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マリーベル編〜楽しく長生きしたい私

閑話 守れなかった大切な人 1

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 その記憶が戻ったのは、両親と一緒に馬車事故に巻き込まれた時だった。

 両親と領地に行った帰り道、土砂崩れに巻き込まれてしまい、自分だけが生き残り、両親は亡くなってしまった。普通ならかなりショックを受けることなのだが、その戻った記憶が余りにも強烈すぎて、両親の死を上手く受け止める事が出来なかったのだ。

 それは事故に遭って瀕死の状態の時だった…



『アンネマリー様、ハァ…。貴女…に、おつ…かえ…出来て、し…あわせ…でした。』

『私も。ハァ…。アル…がいてく…れ…て、よかった…わ。…だいす…きよ。』

『俺…も、ハァ…。大好き…でし…た。…あな…たを、わす…れ…な…………  。 』

 その時も馬車の事故に遭い、その人を守れなかった。大好きで大切で、ずっと側で守りたいと思っていた愛しい人。
 今まで何で忘れていたのだろう…。


 両親が亡くなってすぐに、母の弟夫婦が爵位を継ぐ事になり、うちに引越して来た。
 10歳とはいえ、中身は成人の精神年齢だ。母と仲が悪かった叔父夫婦になんて、何の期待もしていなかった。両親を亡くし、叔父夫婦との関係も悪いなんて、普通の子供なら耐えられないだろうが、前世の記憶が戻った俺は、数年我慢して、騎士学校に進学して家を出ようと計画していた。早く家を出るには、それが一番だから。
 叔父夫婦だけでなく、叔父夫婦の娘である私の従姉妹も大嫌いだった。元々は子爵家の令嬢であった従姉妹は、甘やかされて育ったせいか、我が儘で太った令嬢だった。伯爵家の嫡男の俺を一方的に気に入ったようで、ベタベタして気持ち悪い女だ。
 ある日、叔父夫婦と一緒に家で生活し始めた頃、将来は従姉妹と結婚して、伯爵家を盛り立てて行くようにと叔父から言われた。冗談じゃない。なんでこんな女と!
 だったら、爵位は要らないので成人したら出て行きますと、無意識に言っていた。そこから、関係が更に悪化するのであった。
 こんな女より、アンネマリー様の事を調べたいのに。あの事故の後、彼女は生きているのだろうか?国内の貴族名鑑を見ても名前は載ってなかった。もしかしたら、隣国に留学した後、そのまま向こうで結婚しているかもしれない。誰かに聞きたいけど、叔父夫婦には聞けないし、王族の姫の事を簡単に聞くような事もできない。

 そんな時、母の従姉妹のフォーレス侯爵家で俺を引き取りたいと言ってきた。叔父夫婦は邪魔者の俺をあっさりと手放した。従姉妹は納得していないようだったが、自分の両親が決めた事なので、諦めたようだった。フォーレス侯爵は、この叔父夫婦に対して、大金を渡し、二度と俺に関わらないという念書まで書かせたようだった。それくらい、この叔父夫婦は信用できない人物なのだろう。叔父夫婦は大金に目が眩んで、黙ってサインしたらしい。しかし、これのおかげで、あの大嫌いな叔父夫婦と従姉妹との縁が切れるのだから、有難いと思った。

 フォーレス侯爵は国王陛下の弟で、かなり力を持つ人物のようだ。そしてアンネマリー様の叔父でもあり、アンネマリー様と同じ髪と瞳。彼女のことは、侯爵に聞けばいいのだろうが、俺が聞いたら何故そんなことを聞くのか、不審に思われそうで、聞けなかった。
 フォーレス侯爵夫人は、亡くなった母と姉妹のように育って、とても仲が良かったらしく、もしうちの両親に何かあれば、俺を引き取る約束までしていたらしい。
 そんな家に引き取られた俺は、とても大切にしてもらえた。こんなに大切にして貰えているなら、その気持ちに応えたいと、勉強も剣術も、侯爵家の人間として恥ずかしくないように、頑張るようになった。

 そして、もう一つ気になる人物がいる。フォーレス侯爵夫妻の実の娘で、俺の同じ歳の義妹だ。以前は体が弱かったらしいが、最近は剣術や馬術、魔法などを嗜むくらいには元気になったらしい。しかし馬車が苦手で長距離の移動が難しいので、領地で生活しているようだ。大嫌いな従姉妹の存在のこともあり、仲良くしたいとかいう気持ちはなく、期待もしていなかった。養子の俺の存在も、邪魔に思っていてもおかしくはないのだし。しかし、大切にしてくれているフォーレス侯爵夫妻の為に、表面上だけでも上手くやるようにはしたいと考えていたのだが…。義妹から俺に届いた手紙を読んだ俺は驚いてしまう。手紙には、俺に侯爵家を継いでもらいたいとハッキリ書いてあった。どういう事なのか疑問に思い、義父の侯爵に手紙の事を聞いてみると、義父の手紙にも書いてあったようで、よっぽど家を継ぎたくないようだから、義兄が出来て喜んでいるようだと。しかも義両親には、俺が傷ついているから、大切にしてやるようにとか、私よりも優先しろだとか会う度にキツく言われるようだ。優しい子なのか、不思議な子なのか分からないが、悪い子ではなさそうだ。
 そして特に気になる事がある。義妹から届いた手紙の字は、偶然なのかアンネマリー様の字によく似ている。一緒に届けられたクッキーも、かつてアンネマリー様が手作りしてくれた物と同じ味がするのだ。もしかして……。いや、それはまだ、分からない。アンネマリー様は生きているかもしれないし、まずはそれを調べてからだ。

 義両親が領地に行っている間、ふと思い出した。スペンサー家の近くの教会のことを。スペンサー家の代々のお墓もそこにある。この邸からも単騎なら、そんなに時間がかからないはず。そこに行けば、何か手掛かりがあるかもしれないと思った俺は、偶には遠乗りに行きたいと家令に頼んでみた。護衛を連れて行くならと許可を得たので、護衛を連れて、その教会に行くことにした。

 かつて、アンネマリー様が高熱で生死を彷徨った際に、弟のフィリップ様と毎日祈りを捧げにきていた教会だ。ここはあの頃と何も変わっていないな。時間が止まっているようだ。
 護衛には、教会の入り口で待ってもらう事にして、1人で中に入っていく。教会の裏には墓地が広がっている。スペンサー侯爵家の場所はスペースが広くなっているので、すぐに分かった。

 そこには、沢山の花が手向けられていた。



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