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マリーベル編〜楽しく長生きしたい私

閑話 シールド公爵 4

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 フォーレス侯爵令嬢が、ハワード卿に運ばれて行った後。少ししてから、夫人の部屋からハリーが出て来る。治癒魔法の後に、意識が戻ったようだ。顔色も前よりいいし、呼吸も安定したらしい。夫人を大切にしているハリーは、涙ぐんでいた。そして、あんなに強力な治癒魔法をかけてくれた、フォーレス侯爵令嬢には感謝しかないと話す。しかし、ハリーの次の言葉に私達は言葉を失うのだった。

「フォーレス侯爵令嬢は、臥せっているベッキーを一目見て、涙を流していた。優しい性格なのだろうな。」

 病で臥せっている人を見て、泣く人はいるだろうが、初対面の人を一目見ただけで、涙を流すものだろうか?

「彼女に夫人の名前を教えたのか?」

 エリックにも、彼女が夫人を呼び捨てで呼んだ声は聞こえていたようだ。

「いや。私の妻だとしか言ってないが。」

 エリックと私は表情が険しくなる。それを不思議そうに見るハリー。私は、彼女から託されていた魔石をハリーに渡す。

「フォーレス侯爵令嬢が、魔石に治癒魔法を込めた物だから、レベッカに渡して欲しいと言っていた。」

「えっ?妻の名前を知っていたのか?」

「あの礼儀正しい令嬢が、レベッカって呼び捨てで呼んでいたんだが。」

「家族や身内はみんなベッキーって呼んでるし、レベッカと呼び捨てで呼ぶのは、学園時代の親友達だけだと思う。」

 その後、私達は無言になってしまった。
 そして、魔力切れで倒れたフォーレス侯爵令嬢は、数日寝込んでしまったらしい。体調が戻るまで、数日は治療に行けないことを詫びる手紙が本人から届いたようだ。あんな大変な治癒魔法をして、自分も倒れたのに、相手の病気の心配をするなんて。
 ハリーによると、その手紙を読んだ夫人が言ったらしい。アンの字によく似ていると。

 彼女はもしかして…。

 それから数日後、体調が戻ったので治癒の続きがしたいと連絡があったが、2人は来るのかとハリーから聞かれる。エリックは、今回の事は私達が紹介したことだから、同席したいと言い、当日またハリーの邸に行く事になった。今回はスペンサー家の馬車で直接行くので、お迎えは遠慮すると言われたようだ。エリックには、残念だったなと言われる。
 
 応接室で3人で話をしながら待っていると、家令に案内されたフォーレス侯爵令嬢がくる。彼女は従兄妹のスペンサー卿にエスコートされていた。まるで恋人のように、腰を抱かれながら。
 そんな2人を見て、ハリーが挨拶と先日のお礼を伝えている。ハリーも、スペンサー卿が腰を抱いてエスコートしていることが不思議に見えたのだろう。2人は従兄妹だよな?と口にする。
 2人とも従兄妹が付き添いで来たと話をしているが、どう見てもそんな風には見えないだろう。心がモヤモヤする。
 彼女はエリックに、この前迷惑をかけたことを謝り、ハワード卿に謝罪がしたいから、騎士団に伺いたいと言う。エリックは、いつでも来てくれと彼女に伝えていた。正直、その名前も聞きたくなかった。
 すると、スペンサー卿が口を開く。

「ああ、マリーを邸まで運んでくれた騎士ですよね?ハワード伯爵家の。母がステキな騎士様だったと言っていたのです。マリーがお世話になっているなら、ぜひ私からも挨拶させて頂きたいですね。」

 マリーって呼んでいるのか…。身内だしな。しかしどう見ても、彼女を溺愛してますってアピールに見える。
 そういえばスペンサー卿は、姉のアンネマリーが大好きで、よくベタベタしていたな。シスコンって言い切れるくらいに。アンネマリーもそんな弟を溺愛していて、とにかく仲が良かった。そして、アンネマリーと私が上手くいってないことに気付いていたのか、まだ子供だったスペンサー卿は、私を睨みつけたり、挨拶もしてくれないくらい、私を嫌っていたと思う。今は大人になったから、表面上は普通にしてはくれているが。
 エリックも何か思ったらしく、

「スペンサー卿は、随分とフォーレス侯爵令嬢を可愛がっているようだな。」

「ええ。マリーが恋人なんて連れて来たら、決闘を申し込むかもしれないですね。」

 笑顔で決闘を申し込むなんて言うほど、彼女を可愛がっているのか。…それとも、好きなのか。いや、私に対して、彼女に近づくなっていう牽制なのかもしれない。

「フォーレス侯爵令嬢も、お父上と義兄上、それに従兄妹殿もいて、なかなか恋人も作れないだろう。私が誰か紹介しようか?」

 エリックも年齢を重ねるに連れて、図々しい言動が目立つ。

「ふふっ。お気持ちだけ頂きますわ。いざという時は、国外逃亡でもしますので。」

 彼女は言葉が巧みで、まだ10代とは思えないな。

「くっくっ。公爵、聞いたか?フォーレス侯爵令嬢は面白いよな。」

「ああ。そうだな、面白い御令嬢だ。」

 その後、フォーレス侯爵令嬢の持って来た、魔石の話や、辺境伯領の魔物討伐の話など、ハリーは興味深そうに聞いていた。魔術師団にスカウトでもするつもりでいるのか?
 話をし終わると、彼女は従兄妹に付き添われて、夫人の治療に向かうのであった。そして、夫人の部屋に案内し終えてハリーが戻ってくるが、2人の様子を見て何か思ったらしい。

「あれは、ただの従兄妹同士ではないな。仲が良すぎるし、スペンサー卿があんな顔をするなんて、信じられない。遊び人が多い近衛騎士団の中でも、かなりモテるらしいが、誰と付き合っても本気にならないって聞いていたのに。あんな風に周りに見せつけるように、腰を抱いてエスコートする姿なんて、今までのスペンサー卿なら絶対にしなかったはずだ。だが、フォーレス侯爵令嬢に対しては、執着に近い愛情みたいなものを感じるよ。なかなか手強そうだ。」

「マディソンと義兄、辺境伯の騎士、ハワード卿に従兄妹か。誰が一番仲がいいのか分からないな。彼女は今更だけど、かなりモテるだろうし、何もしなくても、色々な令息が寄って来そうだから、まぁ、頑張れよ!」

 3人で話し込んでいると、メイドがハリーを呼びに来る。治療は終わったのか?ハリーが先に部屋を出て行く。数分後、そろそろ帰るかとなり、私達も応接室から出て行くと、フォーレス侯爵令嬢とスペンサー卿が見える。治療を終えて今から帰るのだろう。2人は仲良く会話しているようだ。
 次の瞬間、優しく微笑んだ彼女は、手を伸ばして、スペンサー卿の頭を撫でている。ああ、アンネマリーも、よく弟の頭を撫でていた…。
 スペンサー卿も恥ずかしそうだけど、嬉しそうな表情をしている。あんな表情するんだな。ハリーがあそこまで言う気持ちが分かる。
 2人は恋人同士なのだろうか?…心がモヤモヤする。今更、こんな気持ちになるなんて。何となくイライラしながらも、声をかけてしまった。

「2人は本当に、仲がいいんだな。」

 ここまで仲がいいと、色々と疑ってしまう。少し、棘のある口調になってしまった。

「従兄妹ですので。…それでは、今日はこれで失礼させて頂きますわ。」

「公爵閣下・騎士団長、私達は失礼させて頂きます。」

 そう言って2人は帰って行った。

 ふと、さっきの彼女を見て思った。もしかして彼女は、私との会話を避けているのか?初めは私が年上で、公爵という身分だから、遠慮しているのかと思っていたが、何となく、すぐに会話を終わらせようとしているような気がする。そして話をしても、すぐに理由をつけて去ろうとする。今までは、独身の公爵という私に、媚びてベタベタしてくる令嬢に嫌になっていたが、彼女の全く正反対の態度で、こんなに心が痛むなんて…。

 そんな風に考えている時に、私はハリーの言っていた、嫌な話を思い出してしまった。

『彼女は、これから公爵とは関わらずに生きていくって言っていたらしい。幼少期から青春時代までの時間を公爵の為に無駄にしたから、この恨みはなかなか消えないだろうとまで話していたらしいぞ。』


 フォーレス侯爵令嬢はやはり……







 


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