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マリーベル編〜楽しく長生きしたい私

入学パーティー 2

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 その美丈夫は私を見て、固まっている。
 その時、後方から、男性らしき足音が聞こえて来る。ヤバい、義兄かしら。こんな所を見られたら、また怒られそうで怖いわね。顔から血の気が引きながら、どこかに隠れる所がないか、キョロキョロする私。すると、そんな私の様子に気付いた美丈夫は、

「隠れたいのか?」

 私は無言でコクコクと頷く。

「こっちだ!」

 美丈夫が、近くの来賓の控え室のような部屋に私を入れてくれる。足音が聞こえなくなるまで、息を潜めて待つ。……通り過ぎて行ってしまったようね。ふぅー、良かったわ。安心したその時、私を見つめる涼しげなグレーの瞳に気付く。そうだ、謝らないと。

「先程は、申し訳ありませした。お怪我はありませんでしたか?それと、助けて頂いてありがとうございました。」

 ふと美丈夫の胸元を見ると…げっ!ブローチに私の紅が付いちゃってるわ。慌てて、ハンカチを取り出して

「私の紅がブローチに付いてしまったようです。拭かせて頂いてもよろしいですか?」

「……ああ。すまない。」

 ハンカチで、優しく拭き取る。ああ、綺麗になったわね。アクアマリンのブローチかー。綺麗な水色だわ。あっ、この方の髪色と一緒なのね。私は美丈夫の髪を無意識に眺めていたようだ。

「どうかしたか?」

「…失礼しました。髪の色と一緒のアクアマリンが綺麗だと思いまして。」

「……………。」

 あれ?何かまずいこと言っちゃった?美丈夫が悲しそうな、何か言いたげな表情になる。

「申し訳ありません。私、何か失言を。」

「いや、大丈夫だ。それより、御令嬢の名前を伺っても?」

 あまり言いたくはないが、助けてもらったので、正直に教えよう。とりあえず、カーテシーをして

「マリーベル・フォーレスと申します。」

「君がフォーレス侯爵家の御令嬢…。」

 お父様の事を知っていそうね。何かお父様にチクられたら嫌だから、この場もすぐに離れた方がいいわね。

「そろそろ戻らないと行けないので、失礼させて頂きます。本当にありが……」

「待ってくれ!さっきのハンカチ、汚れてしまっただろうから、洗って返したいのだが。」

「いえ、私がぶつかってしまったのが悪いので、気になさらないでください。」

「いや、是非そうさせてくれ。きちんと洗って、君に返したい。」

 そんなやり取りを繰り返して、結局、引いてくれなさそうなので、お願いする事にした。



 そして私はなぜか、その美丈夫とダンスを踊っている。
 あの後、会場に戻ろうとしたら、美丈夫も会場に行くところだからとエスコートしてくれたのだ。大人の余裕なのか、エスコートも自然にこなしてくれた。
 会場に入ると、ちょうどダンスが始まる所で、一番初めの、王太子殿下と妃殿下が2人だけで踊るタイミングで会場に入ったからか、王太子殿下の目に留まったようで、殿下よりお声が掛かってしまった。
 私達のところに従者がやって来て、

「お2人も一緒に踊るようにと、殿下が申されておられます。」

 王太子殿下の命令ですか。

「全く、あの腹黒殿下は!」

 そう言いながらも美丈夫は、丁寧に跪いて真っ直ぐに私を見る。

「フォーレス侯爵令嬢、私と踊って頂けますか?」

 カッコいいわね。大人の男性って感じで。

「はい。喜んで。」
 
 そして、本来目立ちたくない私が、全校生徒の前で高貴な方々に混ざってダンスをしているのだ。
 ああ、視線が痛い。特に悪役令嬢さんと、義兄の。この後、確実に怒られるわね。こんな時でも、この美丈夫のリードが上手いのか安心して踊れるのが、唯一の救いね。

「フォーレス侯爵令嬢は、ダンスが上手だな。」

「いえ。デビュー前で、人前で踊るのは初めてなので、緊張していますわ。でも、ダンスがお上手なのですね。安心してリードをお願いできますわ。まるで、前にも一緒に踊ったことがあるみたいで。」

 お父様には悪いけど、初めての人前でのダンスは、この方で良かったのかも。本当に踊りやすいもの。
 思わず微笑んでしまう。

「…それは、良かった。」

 何だか複雑そうな表情をする美丈夫。そう言えば名前聞いてないかも。

「今更ですが、名前を教えて頂いても?」

「まだ名乗ってなかったな、失礼した。」
「シリル・マディソンだ。君の従兄弟の王太子殿下の側近をしている者だ。シリルと呼んでくれ。」

 何となく予想はしていたが、すごい人なのね。

「そのような高貴な方を、お名前でお呼びしていいのでしょうか?」

「ふっ。君の方が高貴だと思うが…。ぜひ名前で呼んでくれ。私も貴女を名前で呼ばせてもらってもよろしいか?」

「分かりました。私のことはマリーベルとお呼び下さい。」

 グレーの綺麗な瞳で優しく微笑む。この人はこんな風に笑うのね。

「…マリーベル嬢、どうかしたか?」

「いえ。シリル様のグレーの瞳が優しげで綺麗だなぁと思いまして。」

 シリル様は寂しそうな表情をする。えー、また私は失言しちゃった?

「………そうか。いつも目が怖いと言われるから、そんな風に言われると嬉しいもんだな。」

 嬉しそうに見えないが、怒ってないからまぁいいか。
 シリル様とのダンスを踊り終えると、王太子殿下と妃殿下に声を掛けられ、今度、王宮のお茶会に来るようにお誘い?命令?を受ける。妃殿下が何かを言いたげな表情をしていたのが気になるが…。
 その時に、あのお方が登場する。

「叔母上、私もそのお茶会に招待してくれますよね?」

 あっ?妃殿下はファーエル公爵子息の叔母になるのね。確かに2人とも華やか美形で似ているわね。

「図々しいわね、アラン!」

「お願いしますね。叔母上。」

 2人のやり取りを見ている私は背中に殺気を感じる。振り返ると、義兄と少し離れた所に悪役令嬢が!

 ひぃー、怖いわ。サーっと血の気が引く。

「マリーベル嬢?顔色が悪いが大丈夫か?」

 シリル様が私の変化に気付いたようだ。

「だ、大丈夫ですわ。義兄が心配して待っているようなので、そろそろ失礼してもよろしいでしょうか?」

「殿下、マリーベル嬢はそろそろよろしいですよね?」

「ああ。そのうち、招待状を出すからよろしくね。」

「はい、お待ちしております。それでは、失礼致します。」

 慌てて、義兄の所に戻る私。義兄は少し怒っていたが、心配掛けてごめんなさいと謝ると、人目を気にせず私を抱きしめる。もうね、恋人じゃないんだからさ、やめてよー!と言いたいが言えない私。はぁ、疲れるわ。また死んだ目になる私であった。


 その様子を、シリル様と王太子殿下が鋭い目で見ていることに気付かなかった。






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