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ヒロインがやって来た

ドナドナ?

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「シナー公爵令嬢、もう止めろ!」

 いつもこんな時に助けてくれるあの人が登場した。

「あら、シールド公爵様と、王都騎士団長様。ご機嫌よう。何か御用でしょうか?」

「フォーレス侯爵令嬢は、体調が悪そうだ。つまらない嫉妬で困らせるな。」

「ふふっ!今の私がフォーレス侯爵令嬢に何を話しても、貴方様方には、私が嫉妬で狂って、彼女をいじめているように見えるのでしょうね。」

 ん?ただ絡んで来たのではなく、実は私を心配してくれていた?確かに、私のことをよく観察していたようだし。しかし、この方は悪役令嬢役がピッタリね。

「公爵様、騎士団長様、ご機嫌よう。シナー公爵令嬢は嫉妬なんてしていませんわ。色々と助言をくださったのです。ご心配をおかけしました。いつも色々と配慮していただき、ありがとうございます。それでは、失礼致します。」

 いつも助けてくれる親切な公爵様も、攻略対象者だと分かった以上は、あまり近づかない方がいい。さっさと去るのが無難ね。
 しかし、歩き出して少しすると、公爵様は私を追いかけて来たのであった。

「待ってくれ!君は何を抱えているんだ?体調が悪いだけではないだろう。」

 久しぶりに話をした公爵様からも、心配されていたようだ。悪役令嬢といい、シールド公爵様といい、よく私を観察していたようだ。しかし、貴方も『溺愛とヤンデレの狭間で』の攻略対象者。どんなヤンデレになるのか分からない人とは、親しくできないの。

「体調は良くなって来ましたわ。本当に大丈夫なのです。思った以上に、ご心配をおかけしてしまったようですわね。本当に申し訳ありませんでした。今日は失礼させて頂きます。」

 しかし、公爵様は実はしつこい人のようだ。帰ろうとする私の手首をがっちりと掴む。

「待ってくれと言っている!」

 えー!この人も何だか怖いんだけど。後ろで空気のように存在感を消していたアリーも、驚いているようだ。

「私には何も話せないことなのか?…分かってはいるんだ。君は私とは、関わりたくないのだということを。君をそうさせてしまったのは私だし、全て私が悪かったのだから。でも、どうしても諦められないんだ。どうすれば君は私を許してくれる?どうすれば私に心を開いてくれるんだ?私は君と昔のように戻りたいし、君を守りたいと思う。ワガママを言っているのは分かっているが、この気持ちは止められない。お願いだ。どうか許して欲しい。」

 シールド公爵様が悲しそうな表情で、私の手首を掴んだまま跪く。ひぃー、何が起こっているの?恐ろしいんだけど。自分でも、血の気が引いて行くのが分かる。
 しかも、私が公爵様と関わりたくないのがバレていたとは。ヤバい、これはヤバいわ!
 昔のように戻りたいって何を言ってるの?はっ!もしかして、アラサー杏奈の記憶が戻る前の子供の頃に、実は何かの関わりがあったとか?子供の喧嘩とかしたのかしら?分からなーい!怖ーい!
 更にここは近衛騎士団だから、フィル兄様の知り合いと思われる、沢山の近衛騎士達に見られているし。これ絶対にフィル兄様にチクられるよね?ああ、フィル兄様に怒られる?殺される?その前に、国外逃亡しないと。顔面蒼白になりながら、混乱する私。公爵様は跪いたまま、悲痛な表情で私をじっと見つめている。

「こ、公爵様。どうかお立ちくださいませ。公爵様は何か勘違いをされているようですわ。謝罪されるような事は何もありませんでしたよね。私のような者が、公爵様のように高貴な方と容易く関わるのは、申し訳ないと思っていただけですわ。こちらこそ、誤解させてしまいました。ですから、どうか立ち上がって頂けますか?」

 早く手を離してよー!立ち上がってよー!国内の騎士団のトップが小娘に跪かないで!泣きそうだし、死にそうになる私。

「シールド公爵閣下。発言を失礼致します。マリーベル嬢は、具合が悪そうなので、今日のところはもうよろしいのでは?」

 あれ?近衛騎士団長の子息の、副会長じゃない。助け船を出してくれたのね!

「…そうだな。フォーレス侯爵令嬢、驚かせて申し訳ない。しかし、君がつらそうにしているのを黙って見ていられなかったことは分かった欲しい。…失礼するよ。」

 シールド公爵様は、寂しそうな表情で去って行った。はあー。疲れたわ。

「イーサン様、ありがとうございました。」

「大丈夫か?顔色が悪い。」

「少し驚いて、疲れました。助けて頂いて助かりましたわ。」

「アランも言ってたけど、君は周りが放っておかないから、色々な意味で苦労するな。困っている時は、何でも頼って欲しい。」

 今日もお優しい副会長だ。何でこの人まで、攻略対象者なんだろう。攻略対象者に絡まれたところを、違う攻略対象者に助けられた私。

「ありがとうございます。」

「君はシールド公爵閣下とは、昔から知り合いなのか?閣下の話す声が聞こえて、気になってしまったのだが。」

 うっ!聞こえていたのね。

「それが、分からないのです。実は私は幼い頃は体が弱かったのですが、ある時に高熱を出してしまい、後遺症で記憶を失ってしまったことがありまして。もしかしたら、記憶を失う前に、何か関わりがあったのかもしれませんね。」

「…そんな事があったとは。君は苦労しているんだな。あっ、帰るところだったな。馬車まで送って行こう。」

 副会長は私に手を差し伸べる。そして私を馬車までエスコートしてくれるのであった。


 後日。

 今日は1人で王宮の図書館に来て読書をしている。邸の図書室だと、義兄に会いそうで嫌なのだ。この王宮の図書館は、変な人には会わないし、静かで過ごしやすい。1人でのんびり読書ができて最高の環境なのだ。
 私のお気に入りの、窓側の隅の席は人気が無くて、静かでいいのだ。私はそこで、夢中になって本を読み漁るのであった。
 
 何冊か読み漁り、そろそろいい時間になるので、帰る為に、本を片付けに行く。他の人はもう帰ったようだ。

 本棚に本を戻そうとした時であった。突然、後ろからハンカチで口を押さえられる。えっ!何よこれ?そう思ったあと、すぐに意識を失ってしまうのであった。

 
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