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マリーベル編〜楽しく長生きしたい私

閑話 男爵令嬢 1

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 生活に困ってはないけど、そこまで裕福でもない、貴族の中では末端の男爵家の末っ子として私は生まれた。上の兄や姉ほどは期待はされず、お金もかけてもらえない、家族の中で私はそんな位置だ。

 男爵家の末娘なんて、婚姻に関しては大して期待出来ない。余程容姿が整っていれば、少しはいい話があるかもしれないが、私は普通にかわいいくらい。かわいいけど、貴族の中では私よりかわいい子は何人もいる、それ位のレベルだ。

 しかし、学力だけは上の兄や姉よりは自信があった。末っ子なので、要領がいいのもあったと思うが。結婚に期待が持てないなら、学力を活かして将来は王宮の文官になりたいと考えるようになった。最近は令嬢でも優秀な方は文官になる人も珍しくないのだから、私にはそれが合っていると。ならば、国内の才媛が行くと評判の聖女子学園に進学したいと思い、両親からも許可を得た。両親はお金が掛からないなら、反対はしないのだ。
 入学試験の倍率がとても高く、とにかく厳しいと聞いていたので、必死に受験勉強をした。今まででこんなに勉強したのは初めてだった。ここまでやったのだからと期待してた。しかし、…不合格だった。あんなに頑張ったのに。貴族学園に入学資格のない、裕福で優秀な平民が沢山受験したらしいので、しょうがないと思う事にした。

 貴族学園の初等部に入学した私は、1番学力の高いクラスに入り、常に学年での順位は3位までには入るようにした。
 男爵令嬢だけど、学力が高いから虐められることはなかったが、他の令嬢達とは馴染むことは出来なかった。着飾ることや、高位の貴族令息に媚びる令嬢が多く、話は全く合わない。無理に付き合うことはやめて、目標の為にひたすら勉強を頑張った。
 同じクラスの高位貴族の令息達は、自分達に纏わりついて、媚びてくる令嬢達にうんざりしているようで、嫌悪感を滲ませていた。反対に媚びずに勉学に励む私に対しては、友人として接してくれる。それは自分が認められているようで、何よりも嬉しかった。

 ある時、テストの結果が張り出され、私は1位であった。それを見た同じクラスのフォーレス侯爵令息が

「いつも努力していてすごいな!他の令嬢達も、媚びて纏わりつく時間があるなら、君みたいに真面目に努力すればいいのに…。お疲れ様!」

 優しい笑顔だった…。
 そして、さり気なく私を褒めてくれた。両親も兄弟も私を褒めてくれなかったのに。この方は、私が努力していることを知っていてくれたのだ。

 その時に私は彼に恋をしたのだと思う。

 綺麗なストロベリーブロンドの髪に、エメラルドのような瞳。整った顔に、スラリとした長身。見目がいいだけでなく、剣の腕にも優れた、王弟の侯爵家の跡継ぎ。そして、とても人気のあるお方。男爵令嬢の私が、簡単にお慕いできる相手でないことは知っている。でも彼は、どの御令嬢に対しても素っ気なく、特定の相手はいないようだ。昔と違って、今は恋愛での結婚も多くなってきている。私がもっと頑張れば、少しは意識してくれるかしら…。いや、そんな期待は持ってはいけない。私は夢の為に頑張らなければいけないのだから。

 そうしているうちに、初等部の卒業式を迎えた。

 私は気づくといつも彼を目で追ってしまっている。卒業式の日は、彼は両親と一緒に来ていた。
 ああ、彼はお母様にとても似ているのね。仲が良さそうで、素敵な家族だわ。私もあんな家族が欲しい…。

 そして、中等部の入学式を迎える。私はクラス分けのテストで1位になれなかった。恐らく私といつもトップ争いをしていた、伯爵家の令息が1位ね。彼に負けたならしょうがないわ。どっちにしてもAクラスで、あの方とは同じクラスでいれるだろうし。また毎日が楽しみね。その時はそう思っていた。
 しかし、新入生の代表挨拶で呼ばれたのは、彼と同じ家名の御令嬢だった…。

「新入生の挨拶。マリーベル・フォーレス侯爵令嬢」

 名前を呼ばれて出て来たのは、プラチナブロンドにぱっちりした大きな水色の瞳の、愛らしい美少女だった。貴族令嬢には、容姿の整った美少女は沢山いるが、彼女は群を抜いて美しいと思った。ステージまで歩く姿、カーテシーなど、所作の一つひとつがとても洗練されているのが、男爵令嬢の私ですら分かった。更に挨拶文を堂々と読み上げる完璧な姿。読み終えて、最後に美しい笑みを見せる。その瞬間、みんな彼女の笑みに魅力されていたように思う。周りの子息達は、顔を赤らめているのが分かった。
 学力だけでなく、容姿も身分も全てが恵まれた御令嬢だと、その場にいる誰もが感じたことだろう。しかし、彼と同じ家名ということは、兄妹?双子には見えないし、侯爵家の養女かしら?仲のいい友人はいないし、末端の男爵家なので、高位貴族の家の事情までは知らないけど、彼に似てないから、侯爵家の養女かも知れないわね。何となく、心がざわついたような気がした。

 入学式が終わりクラスに移動すると、クラスメイトの御令嬢が10名も聖女子学園出身者であった。私が不合格だったあの学園から、10名も編入してきたことを、友人のいない私は、その時に初めて知る。しかも、侯爵家や有力な伯爵家など、今までの貴族学園に在学していた令嬢達よりも、力のある家門の御令嬢たちばかりで、どの御令嬢も知的で美しく、今まで同じクラスにいた令嬢達みたいに、クラスメイトの令息に媚びたり、纏わりついたりする様子がない。着飾って、未来の旦那様探しばかりしている令嬢達とは、全く違った方達であったのだ。

 私は焦っていた。今まで以上に頑張らないと、結果が出なくなってしまう。容姿と家柄はしょうがないから、勉強だけは負けたくなくて、今まで頑張って来たのに。勉強まで負けたら、私の存在意義が無くなってしまう。負けたくない。私は結果を残して、夢を叶えるの…。
 学園の寮に住んでいる私は、放課後遅くまで、図書室に籠って勉強することに決めた。

 そして、入学式で代表として挨拶していた御令嬢は、フォーレス侯爵令息の義理の妹だという。フォーレス侯爵子息と仲の良い友人達が話をしているのを、私は聞き耳を立てて聞いていた。

「あの美少女はアルの義理の妹だったのか!早く紹介してくれよ。」

「あんなすごい義妹がいたなんて、今まで何で教えてくれなかったんだ?」

「すごい、かわいいよな!婚約者とかいるのか?」

 美しく聡明な彼の義妹は、クラスの令息からとても興味を持たれていた。

「ダメだ。義父上から、虫除けをするように命令されているから!」

「へぇー、今まで言い寄ってくる令嬢には見向きもしなかったのは、かわいい義妹がいたからか。」

「何とでも思えばいいさ。でも、義妹はダメ!」

 養女なのに、彼のお父様は虫除けを頼むくらい、彼女を可愛がっていらっしゃるのね。彼も、友人に紹介したくないくらい、大切にしているってことかしら?

 どうしてかしら?心がズキンと痛むような気がする……。

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