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マリーベル編〜楽しく長生きしたい私

お誘い 2

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 隣で観劇を観ていたシリル様が、私の手を握っていた!観劇に夢中になり過ぎて、気がつかなかったわ。恥ずかしー!

 私の視線に気付いたシリル様と目が合う。すると、優しく微笑んで、握っていた手を恋人繋ぎにしてきた。何?これは、何?
 照明が暗いままだから、バレていないと思うけど、顔が赤くなっていると思う。だって熱いんだもん。
 さすが大人ね。アラサーも、こんなのは久しぶり過ぎて、ビックリよ。
 その後の観劇の内容は頭に入って来ませんでした。

 そして、観劇を見終えて劇場を出る時も、なぜか手を繋いだままのシリル様。手汗かいたら恥ずかしいから、思い切って聞いてみる?

「あの、手はこのままでいいのでしょうか?」

「ああ、失礼した。このまま繋いでいてもいいだろうか?マリーベル嬢は、いつも義兄上のエスコートではこうしていると、耳にしたものだから。」

 ん?その笑顔、少し黒い気がする。
 しかもその話、何で知ってんのよ!恥ずかしいし、そんな風に言われたらNOとは言えないじゃない。

「お恥ずかしいですわ。義兄は最近、とても過保護なようでして…。手を繋がないと不安だと話すのです。ああ見えて、心配性のようですわ。」

「義兄上の気持ちは、何となく分かる気がするな。私も手を繋いでいた方が安心する。私がエスコートする時も、手を繋いでもよろしいだろうか?勿論、私的な場でだが。」

 私的な場って、まぁそうよね。しかしエスコートって、こんな風に手を繋ぐのも普通なの?しかも、大人なシリル様が、あのシスコンを肯定しているようで、何か複雑ね。

「義兄に合わせて頂くのは、シリル様に悪いので、普通の一般的なエスコートで大丈夫ですわ。」

 シリル様が無理にシスコン義兄と同じことをしなくて済むように、やんわりと断ろう。しかし…

「いや、こんな人が沢山いる場では、この方がはぐれる心配が無くて安心するから、このままがいいと思う。いいか?」

 そこまで言われてしまうと…

「…シリル様がそこまで言われるなら。」

 うっ。大人の男に負けちゃったわ。

 そのまま馬車に乗り、食事に連れて行ってくれると言う。馬車の中でも隣に座り、手を繋いでくる。何となく恥ずかしいので、観劇が感動したことを話して、改めてお礼を伝えると、実は観劇は妃殿下が進めてくれたので、後でお礼の手紙でも書けば喜ぶだろうと教えてくれた。まぁ、妃殿下が!素晴らしい趣味をお持ちの方ね。この感動は、手紙に感想まで書いてしまうかもしれないわね。

「マリーベル嬢は、今日の観劇の話が好きなのだな。」

「ええ。話の内容は、物語として好きですわ。子どもの頃からの結婚の約束は、なかなか現実的には難しいのは知っていますから。私は子供の頃、お父様に、勝手に婚約者を決めないで欲しいとお願いしたのです。幼い頃に自分の意思とは関係なく決められて、大きくなった時に、どちらかの心変わりで上手くいかなくなったら、不幸になりそうで怖かったので。」

 婚約者が乙女ゲームの攻略対象者だったら、恐ろしいもんね。
 しかし、私の話を聞いたシリル様は、悲痛な表情をする。えっ!私、よくない話をしちゃった?あっ、シリル様も、子供の頃から好きだった人がいたけど、上手くいかなかったとか?ああ!だから、モテるのに独身なのね。やっちゃったわ。傷ついたよね?

「あの、私、失礼なことを言ってしまったようで…」

「…やっぱり、マリーベル嬢は……。」

「あの、申し訳ありませんでした。」

「どうして、謝る必要があるんだ?謝らないでくれ。君には幸せになってもらいたい。」

 そう言って、寂しそうに笑う。ああ、ごめんなさい。こんな時でも、私の幸せを口にするなんて、人格者なのね。と思ったら、ぐいっと抱き寄せられる。
 えっ??

「ごめん。少しだけ、このままでいさせて欲しい。」

 つらい過去を思い出させてしまったから、これくらいはしょうがないよね。
 大人の知的イケメンに抱きしめられるのは、アラサーでもドキドキしちゃうけど、この人は、そういう意味で抱きしめてないもんね。かわいそうだから、抱きしめ返してあげよう。イケメンにフリーハグされてラッキーくらいに思っていよう。
 結局、レストランに着き、護衛騎士に馬車のドアをノックされるまで、抱きしめられたままの私であった。

 落ち着いた、お洒落なレストランでは個室に通されて、コース料理を頂いた。学園のご飯も美味しいけど、このお店の食事はレベルが違うわね!美味しすぎて、笑みが溢れちゃうわ。

「マリーベル嬢は、美味しそうに食べるんだな。」

「とても美味しいですわ。こんなステキなお店に連れて来てもらえて、幸せですわ。ありがとうございます。」

 さっき優しいシリル様は、私の幸せを願ってくれていたから、美味しいものが食べれて幸せアピールしておこう。
 シリル様は優しく微笑んでくれた。

「それは、良かった。」

 食後のお茶は、高そうなソファーとテーブルが置いてある別室に通される。そこでは私の大好きな生クリームの乗ったロイヤルミルクティーが出された。ラム酒も添えてある。
 もしかして、お母様に私の好みを聞いてくれていたのかしら?シリル様って、気遣いの出来る紳士ね!さすがモテる男は違うわ!
 私はいつものように、ミルクティーにラム酒をスプーンで垂らして、かき混ぜる。ああ、いい匂い。
 ん?シリル様は私の様子をじっと見ている?何だろう?見つめ返したら、目が合ってしまったから、ありがとうの気持ちを込めて、微笑んでみた。シリル様も微笑んでくれた。
 シリル様はコーヒーね。似合っているわ。

 その後は貴族学園の話になり、剣術の授業は先生より、王都騎士団の騎士様達の方が親切に教えてくれている話とか、令嬢方の教養の授業は、聖女子学園の友人達は、お遊びと話していた事とか、聞き上手なシリル様に沢山話しちゃった。シリル様は、私ばかり話しているのに、嫌な顔一つせずに聞いてくれた。ああ、大人の男性っていいわね。中身はアラサーだから、これくらいの人が付き合いやすいのかもしれないわ。お母様が、社会勉強に行ってくるように進めてくれて良かったわね。後で、楽しかったと報告しよう!

 シリル様は、帰りは寮まで送ってくれた。最後まで、完璧なエスコートだったわね。
 
 人気の観劇に、美味しい食事、イケメン紳士のエスコート付きという、素晴らしい時間を過ごした私は、満足して、寮の自室に戻ったのであった。

 寮の部屋で、恐ろしい者が待つとは知らずに…。

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