元アラサー転生令嬢と拗らせた貴公子たち

せいめ

文字の大きさ
上 下
51 / 161
マリーベル編〜楽しく長生きしたい私

閑話 守れなかった大切な人 2

しおりを挟む
 スペンサー侯爵家の墓地の場所に行くと、沢山の花が手向けられていた。墓碑にはアンネマリー様の名前が…。
 やはりあの時に亡くなられてた…

 守れなくてごめん…。
 忘れないと言いながら、忘れていてごめん。
 涙が溢れてくる…。気がつくと、俺は墓に跪いていた。
 その時、アンネマリー様の墓碑の隣に、小さな墓碑がある事に気付く。その墓碑には、かつての自分の名前が…。どういう事だ?かつての俺は、実家の子爵家の墓地に埋葬されるはずだが。

 気付くと、教会のシスターに話しかけていた。このシスターも見覚えがある。少し老けたかな。気さくで話好きなシスターだから、何か教えてくれそうだ。シスターにスペンサー侯爵家の墓地について聞くと、さすが話好きなシスターだ。アンネマリー様を最後まで守ろうとした、護衛騎士を偲んで、アンネマリー様の両親である侯爵夫妻が建立したもので、護衛騎士が最後に身に付けていた遺品や剣が埋葬されていると教えてくれた。
 そうだ、侯爵夫妻は俺の事も家族のように大切にしてくれていた。だから、アンネマリー様が留学している間に、近衛騎士団で結果を出して来いと送りだそうとしてくれたのだった。侯爵家の騎士よりも近衛騎士団の方が箔がつくからと。なのに、俺はアンネマリー様をお守り出来なかった。それにも拘らず、侯爵夫妻はただの護衛騎士の俺に、ここまでしてくれていたのか……。どうしようもない気持ちに襲われる。しかし、無言になった俺に、シスターは驚く事を話すのだった。

「あなたも小説を読んでここに来たの?あの小説、とても人気だったみたいね。公爵子息の真実の愛を貫く姿が素敵だって。」

 小説?公爵子息の真実の愛?何だそれは?不思議な顔をしていただろう俺に、シスターはまた教えてくれる。
 スペンサー家の御令嬢は馬車事故に見せかけた、暗殺によって亡くなられた。それに気付いた、元婚約者だった公爵子息が隣国まで行き、恋敵であった子息と協力して、暗殺の首謀者の公爵令嬢を断罪してきたという。公爵子息は亡くなった令嬢だけを愛し続け、公爵になった今でも未婚でいるらしい。今でもよくここに花を手向けに来ると言うのだ。そしてその実話を元にした、ロマンス小説がとても人気であったらしい。その小説のファンも時々、花を手向けに来るのだと教えてくれた。

 暗殺だったのか。確かにあの時には、冷静さに欠けてそこまで考える余裕がなかったが。
 しかし、真実の愛だって?アンネマリー様との婚約者であったのは、今のシールド公爵か。何であいつがそんなに美化されているんだ?アンネマリー様にあんな態度をとっていたくせに。何度、彼女の悲しそうな顔を見たことか。暗殺の首謀者に報復したことは認めてもいいが…しかし、アイツだけは許さない。なんで生きている時に大切にしなかったんだ。

 思うところは沢山あるが、ここに来たおかげで、沢山の事が知れてよかった。シスターにお礼を言って、家路に着く事にした。
 今後この教会は、俺の遠乗りの定番ルートになるのであった。

 その後、侯爵家の跡継ぎとしての教育や、剣術など忙しく日々を過ごしていた俺は、あっという間に貴族学園の初等部に入学する歳になっていた。相変わらず、義妹とは最低限の手紙のやり取りだけだ。時々、義妹の得意の刺繍のハンカチなども送られてくる。その刺繍が、義母が自慢するだけあってすごいのだが。アンネマリー様も、刺繍が得意だったな…。
 義妹は貴族学園ではなく、選ばれた才媛だけが入学出来ると言われる、聖女子学園に入学するという。王都で一緒に生活するつもりでいた義両親は、ガッカリしていたが、あの学園に入学すること自体が名誉なので、そこは喜んでいた。

 貴族学園では、王弟の侯爵令息として、一目置かれるようになる。侯爵家は上位の貴族なので、その身分に媚びてくる、空っぽな令嬢たちは嫌になったが。その中に、あの大嫌いな従姉妹がいたのは驚いた。伯爵令嬢として、ある程度の教養やマナーは身についていると思っていたが、正直、伯爵令嬢という身分以外に、何の価値もない女のままであった。周りや本人に勘違いされたくないので、こっちが身分が高い事を利用して、徹底的に冷たくあしらい、義両親に話して、伯爵家に関わってこないように、注意してもらう事にした。前に大金を握らせ念書まで書かせていたので、その後は従姉妹から関わってくることはなくなったが、裏で俺に近づこうとする令嬢に、嫌がらせをしているとか、黒い噂を聞く事になる。しかし、表面的には王弟の義息子である私に伯爵令嬢が何か出来る訳でもなく、そのままうやむやに日々は過ぎていき、気がつくと、もうすぐ中等部に進級する時期になっていた。

 義妹は、辺境伯の令嬢と仲良くしていて、辺境伯領で魔物討伐に参加して活躍しているとか、得意の治癒魔法で沢山の騎士達を助け、聖女と呼ばれているようだとか聞いた。将来は騎士団に入団希望しているのかと思っていたが、聖女子学園で首席争いをしているとか、ピアノや刺繍など芸術も得意で稀代の天才と言われているとも聞く。義妹は何を目指しているのだろう。そんなに才能溢れているのに、王都に来ることを、何となく避けているようだし。勉強に集中したいから、侯爵家のタウンハウスではなく、学園の寮に入るとも言っていた。
 そんな感じで、今まで全く接触して来なかった義妹とは、入学式で初めて顔を見る事になったのだった。

 入学式で、新入生代表で挨拶をする人物の名前が呼ばれる。これは、クラス分けのテストで一位だった者が選ばれるのだが…

「新入生の挨拶。マリーベル・フォーレス侯爵令嬢」

 うちの家名が呼ばれている。新入生でトップだったのは、義妹だったようだ。本当に優秀なんだな。
 立ち上がりステージに向かう義妹を見て、驚いた。後姿がアンネマリー様と全く一緒だったのだ。背格好、髪、優雅な歩き方、全て。そして、ステージ真ん中に立ち、カーテシーをして挨拶文を読む声。読み終えた後、正面を見て微笑んだ顔。子息殺しと言われていた笑みだ。周りの子息たちが顔を赤らめるのが目につく。全てがアンネマリー様だった。驚愕して固まってしまっている自分に、横から友人の令息達が話しかけてきて、我に返る事が出来た。

「あの御令嬢って、義妹?すごい可愛いな。」

「婚約者とかいるのか?」

「紹介しろよ。」

 周りが煩い。義父にも言われていた。親バカだけど、マリーは可愛いから、虫除けよろしくと。
 その命令、しかと承りましたよ義父上。

 そして、ステージ横の来賓席にいた王太子殿下の存在を思い出す。妹のように可愛がっていた、アンネマリー様そっくりの義妹を見た殿下は、……固まっていた。どんな時でも胡散臭い笑顔を崩すことの無かった、腹黒殿下ですら固まってしまったのだ。これは、近いうちに王家で何か接触してくるかもしれないな。義妹は殿下の歳の離れた従姉妹になるわけだし。アンネマリー様生き写しのような義妹に、興味を持つに決まっているのだから。

 それより、義妹はアンネマリー様なのだろうか?筆跡やクッキーの味、得意の刺繍、馬車が苦手。そして、所作まで一緒。でもアンネマリー様だったとしても、記憶があるのかが分からない。もし、記憶があるなら、大好きだったスペンサー侯爵家の人達に会いたいだろうし、友人も沢山いたのだから、王都で生活したいはずだ。しかし、義妹は領地を好み、聖女子学園に進学し、長期休暇も領地と辺境伯領に行ってしまい、全く王都に近付こうとしなかった。
 解らないな…。とりあえず、今更だが兄弟として、仲良くなれるように接触してみようか。俺が近くにいないと、虫が色々な所から飛んできそうだからな。

 何となく過ごして来た学園生活が、義妹が入学した事で、波瀾万丈な日々になろうとしていた。
 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】 王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。 しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。 「君は俺と結婚したんだ」 「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」 目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。 どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します

佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚 不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。 私はきっとまた、二十歳を越えられないーー  一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。  二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。  三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――? *ムーンライトノベルズにも掲載

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語 母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・? ※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています

処理中です...