ。安全な場所だと思い込んで、護衛を付けなかったことが駄目だったようだ。」

 悔しそうな、悲しそうな、そんな表情で話すフォーレス侯爵。王族がここまで人前で感情を出すなんて。フォーレス侯爵が彼女を溺愛しているのが、痛いほど伝わる。

「シールド公爵には、騎士団長達と協力して、極秘に捜索して欲しい。私のかわいい従兄妹を探し出してくれ!」

「仰せのままに。」

 冷静に、感情を押し殺せと自分に言い聞かせる。
 近衛騎士団長には、引き続き王宮や図書館の捜索と調査を依頼する。騎士達に箝口令を敷くことも、念を押しておく。
 エリックは、王都内の捜索と調査。王都騎士団には、彼女の顔見知りや、治癒魔法でお世話になった騎士が沢山いるから、みんな、必死で探すだろうと言っていた。王都の出入り口で検問もするらしい。
 念のため、国境でも検問してもらえるように、辺境伯に早馬を飛ばしてもらった。彼女を可愛がっていた辺境伯なら、すぐに動いてくれるだろう。港の客船も念入りにチェックしてもらえるように、出入国の管理官に連絡を入れた。

 しかし、どこを探しても全く手掛かりが掴めない。彼女はどこへ行ってしまったのだろう。日に日に焦りが出てくる。

 最近の彼女は、とにかく体調が悪そうだった。痩せて、元気もなさそうで、思い詰めたような表情をしていたように見えた。
 噂でスペンサー卿と付き合っているが、まだ婚約は認めてもらえてないと耳にした。そして、スペンサー卿や、義兄と夜会に来ていた彼女は、あまり幸せそうには見えなかった気がする。2人が彼女を溺愛しているのは、誰から見ても分かると思う。しかし、彼女の方はそれを喜んでいるようには見えなかったのだ。エリックもそう感じたようで、

「年上で恋愛経験の豊富なスペンサー卿に、逃げられないように外堀でも埋められたか?スペンサー卿は彼女にかなり本気のようだからな。」

 そして、スペンサー卿にずっと好意を寄せていると思われる、シナー公爵令嬢。この令嬢は黒い噂しか聞かない。スペンサー卿が溺愛する彼女の存在は、シナー公爵令嬢にとっては目障りのようで、夜会や近衛騎士団の遠征の出発式の時には彼女に絡んでいた。あの時、出発するスペンサー卿は、彼女を愛おしそうに抱きしめて、キスをしていた。私自身が嫉妬でおかしくなりそうだったので、シナー公爵令嬢の様子までは見ていなかったのだが、あれを見ていたらあの女だって嫉妬に狂ってもおかしくはないと思う。

 そう言えば、彼女はあの時にシナー公爵令嬢にすごい事を聞いていたな。
 『…私は殺されるのでしょうか?』と。もしかして、最近、彼女が元気を無くしていたのは、シナー公爵令嬢が関係しているのか?シナー公爵令嬢が怖いが、スペンサー卿は離してくれなくて、困っていたとか?こんなことになるなら、あの時に無理にでも引き止めて、彼女が何を悩んでいるのか聞き出せばよかった。本当に後悔しかない。
 あの令嬢なら、何をしてもおかしくはない。しかし、相手は公爵令嬢だ。はっきりした証拠がないのに、本人を呼び出して調べることは難しい。だが時間がないのだ。体調の悪い彼女がどこか酷いところに閉じ込められていたら?娼館や奴隷商に売られてしまっていたら?それとも、彼女はすでに…。いや、そんなことは考えたくない。彼女のことを思うと、心が引き裂かれそうだ。
 これは…、あの時のように殿下の力を借りるか。

 王太子殿下に、最近の彼女の様子やシナー公爵令嬢に 『…私は殺されるのでしょうか?』と聞いていたことを話して、はっきりした証拠はないが、シナー公爵令嬢は何かを知っている可能性を伝える。シナー公爵令嬢に、自白剤を飲ませて調査出来ないかと。
 王太子殿下は、恐ろしい事を話す。シナー公爵である彼女の兄は、昔から妹のことが大嫌いだから、自白剤を飲ませようが、拷問しようが、暗殺しようが、何とでも誤魔化す事が出来るだろうという。真っ黒な噂を沢山持つ彼女には、他にいくらでも罪を問えるから、すぐに彼女を呼び出して吐かせてみようと言うのだ。マディソンも恐ろしい笑みを浮かべながら、妃殿下が縁談の話があるからお茶会がしたいと言っていると、彼女を呼び出そうと言う。そして茶会には、一応は独身の私達が出席すればよいと言うのだ。妃殿下も乗り気になり、すぐに彼女を呼び出す事になる。
 次の日、無駄に着飾ったシナー公爵令嬢が王宮にやって来た。私やマディソンを見て、少し驚きながらも機嫌は良さそうだった。王太子殿下・妃殿下も来たところで、人払いをする。そこで口の堅い近衛騎士が、背後から彼女を押さえつけたところで、私が強引に、自白剤を飲ませた。

 彼女の語った内容に、私達は衝撃を受ける事になるのであった。


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