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マリーベル編〜楽しく長生きしたい私

閑話 2度目の恋? 3

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 驚愕で固まっていると、少し離れた所から、人の足音が聞こえて来る。御令嬢は、動揺し何かを探している。もしかして、何かから逃げてきたのか?

「隠れたいのか?」

 無意識に聞いていた。御令嬢は、黙って頷いている。私は、先程まで自分が使用していたゲスト用の控室に案内していた。
 足音が通り過ぎるまで、息を潜める御令嬢を見て、前もアンネマリー嬢とこんなことがあったなと思い出す。その後、私を見て謝罪とお礼の言葉を口にする御令嬢。声や話し方まで、彼女そっくりだ。

 御令嬢は、ぶつかってしまった時に、私のブローチに紅を付けてしまったので、拭いてくれると言う。拭き終わった御令嬢は、私の髪をじっと眺めている。

「どうかしたか?」

「…失礼しました。髪の色と一緒のアクアマリンが綺麗だと思いまして。」

「……………。」

 あの時のアンネマリー嬢と同じことを口にするんだな…。私は一瞬、言葉を失ってしまっていた。

 御令嬢の名前を聞かなければと思い、名前を教えてもらう。

「マリーベル・フォーレスと申します。」

 あの噂のアンネマリー嬢に生き写しと言われていた御令嬢。

「君がフォーレス侯爵家の御令嬢…。」

 慌てて、フォーレス侯爵令嬢を引き留め、ブローチを拭いて汚れたハンカチを洗って返したいと、強引に頼んだ。次にまた会う機会が欲しいと思ってしまったのだ。
 その後、会場に戻るというフォーレス侯爵令嬢にエスコートを申し出て、会場入りするが…。会場入りした時が、ちょうど王太子殿下夫妻のファーストダンスの開始のタイミングであった。私達2人が一緒にいることに気づいた殿下は、すぐに従者を遣わしてきた。

「お2人も一緒に踊るようにと、殿下が申されておられます。」

 あの時と変わらず、殿下は今日も腹黒だ。でも、悪い気はしない。私は何の迷いもなく、フォーレス侯爵令嬢に跪いていた。

「フォーレス侯爵令嬢、私と踊って頂けますか?」と。

 彼女はまだデビュー前で、人前で踊るのは初めてだというのに、そんな風には感じさせない落ち着いた、完璧なダンスだった。そして彼女は、アンネマリー嬢を思い出させるような言葉ばかり口にする。
 マリーベル嬢は、まるで記憶を失ったアンネマリー嬢が戻って来たようだ……。

 マリーベル嬢とダンスをする時間は心地良く、私は無意識に彼女に微笑んでいたらしい。それは、ダンスを終えて、王太子殿下夫妻に指摘されて気付いたことだが。
 妃殿下は、顔や体型は勿論、表情や所作、ダンスのステップまでアンネマリー嬢にそっくりだと驚いていた。アンが帰って来たと言ってもおかしくはないわねと。
 殿下は、もしかして彼女は記憶持ちではないのかと言う。それで私は、彼女と話をしてみたら、記憶を失って戻ってきたアンネマリー嬢のようだったという感想を伝えた。すると殿下も妃殿下も絶句する。
 殿下と妃殿下は、もしそうであっても私達のかわいい従姉妹になるのだから、守っていこうと話していた。恐らく、美しく聡明で、身分も申し分ない彼女には、色々な人間が近づいて来るだろうからと。
 その通りだ。ただただ、彼女を守ってあげたいと、私は思ってしまっていた。

 そういえば、パーティーの彼女は何かに追われて、怯えているようであった。一体何が?
 最後は、慌てて義兄の元に戻って行ったが…。あの義兄はマリーベル嬢を溺愛して、学園でも常に側にいると聞いた。
 しかし、パーティーで人目を気にせずに義妹を抱き締めるなんて、義理の兄妹とは思えない。その様子を見ていた殿下も何か疑問に感じたようだ。恋仲なのか?
 最近は貴族でも恋愛結婚が増えているし、恋人同士が人前でベタベタする姿も珍しくない。隣国から連れてきた薬師が、すごい効能の避妊薬と堕胎薬を開発したこともあり、以前のような、貴族令嬢の純潔にこだわる風習も無くなってきた。要するに、前と違って自由に恋愛がしやすくなってきたという事なのだが。

 あの義兄の何かが引っかかる…。
 

 マリーベル嬢はアンネマリー嬢ではないし、彼女は自分がアンネマリー嬢に重ねて見られていると知ったら、気分のいいものではないだろう。
 だが、私は重ねて見ているつもりはないし、マリーベル嬢として見ているつもりだ。ただ初めはアンネマリー嬢に似ていたから、彼女に興味を持ったという、きっかけが存在しただけ。
 何より、私はまたマリーベル嬢に会いたいと思ってしまっているのだ。
 私よりもかなり年下の10代の少女に、こんな気持ちになるなんて。自分でも信じられないが。


 王太子殿下は何かを察したようだ。

「シリルは、今更だけど早く身を固めないとね。大切な側近には早く幸せになって欲しいし、貴族の結婚は歳が離れていても気にならないし、今は恋愛はある程度は自由だからね。お互い、身分には問題はないし、優秀なマディソン家には、稀代の天才と呼ばれるような才媛が妻として嫁いで来たら、宰相閣下は喜ぶだろうねぇ。私としてもかわいい従姉妹の嫁ぎ先は、信頼できる家がいいと思っているし。」

「相変わらず、私を弄って楽しんでいますね?この腹黒殿下は。」

「だから、側近には幸せになって欲しいだけだよ。まだ卒業まで時間はあるけど、婚約は今からでも出来るからねぇ。あの子は可愛いから、心配だと思って。ねぇ、ソフィーもそう思うでしょ?」

「そうですわね。殿下の側近が何処の馬の骨か分からない、見た目だけの令嬢と結婚されるよりは、殿下の従姉妹で、病人や怪我をした騎士達から聖女と慕われている彼女の方がいいですわねぇ。ほら、殿下の側近の奥方とは、私もお付き合いをしなくてはいけませんから、私とも仲良く出来そうな方じゃないと。…そういえば、観劇のチケットが余っていましたわね。予定が合わなくて私達は行けないから、勿体ないと話していましたわよね?殿下。」

「ああ。人気の演目なのに、行けなくて残念だと話していたんだ。仕事は休んでいいから、誰かを誘って行ってくればいいね。令嬢本人やその父上には言わないで、その令嬢の母上あたりに頼めば、上手く行くかもしれないなぁ。私が動こうか?」

 王太子殿下夫妻は、他の男に取られる前に、さっさと囲ってしまえとでも言いたいのだろう。


 この国1番の腹黒夫妻を前にして、私は何も言い返す事が出来なかったのだった……。



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