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マリーベル編〜楽しく長生きしたい私

閑話 彼女の為に出来ること

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 アンネマリーが息絶えた後、すぐに悲しみが激しい怒りに変わっていくのがわかった。

 この怒りが、不思議と冷静さを取り戻す。今は感情を殺せと本能が訴えているようだ。

 これはアンネマリーを亡き者にしようとした者がいるに違いない。そう思った私は、すぐにエリックに依頼し、王都騎士団長にこの事故について地元民と、ここにいる騎士団のメンバーに箝口令を敷くよう伝えてもらうことにした。

 事故なんて滅多に起きない道で、侯爵家の優秀な御者が、手入れの行き届いた立派な馬車での不自然な事故。助けたくても、なかなか開かないドア。

 思考を巡らせているところに、アンネマリーの母である侯爵夫人が馬車で駆けつける。私はすぐに侯爵夫人に跪く。

「お願いがあります。…これはただの事故ではありません。私がこの事件を調べることをお許し頂きたいのです。アンネマリー嬢の無念を晴らしたいのです。お願い致します。どうか…。」

 侯爵夫人は少し沈黙した後、

「……分かりました。王家と侯爵には私から話をしましょう。ただし……、失敗は許さなくてよ。」

 愛する娘が亡くなったのだ。泣き叫びたいのを堪えているのだろう。赤い目をして、ハンカチを強く握りしめながらも、毅然とした態度をとる侯爵夫人。さすが王族だ。

 侯爵夫人に頼み、アンネマリーの亡骸は、一度侯爵邸に運ぶ事にした。まだ生きていたと言うことにして。
 亡骸が傷まないように、侯爵夫人から保護魔法を掛けられたアンネマリーは寝ているようであった。

 侯爵夫人から王家に頼んでもらい、アンネマリーは事故で軽い怪我をしたので、数日自宅療養し、その後、隣国に旅立つ予定であると言う噂を流して貰った。また、王家に直接仕えている精神干渉と洗脳が得意な魔導師を派遣してもらう。
 アンネマリーの部屋のベッドに亡骸を運び、知らない者から見たら、アンネマリーがベッドに寝ているように見える状態をつくって、ネズミが来るのを待つことにした。

 三日後の深夜、ネズミが来たようだと影から報告があり、アンネマリーの部屋で隠れて待つ。アンネマリーのベッドに近づくネズミを背後から襲い、生捕にし、自白剤を飲ませて誰の差金か喋らせた。
 雇われた暗殺者のようで、依頼者については詳しくは知らされていないようだ。眠る様に死にゆく、遅延性の毒を使って暗殺がバレないように殺したかったようで、どうやら隣国の貴族が関わっているようだ。
 さすが薬学の進んだ国。厄介な毒を持ち込んでくる。

 アンネマリーが、隣国に旅立つ前のタイミングで起きたので、予想はしていたのだ。事故に見せかけつつ、暗殺してでも隣国に来て欲しくない者の犯行だと。
 侯爵令嬢とは言え、国王陛下の姪に手をだすなんて、一歩間違えば戦争になってもおかしくないというのに、そこまでしても殺したいという強い殺意が感じられる。
 
 王家から派遣された魔導師に指示し、暗殺者には、アンネマリーの暗殺に成功したと思い込ませ、自白剤を飲まされたことなどは、綺麗さっぱり忘れさせた。更に酒に酔って、飲み屋で寝てしまったような状態にして、放置した。
 そして酔いから覚め、動き出した暗殺者を、優秀な影2名に追わせ、探らせることにしたのだった。

 約2週間後、影が無事に戻ってきた。暗殺者を尾行し、仲介者を掴み、更に暗殺を依頼した者へ辿りつくと…、隣国の公爵令嬢のメイドだとわかったのだ。

 公爵令嬢のメイド?令嬢に命令でもされたか。更にその公爵家を調べる。
 公爵は元々は自分の妹を、国王陛下に嫁がせたかったが、当時、王太子殿下だった国王陛下が、うちの国に外遊に来た際に、美姫と呼ばれていた第一王女に一目惚れし、すぐに婚約・結婚と至ったことで、叶わなかったようだ。
 そして、今度は自分の娘を王太子殿下に嫁がせようと躍起になっていると言う。貴族派の派閥のトップのような存在で、王家からは警戒されている家門。
 娘の公爵令嬢は表面的には、完璧な淑女と言われていて、今の王太子殿下の婚約者候補の一人であるらしいが、他の婚約者候補を陥れたりしていると言う黒い噂がある。公爵家という身分があるので、はっきりした証拠がないと罪に問えないので、王家も対応に困っているらしい。

 ああ、そう言うことか。

 美しくて聡明なアンネマリーが隣国に来られると、自分の地位を脅かす可能性があるから、邪魔になる前に消えて欲しかったと。かつて国王陛下が王妃殿下に一目惚れしたように、王太子殿下がそうなる前に排除してしまえと。流石に王妃の姪に、手を出すことは出来ないので、自国に来る前に始末してやろうと。
 そう言うことなのだな。

 ……許さない。


 
 捜査が一段落したので、やっとアンネマリーをおくることになった。
 今まで表面上は平穏な侯爵家を装っていたのだが、ここに来て深い悲しみに包まれることになる。
 
 まだ事件の解決はしていないので、アンネマリーの死因については、事故の後、自分を庇って亡くなった護衛騎士に心を痛めて、衰弱して亡くなったということで侯爵家から世間に知らされることになった。

 そして、教会でアンネマリーの葬儀が行われる。

 目を腫らした、顔色の悪いアンネマリーの親友やクラスメイト達が沢山参列していた。国王夫妻と王太子殿下とマディソン、ファーエル公爵令嬢とその友人達も。
 
 最後のお別れの際、花と一緒にあのブローチを柩に入れる。結局、直接渡すことが出来なかった。しかし、これはアンネマリーのためのもの。アンネマリーが要らないと言おうが、周りがどう見ていようが関係ないのだ。
 私の心はアンネマリーのものなのだから。

 アンネマリー、またいつか君に会いたい…。

 悲しみの中、葬儀を終えた。



 それからしばらくして…

 貴族学園の卒業を迎えた私は、隣国へ旅立つ事になった。

 旅立ちの前日、王太子殿下に呼び出される。

 執務室に入ると、そこには王太子殿下の他に、マディソンと、ファーエル公爵令嬢がいる。

「明日、旅立つらしいけど、気をつけて行ってきてね。隣国の王太子殿下である、私の従兄弟殿が協力してくれることになっているから。君は東国の貴族が亡命してきて、剣の腕を見込まれて、王太子殿下の護衛の一人になったと言うことになっているからね。東国は隣国とは直接国交が無いし、今は内戦中だから、周りにはバレないと思うよ。王太子殿下の近くにいれば、あの公爵令嬢に近づく機会があるだろう。」
「それと、王家の優秀な魔導師を付けるから。この前の暗殺者の時に活躍した魔導師と、戦闘に特化した魔導師の2人ね。その2人を付けるくらい、あの公爵は強者らしいから頑張ってきて。あっ!毒には気をつけてね。伯母上も苦労したらしいから。」

 王太子殿下が腹黒の笑みを浮かべている。殿下が色々と配慮してくれたお陰で、私は隣国に行けるのだ。可愛がっていた、アンネマリーの為にここまで動いてくれたのだろうな。

 そして、マディソンからは封筒が渡された。

「あの公爵家の詳しい情報だ。公爵家の人物の生育歴から、分家の人物、同じ派閥の貴族と、愛人たちの誕生日まで調べておいた。公爵家と敵対する派閥から得たものだが、知っていた方が動きやすいだろう。それと私も近いうちに隣国に留学するが、随分前から決まっていた留学なので、今更身分を偽れない。恐らく、その公爵家からは警戒される立場になるから、君と直接話す事は出来ないだろう。しかし、宰相家の影を連れていくので、何か情報を得たら影を遣わすようにするよ。」

 マディソンからここまで話をされるのは初めてだが、正直、心強いと思った。

 ファーエル公爵令嬢は、色褪せた本をくれた。何だこの本は?

「それは、子供の時にアンネマリーが私にプレゼントしてくれた本ですの。その物語の中に出てくる騎士様が、アンネマリーは大好きでしたのよ。」
「公爵令嬢の懐に入りたいなら、その物語の騎士様くらいにならないといけませんわ。」
「その本はアンネマリーの形見の本ですから、帰国した時に必ず返しに来てくださいませ。」

 必ず生きて帰って来いってことだな。
 それにしても、アンネマリーが好きな騎士様か…。


 次の日、私は魔導師や公爵家の影を伴い、遠回りして、隣国へ旅立つのであった。
 
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